プロポーズ
「わあ……本当に綺麗……」
オスカーに案内されて向かった中庭では、淡い色の花が咲いていた。イースタンに出る前には見かけなかった種類の花だ。半年の間に、庭師の誰かが仕入れてきたのだろうか。
「これ、名前はなんていう花なの?」
尋ねてみたら、困り顔で首を振られた。
「知らない。庭師にここの花がいいぞって聞いただけだから」
「そこは花の名前もちゃんと聞いておいてよ」
剣術以外に興味のないオスカーらしいといえば、らしいんだけど。気分転換に、と綺麗な場所に連れて来ただけでも、彼にしてはがんばったほうである。
「あとでディーに聞いてみようっと」
彼はこの世界のデータに通じている。
花の名前くらい、すぐ出てくるだろう。
「あいつとは……」
「ん?」
「なんでもない」
「そう?」
さっきから幼馴染の言動が不安定だ。
周りを警戒しているかと思ったら、ぼーっとしていたり、空中の一点をじっと見つめていたり。
警備が厳重な城内だからいいものの、外でこんなことやってたら、よからぬ輩に絡まれかねない。
「大丈夫、オスカー?」
私は幼馴染の顔を見上げた。
そういえば、長旅をしていたのはオスカーも一緒だ。姫君として周りに気遣われていた私と違って、彼は騎士としての責任を求められていた。行軍中ずっと私の護衛をしていて、疲れないわけがない。
「体調が悪いなら、戻る? オスカーだってゆっくり休みたいでしょ」
「体に問題はない」
「でも」
オスカーはぶる、と首を振る。
「そういうんじゃないんだ。その、そういうんじゃなくてだな」
じっとこっちを見つめられた。
見返すと、なぜかみるみる顔が赤くなっていく。
「オスカー、やっぱり熱があるんじゃ」
触れようとした手を、掴まれた。ぎゅうっとそのまま握りしめられる。
間近にオスカーの琥珀の瞳が迫った。
「結婚しないか、コレット」
「は?」
今、なんていった?
「レイナルド陛下も、前国王陛下も、君をイースタンに嫁入りさせたことを後悔している。かわいい末姫をもう国外に出したくないと。俺の家はずっと昔から王家に忠誠を誓っている騎士の一族だ。嫁に入れば、今後国を出ることはないだろう」
私の手を持ったまま、オスカーが膝を折る。
騎士が忠誠を誓う時の礼だ。
「俺がコレットを一生守ると誓う。だから俺と結婚してくれ」
まっすぐに見つめられて、私は。
「やっ……!」
思いっきりその手を振りほどいた。
「コレット!?」
「何考えてるの……!」
体が熱い。
手が震える。
全身に鳥肌がたっていた。
こんなに腹が立ったのは、アクセル王子に人質宣言された時以来だ。
「結婚して国内にいろ? ふざけないで、そんなの絶対嫌!」
「だが、陛下たちはコレットを心配して……」
「心配だったら、何やってもいいの?」
「な……」
近づこうとしたオスカーから、後ずさって距離を取る。
オスカーもオスカーだ。
レイ兄様の命令にそそのかされるとか、何やってんの。
「あなたも見たでしょ? 女神の奇跡を。邪神の悪意を!」
うろたえるオスカーをにらみつける。
「私は、世界を救う使命を託された聖女なの。空飛ぶドラゴンだとか、呪われた食料だとか、人知を超えた悪意に対抗できるのは私たちしかいない。それなのに、自国の騎士家に嫁入りしてどうするの! そんなところに閉じこもってたって、世界が滅びるだけじゃない」
「だがお前は女で」
「そういう意味の女の子扱いは、いらない!」
それは、この国の姫として何度も言われてきたことだ。
女だから戦わなくていい。
女だから学ばなくていい。
女だから考えなくていい。
女だから、ただ守られて、にこにこ笑っていればいい。
ふざけるな。
私は私。
女である以前に、ひとりの人間だ。
もちろん体力や体質に違いはある。
だが、お人形さんのようにケースにいれられなきゃいけないほど、弱くない。
「オスカーとは、絶対、結婚しない!」
腹の底から断言する。
私はそのまま、オスカーを置いてひとりで自分の部屋に戻った。
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