運命の女神の未来予想
「あの……運命が見えるという件について、ご説明いただけませんか」
ジル兄様がふたたび女神に質問した。
女神はにこにこ笑って説明する。
「現在位置や、移動の目的地。その時の状態などをなんとなく感じる能力ですね。今だと……オスカーさんは自室のすみっこで膝を抱えてますね」
「その報告はいらないかな」
なぜここでわざわざオスカーの運命を見ようと思った。
一番聞きたくない情報である。
「サラ王妃は、離れの部屋から出たところですね。兵に警備されながら、外を散歩するようです。妊婦にも運動は必要ですから」
「お腹の子供の状態はわかりますか?」
兄様の質問に女神は口を曲げる。
「う~ん、難しいですね。胎児は母親の魂とダブって見えちゃいますから。時期によっては、魂がまだ定着してなくて、そもそも運命が紐づいてなかったりするんです」
「サラ義姉さんの運命から、犯人をたどるのは難しいかな……」
「じゃあ、犯人そのものは?」
尋ねたら、むむむ、とさらに眉間に皺が寄った。
「邪神の力と、私の力は相性が悪いんですよ。エメルさんもそうでしたけど、ああいう邪神の支配を強く受けてる方の運命は見えません」
「そうなんだ」
「実際、襲われるその瞬間まで、エメルの行動は全然見えてなかったからなあ」
国境近くで獣人をけしかけられた時のことを思い出す。
女神に邪神側の運命が見えるのなら、もっと早いうちからエメルの意図に気が付いて警告できてたはずだ。
「義姉さんの運命は見えにくい、そして邪神の依り代の運命は全く見えない、か」
ジル兄様は腕を組んで、ううんとうなる。
私も同じポーズを取りたい気分だ。
使えそうな道具があるのに、うまい使い方が思いつかない。そんな感じで、なんだか気分がしっくりこない。
「……逆に使うのはどうでしょうか」
ディーがつぶやいた。
「逆、ってどういうこと?」
「ここはサウスティ王城です。勤める者はすべて、王女であるコレット様に縁のある者と言えます」
「城勤めの人間は、『王家』に仕えてるもんね」
全員の主は国王のレイナルド兄様だけど、妹の私も王族、関係者だ。
「で、あるならば、運命の女神には城に勤める者全員の運命がわかるはずです」
「まあ……ちょっと範囲が広いですけど……私の力の定義上は、間違ってない、かな?」
ディーの推測を、女神がなんとなく肯定する。それから、ぎょっとした顔になった。
「え、まさか、城の人間全員の運命を見ろとか言ってます?」
顔を引きつらせてディーを見る様子は、どっちが主でどっちが眷属かわからない。
ふん、とディーはあきれのため息をつく。
「個別に詳しく見ろとまでは言ってませんよ。とにかく、運命が見えるか見えないか、それだけわかれば十分です」
「ディー、何をしようとしてるの?」
私がたずねるとディーが肉球を見せつけるようにして前脚をあげた。
揉みたい。
いや本人は、人間が手を挙げるしぐさをしてるだけだって、わかってるんだけどね。
「この城に勤める人間は、本来全員運命が見えるはずです。しかし、その中にひとりだけ、見通せない者がいたとしたら?」
「邪神の支配を受けている、つまり依り代ってことになるわね」
ジルベール兄様はふむふむとうなずく。
「それだけで犯人と決めつけることはできないけど、邪神の支配を強く受けているという時点で、十分拘束理由になるね。やってみる価値はあると思う」
ディーは女神を見上げた。
「とにかく、かたっぱしから城内の人間をサーチしてください」
「わかりました、やってみましょう」
女神はソファの上であぐらをかくと、両手の人差し指を額に当てて目を閉じた。
何、そのトンチキポーズ。
それが運命を見通す正式ポーズなの?
どこからかポクポク木魚の音が聞こえて来そうな雰囲気なんだけど、それでいいの?
私の困惑はそっちのけで女神は目を閉じたまま、何かを念じる。
「ん~~~~~~」
「どう、ですか?」
ジルベール兄様が、女神の顔をおそるおそる覗き込んだ。
「ディーの言う通り、この城の人間は、ほぼ全員なんとなく運命が見える状態ですね。この子もOK、あの子も……うん、大丈夫。何頭か運命の見えない馬がいるけど、これは遠征先で徴収した子ですかね」
「動物まで見なくていいですから。人間を優先させてください」
「いや芸を仕込まれた忍犬とか、ネコに変身した獣人とか」
「私以外にそんな存在いるわけないでしょうが」
何の話をしてるんだ、この女神と眷属は。
「あのー?」
「あ、ごめんなさい。人の運命ですよね。え~と、あ、こっちのブレて見えるのはサラさんか。周りの侍女はOK、警備兵のみなさんもOK……んん~?」
女神が目を閉じたまま渋面になった。
「どうしました?」
「……運命の見えない侍女がいる」
さっと部屋に緊張が走った。
「髪の色はブラウン。建物の陰からサラさんの様子をうかがってるみたいだけど、それ以上のことは見通せないなあ……うーん」
「ブラウンの髪の侍女? 誰だろう」
私のストロベリーブロンドとは違い、濃い髪色の人間は多い。その程度の情報じゃ手がかりにもならない。
「年齢は三十台前後。落ち着いてて侍女のお仕着せを着慣れてる感じですから、勤務歴は長そうですねえ」
「その情報も微妙に手がかりになりませんね。名前とか、顔とか共有できないんですか」
「だから、見通せないのがその人なんですってば」
ジルベール兄様が立ち上がった。
「そこまでわかれば十分です。サラ義姉さんのところに行こう」
「え」
「女神様、その女性は今まさに、義姉さんのそばに隠れているんですね?」
「そうですよー」
「位置がわかるなら、現場に行って拘束すればいい。あとの理屈は俺がどうにかする!」
言われてみればそうだ。
私たちは、部屋から飛び出した。
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