戦のあと
「神だ!」
「神が降臨された!」
「創造神様の御使いだ!」
コクピットの外は大騒ぎだった。武装した騎士たちが、白銀に輝く鎧を取り囲んで歓声をあげている。中には、涙を流して巨大ロボットを拝んでいる者までいる。
モニター越しに彼らの姿を見た私は、困惑の声をもらす。
「えええ……なんなの?」
私のすぐ目の前、主操縦者用コクピットに座ったディーがふう、とあきれたように息を漏らす。
「彼らにしてみれば、突然創造神の石像がロボットに変身して、邪竜を倒したわけですからね。当然の反応ではないでしょうか」
「ええ……」
私にしてみれば、突然出て来た反則級の敵から騎士を守るために、必死に行動してただけだ。いやそんな大したモンじゃないって。
「あれ? どうしよう」
今コクピットあけて中から出てきたら、とんでもないことになるんじゃないの。
私自身が神様として祀られかねないんだけど。
「何をいまさら。あなたはそもそも、女神の天啓をうけた聖女でしょうが」
そうなんだけど。
確かにディーの言う通りなんだけど。
「どうしよう、これ……」
私はコクピットに座ったまま、頭を抱えた。
「なるようにするしか、ないんじゃないですか?」
「簡単に言わないでっ……て。ディー?」
私は副操縦席のベルトを外すと、身を乗り出した。
ディーの様子がおかしい。
いつも落ち着いて低く響いていた声が、不自然に震えている。
強引に操縦席の横に体をねじこんで顔を覗き込んだら、血の気が引いて真っ青になっていた。目を閉じ、手を当てた額には脂汗が浮いている。
「……大型キャリーを……いや、リソースが足りない。分離合体機能付与……それでは合体のたびに接合部が摩耗する……せめてハンガー機能だけでも確保して……」
「ディー……?」
額に手をやったまま、ディーのアイスブルーの瞳がうっすらと開く。
「……現在、巨大ロボットのメンテナンス車両を創造しています」
「メンテナンス? なんで!?」
「あなたがコレを機械的なロボットだと定義した影響でしょうね。女神の奇跡の力を動力とはしていますが、そのほとんどは精密機械で構成されています。雑に放置していては、それだけで壊れていってしまうでしょう」
「ええと、車とかメンテナンスしないで放っておくと壊れるとかそういう」
ふ、とディーが口元を緩めた。
その解釈で間違ってないらしい。
「見てください」
ディーが私の胸元に手をやった。
彼の手の中で虹瑪瑙のペンダントが急速に光を失っていく。
「手近な軍用馬車をベースにしましたが、高度な機器を満載した車両と馬車ではモノがあまりにも違います。今手元にある奇跡の力をすべてつぎ込んだとしても、まだ足りない」
「ディー?」
説明するディーの声はどんどん弱弱しくかすれていく。
状態がよくないのは、明らかだった。
「エネルギー節約のため……私と女神はしばらく活動を休止します」
「休止……? 大丈夫なの?」
「力は、時間が経てば戻ります……」
デイーは板状の何かを私に押し付けた。ノートサイズのつるりとしたガラスと金属の板。現代日本でタブレットと呼ばれていた端末だ。
「コレに、簡単な操作用インターフェイスを用意しました。コクピットの開閉……それと、ロボットのメンテナンス車両への格納が可能です」
さらりと髪をなでられる。
視界の端で、切りそろえた髪が燃えるような赤から、元の金へと色を変えた。
「外のサウスティ騎士と合流して……身の安全を確保して……」
最後の言葉は形にならなかった。
ゆらりとディーの輪郭がゆらぐ。視覚で捕らえられない、よくわからない何かになったかと思うと次の瞬間、コクピットの座席に小さなユキヒョウの赤ちゃんが出現していた。
ユキヒョウはだらりと手足を投げ出したまま、ぴくりとも動かない。
「ディー!」
私はたまらず、副操縦席から飛び出していた。
2025年3月28日「クソゲー悪役令嬢⑥」が発売されます。
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