女神再降臨
「何が?」
「だって、そいつ記憶がいじれるんだろ? 事故だなんだって、小細工してないで、一気にぐさっとやっちゃえばいいんじゃねえの」
待って十歳児。
その可愛い顔でなんて物騒なことを言い出すの。
言ってることは、もっともだと思うけど。
「依り代には人ひとり殺すだけの力がないのかもしれないね。抵抗する人間から命を奪うのって、結構重労働だから」
つい先日まで、国境の最前線で騎士たちの総大将をつとめていた王弟はへらりと笑う。
ディーも静かに考えを巡らせた。
「それに、階段や食事の小細工ならともかく、直接殺害は多くの証拠が残ります。記憶がいじれるといっても、それらすべてを消し去るほどの力はないのでしょう」
「非力で、小細工しかできない人間、ってことなのかな」
「騎士ではなさそうね」
依り代自身に戦う力があるのなら、こんな回りくどいことはしないはずだ。
「侍女や使用人を中心に考えたほうがいいのかもしれない」
「でも、ここに勤めてる使用人って、めちゃくちゃいるだろ」
「まあ……下働きもいれたら百人はくだらないねえ」
うちはただのお屋敷ではない。
大国サウスティの政治を担う王城だ。文官も含め、非戦闘要員の数は多い。
「数が多すぎるのは変わんねえか」
「女神の力で見つけるのは無理、なのよね?」
私はディーを見た。子ユキヒョウはこくんとうなずく。
「物に加護を加えたりするのは得意ですが、犯人当てのようなような奇跡は苦手ですね」
「あれ? でも、獣人に追われてたときにオスカーを見つけてなかったか?」
ルカが口をはさむ。
いわれてみれば、そうだ。
あの時女神は何と言ってオスカーのところに導いていたんだっけ。
「私は、運命の女神ですからねえ。コレットさんを中心に、縁のある人間の運命がなんとなく見えるんですよ」
唐突に、すぐ隣からのんびりした声がかかった。
ふりむくとパーカー姿の運命の女神がソファでくつろいでいる。
「いつの間に!?」
「神様ですからね。姿を見せてないだけで、だいたいいつも存在してますよ」
「何その哲学的な存在観」
ディーが女神を見上げる。
「もうしばらく休眠する約束じゃありませんでしたか?」
「ロボットは格納してありますし、少しくらい力を消費しても事故は起きませんよ。これくらい多めに見てください。私も寝てるばっかりじゃ退屈なんです」
ぷう、と女神はかわいらしく頬をふくらませた。
出てくるたびにトラブルを起こしまくっている女神に言われても。
案の定、ディーは疲れたため息をつく。
「できるだけ、最低限でお願いしますよ」
「はーい」
「あの、運命がなんとなく見える、とは?」
ジル兄様が女神に話しかけた。それを見てルカが目を丸くする。
「あんた、女神が見えんの?」
「実はちょっと、コレットと車に乗ってる時に……」
女神は、ぽんと手を叩く。
「そういえばジルベールさんは見えるようにチューニングしてたんでした。元に戻しておきましょうか?」
「い、いえ! 必要ありません!」
ジル兄様はぶんぶんと慌てて手を振った。
「女神様の御尊顔を拝する栄誉を奪わないでください。家族の中に事情を知る人間がいたほうが、妹も心強いと思いますし」
「それもそうですね。ではこのままにしておきましょう」
女神はにこにこ笑っている。
私も、ジル兄様と秘密を共有できるのは楽でいいから反対しなかった。放っておいても、特に力は消費しないみたいだし。
「俺にはそのチューニングってやつはしてくれねえの?」
ルカの主張に、女神はこてんと首をかしげる。
「ルカさんには、私が直接言葉を授けなければならない因果が見えませんねえ」
「必要ないって」
「え~また俺だけ仲間外れかよ!」
ルカが唇をとがらせた。
「見えたらいいってものでも、ないと思うよ?」
パーカーデニムのゆるゆる女神とか、信仰心が薄れることうけあいでる。
運命の女神を信仰したいなら、見ないことをお勧めする。
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