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【2024/11/29書籍①発売】無理ゲー転生王女(クソゲー悪役令嬢外伝)~隣国王子に婚約破棄されたけど、絶対生き延びてやる!  作者: タカば
転生王女は家族を守りたい

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偽花嫁の顛末

「……!」


 彼女の名前を聞いて、私は息をのんだ。

 イースタンの第一王女、イーリス。アクセルの妹で、嫁いでいく私と入れ替わりに、ジルベール兄様の妻となるためにサウスティ入りしていた。

 イースタンとサウスティで戦争が起きたとなれば、私と同様に彼女もサウスティ側の人質となるはずだった。


「イースタンから宣戦布告状が届き、コレットを人質にするとの連絡が届いた直後、私はイーリスを拘束するよう命令を出した」


 それは国王として、当然の指示だ。


「どうなり、ましたか」


 じわ、と手に汗が浮く。

 レイナルド兄様の顔はこわばっていて、明らかにいい報告をするための表情じゃなかった。


「騎士が部屋に入った時には、すでにこと切れていた。イーリス姫が連れてきていた侍女も、護衛騎士も、全員示し合わせたかのように、同時に自死している」

「……」

「人質として利用されまい、との行動に見えるが……妙な点が多くてな」


 ふう、とレイナルド兄様は息をついた。


「まず、死に方があまりに潔すぎる。本国から連絡があったとしても、姫君がそう思い切りよく死ねるものだろうか。いやそもそも、死を命じられるとわかっていて、嫁いでこれるものだろうか」


 レイナルド兄様は、さらに眉をひそめる。


「寝泊りしていた部屋にも不審点が多い。所持品を改めてみたところ、薬物や隠し武器など、姫君らしからぬ物騒な品物がいくつも発見された。彼女が持参品としてこちらに献上してきた品々からも、毒物が発見されている」


 レイ兄様の話を聞いている私たちも、しかめっつらになる。

 アクセル王子がサウスティとイースタンの婚姻をまともに結ぶつもりがなかったのは知ってたけど、まさかそこまでやってたなんて。


「死んだ女の行動が、事前に調査したイーリス姫の人物像とあまりにかけ離れている。何があったかまではわからないが、最低でもあの女は姫君とは別の人物だったのではないか、というのが私の結論だ」


 お前ならどう見る、と視線を向けられて私は顔をあげる。


「お兄様の推論はあたっています。サウスティに送られたイーリス姫は偽物。本物は、いまだイースタンの王城にいらっしゃいます」

「断言する根拠は?」

「脱出の折に、直接お会いしましたから」


 私は続けて言葉を重ねる。

 これだけは、ちゃんと伝えなくては。


「実は、王城から逃げ出す私に手助けをしてくれたのが、イーリス姫だったのです。路銀や変装用の衣装など、旅に必要なものを一通り用立ててくださいました」

「敵国の姫が、お前を助けた?」


 レイナルド兄様が目を丸くする。他の家族も同じようにきょとんとした顔になった。


「イースタンの王族全員が、戦争に賛成しているわけではないのです。イーリス姫は、結婚式を利用して人質を集めた兄を批判していました」

「だとしたら、この国に影武者が送り込まれたのも……」

「アクセル王子の独断です。イーリス姫本人は、ジルベール兄様との婚姻を望んでいました。しかしイースタンを出る直前に、軟禁されてしまったようです」

「なるほどねえ」


 ジルベール兄様が、へにゃっと眉を下げて笑った。


「ようやく腑に落ちたよ。何度も手紙を交わしていたのに、会ってみたら全然印象と違ったから。手紙の交流なんてこんなものかと思ってたけど、全然別人だったわけだ」

「イーリス姫は、兄様のことを知的で落ち着いてるって。兄様みたいな人に嫁げたら、どんなに幸せだろう、って言ってた」


 リビングにきまずい沈黙がおちる。

 国同士が対立している今になって、彼女が善人だと聞かされても、もう遅い。


「戦端が開かれた以上、もうイーリス姫とジル兄様の縁が結ばれることはない、と私も思います」


 本人の意志はどうあれ、イースタンは我が国に偽花嫁を送りつけてきた。

 これほどの無礼を働いた国の姫を、受け入れることなどできない。

 それは私だってわかってる。


「でも、戦争はイーリスの意志ではありません。アクセル王子の野心であり、イースタン王宮を洗脳した、アギト国王女エメルの悪意です」


 私はソファから立ち上がった。


「これから、イースタンとの本格的な戦闘が始まると思います。王城に攻め入ることもあると思います」


 兄に、サウスティ国王に深々と頭をさげる。


「ですが……イーリスだけは、彼女だけには刃を向けないでくださいませんか。敵だらけのイースタンで、彼女だけが私に手を差し伸べてくれたんです。城を出る前に、女神の加護を分けてきたから、彼女は今も正気でいるはずです」


 兄様は、何も答えなかった。

 リビングを再び重い沈黙が支配する。

 私は、いてもたってもいられなくて、声をあげた。


「兄様」

「戦争に絶対はない」

「……それは」

「イースタンと対立しているのは、うちだけじゃない。王城に最初に乗り込むのが、サウスティとは限らない」

「そう、ですね……」


 イースタンは、北のノーザンランドにも南のオーシャンティアにも戦争をしかけていた。近隣のどの国が、どう攻め入っていくか、まだ状況は明らかになっていない。

 レイナルド兄様は、はあ、と重いため息をついた。


「だが、我らサウスティの騎士団は、うちの末っ子王女が受けた恩を、仇で返すことはない、とは言っておこう」

「お兄様!」


 私はがばっと顔をあげた。

 レイナルド兄様は、困り顔で額に手を当てている。


「お前の『お願い』にはかなわんからなあ……それに、イーリス姫のおかげで帰ってこれたのは、事実のようだし」

「お兄様、大好き!」

「だが期待しすぎるなよ? さっき言ったように、こっちの手の届かない事態が起きる可能性は高いし、現場の騎士が首尾よくイーリス姫を保護できるかわからない。あくまでも、努力目標だ」

「それで充分です!」


 それでも、サウスティ軍を統べる国王に、イーリスを積極的に害さないと約束してもらえたのは大きい。

 いつかのための、大事な一歩だ。


「俺からの話はこれで終わりだ。今日はもう疲れただろう、戻って休むといい。食事は部屋に運ばせる」

「ありがとうございます、お兄様」


 ずっと旅してきた私たちはもうへとへとだ。

 家族は大事だけど、大仰な食事会をするほどの体力は残っていない。人目を気にせず部屋で食事できるのはありがたかった。


「では、休ませてもらいますね」


 私たちはそれぞれ、用意された部屋へと向かった。


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