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「ジル兄様」
「ジルベール殿下、こんにちは。どうされましたか?」
砕けた口調でもいい、と言われてはいるものの、ややかしこまった様子でルカが挨拶をする。ジル兄様はへにゃ、と笑った。
「急に来てごめんね。妹の部屋に行ったら姿がなかったから、ここかなって」
どうやら、ルカではなく私に会いに来てたらしい。
「兄様……あの、私」
まさか、兄様までオスカーと結婚しろと言いに来たんだろうか。警戒する私を見てジル兄様はますます眉を下げる。
「あーオスカーのことは、コレットの好きにしていいから。もともとうまくいくと思ってなかったし」
「そうなの?」
驚く私に、ジル兄様はこくりとうなずく。
「事務的に手続き進めようとしてた兄上に、『コレットが求婚を受けたら』って条件つけたのは、俺だよ」
「ありがとおおおお……兄様ああぁぁ」
兄のナイスフォローに感謝だ。
「俺がコレットのところに来たのは別件。サラ義姉さんのことだ」
「何かわかった?」
「ちょっとね」
「あの、俺の部屋で話していいことです? それ」
ルカが困惑気味に口をはさんだ。
おっと、そういえばここは外国の王子のための部屋だった。王妃暗殺未遂事件の話をしていい場所じゃなさそうな気がする。
兄様はまたへにゃ、と気の抜けた笑顔になった。
「ところが、実はここが一番話しやすい場所だったりするんだよねえ」
「どういうこと?」
ジル兄様が肩をすくめる。
「サラ義姉さんの話を聞いて、城内の聞き込みをしてきたんだけど、びっくりするほど容疑者が見つからなくてさ」
「あの……?」
ルカが怪訝な顔でジル兄様を見る。兄様はにこっと笑った。
「実は、城内に妊娠中の王妃を狙った暗殺者がいるみたいなんだ」
「うわあ、聞きたくねぇ!」
「城勤めの全員が怪しくてさあ。外国からコレットが連れて来た君くらいないんだよね、完全に部外者で犯人じゃないって確信できるの」
「話しやすいって、そーゆー意味かよ!」
ルカは声を上げるけど、ジル兄様は笑ったままだ。
「俺が追加で派遣されてきた暗殺者っつー筋は?」
「無理でしょ。そもそも、妹が君を連れて国境超えてきたのが奇跡みたいなものなんだから。意図的に仕込むなんてありえない」
「確かにそーだけどな」
さすがに、ルカ暗殺者説は無理がありすぎるだろう。
「容疑者が見つからない、ってどういうことなの?」
私はジル兄様を見上げた。
「事故の状況をひとつひとつ調べてみたんだけど、どこの現場でも証言が途切れるんだよね」
「途切れる?」
「罠が仕掛けられたその瞬間だけ見張りがよそ見してたり、備品に細工された日に限って侍女がチェックしてなかったりするんだ。で、その時の状況を詳しく聞いてみても、何もわからない。前後の記憶が一切ないんだ」
「記憶が、ない?」
ジル兄様は首をかしげる。
「それも一件や二件じゃない。サラ義姉さんの事故関係者のほとんどがそう」
「……それって」
「邪神の呪いかもしれませんね」
子ユキヒョウが、すっと前に出た。
「邪神? もしかして、アギト国で崇拝されている神のことかい?」
「兄様は、夢物語って思うかもしれないけど……」
「運命の女神がいるのなら、邪神も存在するかあ」
へにゃ、と兄様は眉をさげた。
そういえば、ジル兄様だけは運命の女神様を直接目撃してるんだったね。
ルカも今までのことを思い返すように天井を見上げる。
「呪いのコメやダイズを流通させるくらいだもんな。見張りや侍女の記憶をいじるのなんて、簡単か」
「邪神自身は力が強すぎて、国外に降臨するのは不可能です。おそらく犯人は強く邪神の支配を受けた人間でしょう」
「エメルみたいな?」
「おそらく」
ディーは丸い頭をこくんと上下させる。
彼女は、イースタン王宮を丸ごと洗脳して裏から操っていた。人間ひとりができることじゃない。呪いの食糧など、邪神から多くの力を授かっているはずだ。
「ここではそうですね……依り代とでも呼びましょうか。邪神から力を授かった者が、周りの記憶を操作しながら暗躍しているんでしょう」
「厄介だね……」
ジル兄様は眉をひそめた。
「記憶を操作されたんじゃ、手がかりがつかめない」
ここは科学が未発達なファンタジー世界だ。監視カメラも科学捜査技術も存在しない。犯罪者を検挙するために一番重要な手がかりはどうしても、目撃証言などの人の記憶になってしまう。
そこがいじられてしまうとなると、捜査はお手上げ状態だった。
「変だな」
話を聞いていたルカがぽつりと言った。
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