王妃暗殺未遂事件
私も、部屋の中を見回した。
壁は手芸品だらけだった。廊下ほどではないものの、至るところに小物が飾られている。そしてそれらはすべて、お守りだった。
サウスティでは編み物で安産祈願のお守りを作るのが一般的だ。
産まれてくる子供の小物を作る傍ら、お守りを編み、健やかな成長を願うのだ。
だから、出産間近の王妃の部屋に、安産祈願の編み物があるのは不自然じゃない。でも、ここに飾られたお守りのほとんどは厄除け祈願。邪なものを退けるために、そばに置くものだ。
出産に関わる事故を避けるためと考えても、ちょっと数が多い。
「何があったんですか?」
ジル兄様にたずねられて、お義姉様は紅い瞳をふせた。
「最初は、ただの事故だと思ったの……」
そっとお腹に手をあてる。
「階段にロウが塗ってあったり、食事の中に鬼灯が混ぜられていたり……そんなことが続いて……警備を強化しているはずなのに、いつの間にか、コップの中に折れた針が入っていたりして……」
「えっ……」
それは、明らかな悪意だった。
ひとつひとつは小さいように見えるけど、それらはどれも、お義姉様の体とそのお腹を狙っている。
あっては、ならないことだった。
「それで、こんなにも警備が強化されているのですね」
「ええ……」
「考えうる限りの対策をたてて、警備兵たちの守る離れで暮らしているのだけど……どうしても不安になっちゃって。つい、厄除けの小物ばかり作ってしまうの」
サラお義姉様がジル兄様に笑いかける。でもその表情はひきつっていて、無理に笑っているのが明らかだった。
やせ我慢ばかりって人のことを言うけど、お義姉様も十分やせ我慢タイプだ。
ここは私が妹としてひと肌脱がないと。
「お義姉様、一番お気に入りのお守りってどれですか?」
「そうね……この緑のサシェかしら。レイナルドにお願いして、二針縫ってもらったの。子供のことを想って、ふたりで作ったものなのよ」
あのレイナルド兄様が縫物。
どんな顔をして針を使っていたんだろうか。
突然ラブラブ豪速球を投げられた私は一瞬言葉を失った。
いやいやいや、いちゃいちゃ話が聞きたかったんじゃなくて。
「ディー」
私は女神から遣わされた従者を振り返った。
私が首からさげている虹瑪瑙のペンダントは、真っ黒から暗い藍へとほんのり色合いを変えている。王城に巨大ロボットを安置し、力の消費量が減ったおかげだ。
ディーはこくん、とうなずくと、お義姉様の座るソファのひじ掛けに、前脚を乗せて伸び上がった。
「あら、ヒョウの従者さんどうしたの?」
「お義姉様、ディーにお守りを渡してください」
「こう、かしら」
お義姉様が口元にお守りを近づける。
ディーが額をこすりつけるようにして、お守りに触れると。布地と糸でできているはずのお守りが、虹色に光った。
光はすぐにおさまり、お守りは元の姿に戻る。
「まあ……これは?」
「女神の祝福です」
「えっ」
「それはたった今、とても強い『お守り』生まれ変わったんです」
「強い……?」
お義姉様はお守りをまじまじと見つめた。
「肌身離さず持っていてください。女神様の力が、必ずお義姉様を守ってくれるはずです」
「あなたが女神の聖女になった、とはレイナルドから聞いていたけど……本当に、奇跡の力を使うことができるのね」
ぎゅうとお守りを手胸に抱きしめる。
「こんな素敵な贈り物、感謝してもしきれないわ」
「お気になさらないでください。子供は、全員健やかに生まれてくるべきだと、思ってるだけなので」
「ありがとう、コレット。絶対にこの子を守ってみせるわ」
「私も元気な家族の顔がみたいです。一緒にがんばりましょう」
私たちは手をとって、笑いあった。
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