お姉ちゃんの記憶
ジル兄様に指摘されて、はっとする。
言われてみればそうだ。
本来コレットは、人から守られる立場だ。率先して矢面に立つような子じゃない。
「俺にはどうも君が……『子供は守らなくちゃ』という考えに取りつかれてるように見えるんだけど」
「それは……」
私は、胸元でぎゅうっと手を握りしめた。
守らなくちゃ。
その思いは、イースタンで記憶を取り戻してから、ずっとあったものだ。
私がそう思ってしまうのは。
その理由は。
「多分……私がお姉ちゃんになり損ねた、からだと思う」
「君は俺たち兄弟の末っ子でしょ?」
ジル兄様が不思議そうな顔になった。私は首を振る。
「ううん、そっちの家族の話じゃないの。花邑紫苑の家族の話」
「……君には、別の人生の記憶があるんだったね」
女神から転生の話を聞いていたジル兄様は、神妙な顔でうなずいた。
「紫苑は、花邑家の第二子として生まれたの。両親と、四歳年上の尊兄さんの四人家族。でも、実は三歳の時に……弟がひとり、生まれてた」
私は、意識的に紫苑の記憶を思い返す。
コレットと紫苑。ふたりの人生は、私にとって、どちらも大事な思い出だ。
「弟はとても体が弱くて……こっちの世界の医療技術だったら、生まれてくることすら難しい体だった。現代医療の力を借りて、ようやく生まれてきたのに……心臓に病気が見つかって……私たちも、がんばって看病して、たくさんお医者さんにかかったんだけど……結局、二歳になる前に、死んじゃった」
「……それで、小さな子供が死ぬのが、怖くなった?」
私はこく、とうなずいた。
「たぶん、それがきっかけ。でもそれだけじゃないと思う」
私はさらに記憶を手繰り寄せる。
「十年後に、また新しい弟ができたんだよね」
「紫苑の母君が、ふたたび懐妊された?」
「ううん。そうじゃないの、血のつながらない弟。ご近所さん」
「……?」
ジル兄様の釈然としない顔に、私は笑ってしまう。わからないのも無理もない。
自分でも、雪那との関係は結構な特殊ケースだと思うから。
「中学三年の時だったかな、ある日学校から帰ってきたら、マンションのエントランスのところに銀髪の男の子が倒れてたの」
「行き倒れ?」
「ちょっと違うかな」
こっちの世界の感覚で、玄関の前に人が倒れてた、って聞いたら、まずは行き倒れを連想するだろう。でも詳しい事情は少し違う。
「雪那は隣に住んでた子だったんだ」
あの日のことは、今でも鮮明に覚えている。
小さな男の子が、身も凍えるような廊下で体を丸めてぶるぶる震える姿は、ショッキングでしかなかった。紫苑が大人になったあとでも。時々夢に見たくらいだ。
「あとからわかったんだけど、インフルエンザ……熱病にかかったせいで、考えがうまく働かなくなって、ふらふら外に出て来ちゃってたみたい」
「それで、君の家の近くに倒れてたのか」
「そこからが大変だったなー。あわてて救急車呼んで、まだどこの子かわからなかったから、警察とかにも連絡して。マンション中が大騒ぎになっちゃった」
今にも死にそうな五歳の子供だ。
周囲の反応は当然だろう。
「騒ぎを聞きつけて、雪那のお父さんが出てきて。そこでやっと、隣の家に住む子だってわかったんだよね」
「失礼だけど、その子供の母親は?」
「いなかった。雪那を産んだ半年後に離婚して出身国に帰っちゃってたの。そこからずっと、お父さんと二人暮らし。その日は具合の悪い雪那を寝かせながら家で仕事をしてて、外に出ちゃったのに気づかなかったみたい」
当時のことを思い出しながら、息を吐き出す。
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