モテないお姫様
「おかえりなさいませ、コレット様」
自室に戻ると、先に戻っていたディーが次の間で出迎えてくれた。私のそばに誰もいないのを見て、きょとんとした顔になる。
「オスカーはどうされました?」
「置いてきた」
「しかし………」
「ちょっと来て」
それだけ言って、寝室に入る。子ユキヒョウはおとなしくあとからついてきた。
ドアを閉めてから、ベッドに座る。
「こっち」
ぽんぽんとベッドを手で叩く。そこに来い、と命じられたディーは怪訝そうな顔になった。
「しかし……」
成人男性をベッドに誘うなとか言いそうだなあ。でも、今はそんな意見を聞く余裕はない。
「いいから。こっちきて、大人のユキヒョウの姿で、ぎゅってして」
「……」
ディーは何も言わずに姿を変化させると、ベッドの上にあがってきた。そのままごろりと横になる。私はその体に抱き着いた。
「……何があったんですか」
「オスカーにプロポーズされた」
「……なるほど」
思えば、レイ兄様のディー個人の呼び出しは、彼を私から引き離すのが目的だったんだろう。男の従者が同席している場で告白なんてできないから。
私はディーのふわふわの胸毛に顔を埋める。
「婚約破棄されて帰ってきた私を、レイ兄様が国外に出したくないからって。騎士団長の家に嫁いだら、もう外に出る必要はなくなるからって……」
きゅ、とディーの前脚が私の背中を抱く。
「受けるんですか、プロポーズ」
私は首を振った。
「もう断ってきた」
「……ひとりで戻ってきたのは、そういうわけですか」
「聖女の天啓を受けた私が、国に閉じこもっててどうするの。安全かもしれないけど、そんなの、じわじわ世界が滅んでいくだけだわ」
「……そうですね」
「それに」
私は大きく息を吸い込む。
猛獣のはずのユキヒョウは、相変わらず花のいいにおいがした。
「紫苑の記憶を思い出した今の私の恋愛観は、現代日本人なの。恋愛結婚したい二十歳の女子なんだよ……」
「そうでしたね」
「コレットとしても、政略結婚はもう無理。条件が崩れた瞬間、婚姻の契約があっさり破棄されるのを体験しちゃったから」
アクセル王子との婚姻は、サウスティからイースタンへの援助が前提だ。
だから、アギトと手を結び、援助が必要なくなったとたん破棄された。
幼馴染のオスカーや、国を守護するダリウス卿が条件だけで動く人たちではないと信じたいけど、いつか裏切られるかもしれないと思いながら添い遂げるのは無理だ。
「オスカーのバカ……」
じわ、と我慢していた涙がにじむ。
「プロポーズなんだから、嘘でもいいから……『好きだから結婚しよう』くらい、言いなさいよ」
イースタンとの政略結婚を受け入れられたのは、何も知らない子供だったからだ。
裏切られ傷ついた今はもう、そんなことできない。
絶対に、嫌だ。
でも。
王女の自分が恋愛結婚を望んだところで、実現できるんだろうか。
私を妻にと求婚してくれた王子様は、敵国の姫に取られてしまった。
幼馴染がプロポーズしたのは、国王に命じられたからだ。
誰も彼も、私にまともな恋愛感情を向けてくれない。
「私って、どうしてこうモテないんだろ……」
ふかふかのディーの体にしがみついて、私はまた涙をこぼし続けた。
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