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【2024/11/29書籍①発売】無理ゲー転生王女(クソゲー悪役令嬢外伝)~隣国王子に婚約破棄されたけど、絶対生き延びてやる!  作者: タカば
転生王女は家族を守りたい

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女神の「めいっぱい」の祝福(第二章完結)

「お前たち、ここに集まってたのか」


 部屋に入ってきたのは、レイナルド兄様だった。その後ろには騎士団長のダリウス卿の姿もある。彼らはそろって、外套を羽織っていた。


「視察中に、サラが産気づいたと知らせを受けて、大急ぎで帰ってきたんだが……状態は?」

「今頑張ってらっしゃるところです」

「そうか」


 レイ兄様はドカっとあいた椅子に座った。

 ディーがレイ兄様とダリウス卿にもお茶を差し出す。兄様はぐいっとお茶を煽ったあと、息を吐いた。


「暗殺者を捕まえたとも聞いたが」


 ジル兄様が礼儀正しくうなずく。


「はい、以前から城内で事故を引き起こしていた侍女を拘束しました」

「……情報はとれたか?」

「いえ」


 ジル兄様は首を振る。


「拘束されたことに気づいた直後、自死を謀られました。生きてはいますが、尋問できるかどうかは、ちょっと……」

「ずいぶんと潔いな」

「おそらく、イースタンとアギトがらみです。死に方が偽イーリス姫たちとそっくりなので」

「あいつらか」


 レイナルド兄様の顔が、苦虫をかみつぶしたようなしかめっつらになる。


「そのあたりの細かいところは、俺も見る。あとで詳しく報告してくれ」

「かしこまりました」


 ジル兄様が頭をさげ、ふと会話が途切れた時だった。

 隣の部屋から女性のうめき声が響いてくる。


「……大丈夫なのか」

「うーん」


 兄に心配そうな顔を向けられて、私たちも困り顔になる。

 なにしろこの部屋にいるのは、未婚男女ばかりなのだ。私もジル兄様も、もちろんルカもお産に立ち会った経験はない。唯一妻子もちなダリウス卿も、どう発言していいのかわからないみたいで、むっつりと黙っている。


「大丈夫だと思いますよぉ」


 沈黙を破ったのは、ユルい声だった。

 運命の女神が、ひとりだけ場違いなくらいのんびりとくつろいでいる。


「サラさんからは、死の運命が見えませんから」

「なるほど?」


 そうだ、女神は私に縁のある者の運命がわかる。

 お腹の中の赤ちゃんと重なってるせいでブレる、とは言ってたけど、彼女は一度も『サラさんに死の運命が見える』とは言ってなかった。

 運命の女神が死を予言しないということは、つまり。


「コレット、お前何を見てるんだ?」


 レイ兄様が眉をひそめた。

 そういえばレイ兄様には女神のこととか、細かいことは報告してなかったなあ。ここに運命の女神がいるって、宣言しちゃっていいんだろうか。

 ダリウス卿も信頼のおける騎士団長なんだけど。


「えっと……」


 言葉を探して、言いよどんだときだった。


「ううううっ!」


 隣の部屋から、ひときわ大きなうめき声が聞こえてきた。レイ兄様がたまらず腰を浮かす。

 そして次の瞬間、ほぎゃあ、という大きな産声が響いてきた。

 ああ、ああ、と赤ちゃん特有の泣き声が何度も続く。


「あ……」


 バタバタと足音が響く。助産師たちが、部屋から出て来たようだ。

 そのうちのひとりが、私たちのいる部屋のドアをノックした。


「失礼します!」


 飛び込んできた助産師の顔は、興奮と喜びで真っ赤だ。


「お世継ぎが産まれました! 元気な男の子です!!」

「は……」


 レイ兄様は、立ち上がったまま硬直してしまった。

 ぽんぽん、とダリウス卿が後ろから肩を叩く。


「陛下」

「あ、すまん、ちょっと」


 助産師が笑顔でドアを大きくあける。


「王妃様とのところへご案内します。王子殿下にお父様のお顔を見せてあげてください」

「父……そ、そうか。そうなるのか」


 レイナルド兄様は、あわてて隣の部屋へと向かっていった。

 私たちは座ったまま、兄様の背中を見送る。今は夫婦、親子水入らずで過ごすべき時だ。


「第一子で王子かあ。これでサウスティ王室は安泰だな」


 ルカがほっとした顔で笑った。

 ここまでつきあった以上、彼にも他人事とは思えなかったらしい。


「安泰どころの話じゃあありませんよ」


 ディーの低い声が部屋に響いた。

 彼はなぜか眉間にくっきりと皺を寄せて、サラお義姉様たちがいるはずの、隣の部屋につながる壁を見つめている。

 そして、運命の女神もまた同じ方向を見つめていた。


「彼が王位を継ぐ限り、この国がなくなることはなさそうですねえ」

「なぜ、そう思うのです?」


 ジル兄様は不思議そうに女神を見た。彼女はあいかわらずにこにこしている。


「だってあの子には、めいっぱい祝福を授けてますから」

「めいっぱい……?」


 私は首をかしげた。

 産まれたばかりの甥っ子に、女神が個人的に肩入れする理由なんてあったっけ?

 聖女の血縁だけど、そんなことしてもらえる理由が見当たらない。

 はああ……とディーがまた嫌そうにため息をついた。


「コレット様は覚えてらっしゃるでしょうか。私の体の素体となった神官のことを」

「ああ……そういえば、アクセル王子に殺された神官の体を使って、ディーを作ったのよね」

「もともと体に宿っていた魂を、どうしたんでしたっけ」

「めいっぱい祝福を与えて輪廻の輪に戻したって……あれ?」


 この世界には輪廻転生が現然たる法則として存在する。

 死んだ者は、また新たな人間として生まれ変わるのだ。

 殉教した神官もまた、いつかは生まれ変わる。

 その誕生日が今日でも、母体がサラお義姉様でも、おかしくはない。


「え、あの王子の前世って、死んだ神官なのかよ?」

「ですです!」


 ルカの問いに、こくこく、と女神が激しく同意する。

 ディーが眉をひそめながら補足する。


「これだけ何度も命を狙われていて、王妃が怪我ひとつしてないわけですよ。お腹に宿した子供が、とんでもないレベルで運命の祝福を受けているんですから」

「もしかして、暗殺者がコケて瓦礫の下敷きになったのって……」

「お守りの効果もあったでしょうが、ほぼ祝福の加護ですね」


 ディーは肩をすくめた。


「スキル:豪運。おそらく彼は運に関することで負けることはないでしょう」

「それは、与えていい祝福なのかな?」


 人間はちょっとした不運や挫折を味わって成長するものだ。

 何をやっても必ずうまくいく人生は、それはそれで危険なのではないだろうか。


「そこも含めて、悪落ちしないよう補正がかかってるはずです。ご心配なら、私も時々彼の動向はチェックしておきますよ。女神ひとりの価値観で祝福を与えたら危険なのは、重々承知しておりますから」

「お願い、ディー」


 女神の力の制御なんてことができるのは、ディーくらいのものだろう。

 ここは彼にがんばってもらうほかない。


「まあ、元気に育ってくれそうならそれでいいじゃない」


 へにゃ、とジル兄様が力なく笑った時だった。


「コレット様、こちらにいらっしゃいますでしょうか」


 コンコン、と小さくノックして侍女のひとりが入ってきた。彼女の手には銀の盆が握られている。その上には封書が一通、載せられていた。


「どうしたの?」

「ファトム教主国よりお手紙です」

「ふぁとむ……?」


 確かに手紙の封蝋には、教主国を示す天秤の紋章が押されていた。

 私は首をかしげる。


「なんで?」


 深窓の姫君として育った私に、教主国との接点はほとんどない。公務としてたまに神殿で礼拝するくらいだ。

 しっかり神官に祝福してもらったのなんて、生まれた時と成人式。それから台無しにされた結婚式の時くらいだ。

 銀の盆を持つ侍女も困惑気味に眉をひそめる。


「なんでも、大至急の用件だとか。この手紙自体も、早馬で届けられました」

「よっぽどの重大事なんだね」


 そこまでして伝えたいことがあった、ってことなんだろうけど。

 やっぱり心当たりがない。


「開けてみたら?」


 ジル兄様がのんびりと言った。

 確かに、中を見ないと用件がわからない。

 私はもう一度宛名を確認してから封書をあけた。そこには、美々しい筆跡で長々と文字がつづられている。


「うん……?」


 読み進めるうちに、私はまた首をかしげてしまった。


「何て書いてあったの?」


 ジル兄様が立ち上がって、私の手元を覗き込んできた。私は手紙をくるりと回して、兄様に見せる。


「ファトム教主国の選出した聖女を差し置いて、運命の女神の聖女を名乗るなどけしからん。異端審問にかけるため、サウスティ王女コレットを教主国に召喚する、だって」

「異端審問!?」


 それを聞いて、一番驚いたのは運命の女神だった。

 なんで女神本人がここにいるのに、異端審問にかけられなくちゃいけないんだよ!?

 私たちはいっせいに顔を見合わせた。

というわけで、無理ゲー転生王女第二章完結です。

次章は、「ファトム教主国異端審問編」になります。女神から指名を受けて聖女になったのに、異端扱いされるなんてどういうことだよ!

次章もジタバタ奮闘予定なので、連載再開をお楽しみに!


【情報解禁】

クソゲー悪役令嬢コミック版が5/20より連載開始!

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そして2025年3月28日「クソゲー悪役令嬢⑥」が発売されます。

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