懐かしの我が家
「や……やっとついた……」
前線基地の砦を出発してから十日後、やっと私たちの目にサウスティの王都が見えてきた。城壁に囲まれた巨大な王城、そして、城を山の頂点として裾野を広げるように並び立つ城下町の建物。さらに、それらを囲むようにしていくつかの堀と塀がめぐらされている。
イースタンへと出発した半年前と変わらない、懐かしいサウスティの風景だ。
「さすが豊穣の大国、城下町まででっかいのな」
助手席のルカがおもしろそうに身を乗り出す。
運転の相棒が、兄様から王子に変わっているのには理由がある。
ジルベール兄様が車の乗り心地を周囲に吹聴したところ、オスカーやダリウス卿、ルカまでもが乗ってみたいと言い出したからだ。
単純に乗り心地を確認したかっただけのオスカーとダリウス卿が乗車したあと、『体の弱い貴人が乗るべき』という結論に至り、現在では午前と午後でルカとジル兄様が交代で乗っている。
「まさかこんなに時間がかかるとは……」
私はハンドルを握り直してため息をつく。
ぷはっとルカが笑い出した。
「さすがにアレは予想できねえよなー」
「おのれ女神……」
帰郷はもともとそれなりに時間がかかる予定だった。
車の移動だけならともかく、護衛と世話役の騎士たちも連れての行軍だ。一日の移動距離は馬車に合わせる必要があり、そう長くは移動できない。
そこにさらに足止めを食らわせたのが女神だ。
「シセセーギョギョー、だっけ? 壊れたの」
「正しくは、姿勢制御装置の不具合による転倒と、脚部が地面に激突したことによる各駆動系の破損ね」
「うん?」
「空腹で立ってられなくて、コケたら怪我したとでも思ってて」
ジル兄様の前に無理やり姿をあらわしたせいで、奇跡の力が完全に枯渇。姿勢を維持することもできず、ひっくり返ったせいでロボの関節部分が破損し、歩けなくなってしまったのである。対処しようにも、設計者のディーまでエネルギー枯渇の影響を受けて丸一日昏倒。結局、再出発するまで三日も立ち往生するハメになったのだ。
私の家族を気遣う親切心はありがたいけど、もうちょっと考えて力を使ってほしい。
「でも、ここまで来たらもう安心ね」
「王都は目と鼻の先だからな」
「大型馬車の通る大門ならこの車でも入れるし、そのまま中庭に停めることもできるはず」
そこまでたどり着ければ、ペーパードライバーの無理やり大型車運転も終わりを告げるはずである。
「やっと解放される~……」
「運転ってそんなに面倒なもん? なんか、そのハンドル? とかいうやつを握ってるだけに見えるけど」
「ただ走らせるだけなら簡単よ。アクセルで前進、ブレーキで停止。進む方向はハンドルで軽く調整するだけだからね」
私たちが通っている道は、昔から流通に使われている太い街道だ。大型馬車が通ることを想定して作られているので、大型トラックサイズでも通行に不自由しない。
しかし、一緒に移動するのは、乗用車の存在を知らないファンタジー世界の住民と馬である。
初めて見る鉄の塊に、挙動不審になる馬。
車がどう動くかわからず、不用意に近くを歩く騎士。
トラックに死角が多いこともあり、何度うっかり騎士をひきそうになったことか。
この十日間の間、事故が起こらなかったのはひとえに現代車両の事故防止技術のおかげだ。近くを移動する生物を検知する対物センサーと、車の全周囲をカメラで映して液晶画面に表示してくれるオールアラウンドビューモニターは、まさに神の技術である。
「あとちょっと……ん?」
街道の先に動くものを見つけて、私は言葉を切った。
王城から、馬に乗った騎士たちがやってくる。
「出迎えかな?」
「王弟と姫が帰って来たんだから、出迎えのひとりやふたり、来るだろ」
「それにしては、ちょっと雰囲気が変ね」
緊張している、といいうか、急いでいるように見える。
何かあったんだろうか。
見ていると騎士たちは先頭を行くジルベール兄様たちの馬車に近づいていった。
先導役の騎士が、さっと旗をあげる。
後ろの騎士たちは一誠に馬の足を止めた。私もブレーキを踏んでその場に停車する。
ややあって、ジルベール兄様が馬車からおりてきた。騎士たちを連れて、私たちの乗るトラックへとやってくる。
「どうしたの?」
窓をあけて下を見ると、ジル兄様が手を振っていた。
その後ろの騎士たち、王都から来た彼らは、奇妙な鉄の塊から顔を出した王女の姿を見て、顔をひきつらせた。
戸惑う気持ちはわかるけど、細かい説明はあとだ。
ジル兄様は肩をすくめた。
「ここで一旦停止だって」
「なんで!?」
「白銀の神の遣いが現れたって、王都が大騒ぎになってるんだって。街道に見物人がつめかけて大混乱になってるから、人払いして道をあけるまで待機してってさ」
「あー……」
私は、トラックに並び立つ巨大ロボットを見る。
こんなものが突然現れたって聞いたら、誰だって見たくなりますね。
わかります……。
「わかりました、待ちます……」
民を愛する王女としては、うなずくしかない。
無理に王都に入って、うっかり子供とかはねたくないからね!
「あとちょっとなのに……はあ」
トラックのエンジンを切りながら、私は思わず大きなため息をついてしまった。





