これまでのいきさつ
「なるほど、そんなことが……」
ジルベール兄様と騎士団長のダリウス卿に全員保護されてから一時間後。私たちは王族用のテントでこれまでのいきさつを説明していた。
長旅で疲れただろう、とふかふかソファと、いれたてのお茶と食事つきだ。
お兄様の気遣いがありがたい。
ずっと緊張しっぱなしでへとへとだったから。
「にわかには、信じがたい話ですな」
同席していたダリウス卿が長いため息をもらす。
その気持ちはわかる。
私も当事者じゃなかったら、『で、どこからがホラ話なの?』って聞き返してるところだ。
でも彼らはすでに奇跡を目の当たりにしている。
騎士団長の苦悩を見て、ジルベール兄様がけらけらと笑い出した。
「もう、起きたことはあるがまま、受け入れるしかないんじゃない?」
「それしかないんでしょうけどね」
ダリウス卿は首を振る。
一番の大人で、責任者の立場では、非現実を簡単に受け入れきれないんだろう。
「ともかく、うちの末っ子が無事国境までたどりつけたのは、そこで寝ているユキヒョウくんのおかげ、ということであってるかい?」
兄様が私の膝を見る。そこには、あいかわらずぴくりとも動かない子ユキヒョウが寝かされていた。
「元が猛獣とはいえ、こんなかわいいネコちゃんがイースタンの城を爆破したり、暗殺者を倒したり、その上あんなに大きな巨人を操縦するなんて、すごいねえ」
「殿下、そちらについては、少し訂正が」
後ろで控えていたオスカーが手をあげた。
「彼が暗殺者と戦っていた時は成人男性、女神に仕える神官の姿をしておりました」
「神官にもなるの? この子」
「私も、自分の言葉が信じがたいのですが……」
そういえば、兄様たちとは逆に、オスカーはディーが人間の姿で行動しているところしか見たことがなかったんだった。
「イースタン城の爆破は、ネコのほうの手柄だけどな」
お茶菓子をつまむ手を止めて、ルカがにやっと笑う。
「できれば、彼から直接説明を聞きたいところだけど」
「完全に力を使い果たしちゃってるからねえ」
ディーはおろか、ずっとそのへんにふわふわ浮いていた女神の気配もない。巨大ロボットと大型特殊車両は、この世界では異質すぎる存在だ。ほとんど無から有を作り出したようなものだから、消耗が激しかったようだ。
私が首から下げている虹瑪瑙のペンダントも、真っ黒なままだ。
正直不安はある。
でも、有能な従者をここまで消耗させたのは他ならない、私だ。
目を覚ますまで守るのは私の役目だろう。
柔らかな毛並みをそっとなでた時だった。
ぴく、とディーのヒゲが動いた。
「あっ……」
ぴく、ぴく、とヒゲが揺れる。
私たちが注目していると、うっすらと瞼が持ち上がった。
子ユキヒョウのアイスブルーの瞳に私の姿が映る。まだ意識がはっきりしないのか、目の焦点があってない。
ぱちぱち、と何度か瞬きをして、やっと声を出した。
「コレット、様……?」
「おはようディー。目がさめてよかった」
「私は……そうだ、コクピットで意識がなくなって……ここは……」
「王族のテントよ。ジル兄様たちに保護されたから、もう安心」
「保護…………はっ!」
状況を頭の中で整理していたディーは、がばっと体を起こした。そのまま、あわあわと慌てて身を引く。
「あっ、ディー! 待って!」
案の定、ディーは私の膝から勢いよく落っこちた。頭が床に激突して、ごん! と派手な音をたてる。ネコ科の猛獣にあるまじき失態である。
「大丈夫? 寝起きでいきなり動いたら危な……」
「あなたは、何をやってるんですか!」
いきなり怒られた。
なぜ。
「何って……膝に抱っこしてただけだけど……」
「だけじゃありません! 私の中身は成人男性だと言ったでしょう! なに抱っこなんてしてるんですか」
「ええ……」
でも、いたいけな子ユキヒョウを床に転がすのはちょっとなあ。
「私が人間の姿だったとしても、同じことをしましたか?」
「えっと……」
美青年バージョンのディーが意識を失って、ぐったりしていたらどうするか……。
「膝枕くらいは、すると思うよ?」
「淑女の慎みを持ちなさい!」
また怒られた。
なぜ。
「くっくっく……」
笑い声が天幕に響いた。
見ると、ジルベール兄様が腹を抱えて笑っている。
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