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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章上編『忘却されたⅫの栄光』

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Deviance World Online 間話『【黄金童女】、そして一人の女の思惑』

「うむ!! 余の独壇場であったな!!」


 とても可愛らしいロリボイスで、華美絢爛な劇場の中心に佇むひとりの童女。

 名を、ネロ。

 本名をネロ・クラウディア・アルフェ・トロリウス・ビズ・ガンゲウス・カエスル・オクタビア。

 現実世界において、旧ローマにして現ロクレアルス帝国を支配する王の娘だ。

 帝国、とはいえその実態は絶対王政などではなく普通に民主主義でしかない。

 ただ人類の大量殺戮の後、人類の再起に大きく貢献したとして広大な領土と帝を名乗ることを許された一族というだけだ。


 そんな彼女は今、DWOの中で魔術式によって展開された黄金の劇場に数々のプレイヤーを呼び込み(巻き込み)彼女による彼女のための劇を終わらせた。

 

「うむむ、しかし困ったものだな!! 余の劇を見て仕舞えば死んでしまうとは……。ま!! 余の劇によって死ねるのだ!! 最高の栄誉であろう!!」


 そう楽しげにいうと、終幕を迎えた劇場を消し去る。

 ソレが魔術的事象で起こるものである以上、魔術の発動を停止させれば劇場も自然に消えるものなのだ。


 そして、誰一人存在しない草原で真紅に黄金があしらわれたドレスを着た彼女は地面に全身を投げ出す。

 肩で息をし、その小さな胸や腹は大気に存在する空気を必死に吸い込むように上下する。

 劇場で演じていた時には一切見せなかった流れる汗は身体中を伝い、その幼女的な体を艶かしく。

 それ以上に貧相に見せさせる。


「む? キララから? 余に電話をするなど珍しいこともあったものだな!!」


 だが、その弱々しい姿は一瞬で消え去り彼女は慌てて起き上がるとインベントリを叩いた。

 即座にインベントリの通話機能が開かれ、通話可能となった。


 ついでに、コレは課金要素であり無課金プレイヤーでは扱えないことをここに記しておこう。


 開かれた画面にはアイドルのような格好をしたひとりの女性が映っている。

 そこにいる彼女はかなり親しげにネロと話し出した。


『あ!! ネロさん!! お久しぶりっ!!』

「うむ!! しかし珍しいな!! 余からならば兎も角、キララの方からかけてくるとは!!」

『【姫】として有名になったからね!! けど、こうして活躍できてるのもネロさんのおかげだよ!!』

「うむ!! 余の黄金の劇場(ドムス・アウレア)を貸した甲斐があるというものよ!! 良ければまた貸してやっても良いぞ?」

『さ、流石に遠慮かナ? ネロさんの演劇で観客全員死んじゃうし……?』

「むむ? 余の演奏で死ねるのだぞ? コレほどに光栄なことがあるはずがなかろう!!」

『(実際にネロさんのファンってそういう人が多いよね……?) じゃなくて!! ネロさんは今回のイベントどうするの?』

「けいじばん……、というところで募集があったのでそこの人たちと参加するのだ!! 余に相応しい仲間が来ると期待しているのだぞ!!」

『へー、もう仲間がいるのか……。ネロさんってボッチだから誘おうかと思ったけど大丈夫だったね。』

「む!! ボッチとは失礼な!! 意味を知っておるのだぞ!! 確か……、忘れた!!」

『忘れたんですか!? アッハハハハハハ!! 相変わらずネロさんは面白いですね!!』


 そう言いながら互いに笑い合う二人。

 どちらからもポンコツ属性を感じるのは間違いではないだろう。

 そして1時間ほど話したところで、二人は通話を切る。

 

「うむ!! 余は眠いぞ……!!」


 トロンとした眼を開けつつネロはインベントリを開き、いくつかのアイテムを取り出した。

 DWOの旅人御用達、野営用のテントである。

 ソレを手際よく広げると、ネロはテントの中に飛び込んだ。

 中の空間は非常に居心地が良く、立派な布団が敷かれてある。

 そのままネロは夢幻の中へと誘われていった。


*ーーー*


「『黄金童女』、『妖刀工』、『ウィッチクラフト』。程々のネームドが集まりましたね。」


 時を同じくして暗い洞窟、そこの地底湖の中心でひとりの女が喋っていた。

 周囲は暗く、けれど光る苔や精霊によって月夜ほどには美しく幻想的である。

 その中心で自然の岩石によって構成された玉座に座っていた。


「いよいよ準備は整いましたか、唯一の不安要素は……。まぁ、いいでしょう、目的さえ達成できれば経過は問いません。」


 そう告げると、彼女はゆっくりドレスに包まれた麗しい右腕を動かし一言。

 鍵言を告げる。


「『湖の精霊よ、来たれ』」


 瞬間、湖全体が荒れ狂い波となりそして渦巻く。

 空中に浮かんでいた精霊は狂喜乱舞し、湖を撫で洞窟を破壊せんと蠢いている。

 そんな中、彼女は冷静に立ち上がると目の前に広がっている超弩級の魔法陣に手を添え湖に偽装されていた封印術式を解除する。

 β版、そこで世界の真理に至る鍵を得た彼女は一つの神話に触れた。

 現存する神話、現代を発足させうるに足るナニカ。

 ソレを見、理解した時彼女は一つの魔杖を得る権利を得たのだ。


「『モルガン、モーロノエー、マゾエー、グリーテン、グリートーネア、グリートン、テューロノエー、ティーテン、ティートン』」


 9の名を囁き、膨大な魔法陣に魔力を流す。

 活性化した魔法陣は回転するようにしながら徐々に小さくなり、虚数と実数をつなげる役割を果たす。

 仮想現実、0と1で構成された偽りの現実。

 その中で唯一、0と1以外で構成された空間。


 すなわち、虚数空間。

 そこに封印されていたひとりの女性と魔杖を彼女は手に取る。


「……、なるほど。直接対面したことはありませんでしたが、貴方が湖の精霊ですか。」


 遺骸は答えない、当然だ。

 その体躯は生前のままに死亡している。

 

「やはり虚数空間は精霊でも存在を保てないのですね、私のために態々ありがとうございます。」


 本心から、感謝を伝えると彼女は足りない魔力を補うために魔杖を手に取る。

 魔杖、ただの黒い杖。

 ソレは漆黒であり、闇夜の影を顕現させたかのような暗さ。

 恐れを誘うソレを手に取った彼女は、そこから魔力を引き出した。


「義正の魔杖よ、その魔力を渡しなさい。」


 凛とした声で、荒ぶる水の中彼女はそう告げる。

 天変地異が起こるかのようなその世界で彼女は満面の笑みを浮かべて魔法陣を描き出した。

 その魔法陣も同様に超弩級、だが彼女は慣れた手つきでソレを手早く描き出す。

 燦々と輝くその術式をうっとりと見ながら彼女は、魔力を流し始めた。


「この世界を運用していると思っているあの運営ですら把握していない領域をこうして触れるのはいいですね。柄にもなく酷く興奮してしまいます……、っと。術式は完成しましたか、さすが私です完璧に描けていますね。」


 自画自賛ここに極まれり、とは言え実際のところ直接手で書いていたわけではないが見上げるほどに大きい魔法陣を完璧に描いたのは褒められるに足る話だろう。

 その自画自賛も当然かもしれない。

 ただ一つ問題があるとすれば……。


「王城の禁書庫から持ち出した転生の秘技ですが……、やはり元の身体が溶けてしまうのが難点ですね。暇な時に改良したのですが……、さすがの私でもこれ以上は不可能ですか。やはり未知の二属性を確認しなければ神秘の最奥に辿り着くのは不可能ですね。」


 その美貌が崩れて、泥状になっているということだ。

 だが、彼女はそんなことなど意に介さず溶けた肉体を瓶に詰め込み始めた。


 そう、溶けた肉体を。


「正当に継いだとはいえ、肉体が変わるとは変な感覚ですね。」


 ニコリと微笑んで彼女はそう告げると、先程まで遺骸として横たわっていた肉体を動かし始めた。

 そう、彼女は転生したのだ。


 イベント開始まで、あと1時間。

彼女の正体と手に入れた力は追々……。

これにて一章上編は終了となります。

次回100話というのに一章はここで終了です。

キャラクターのまとめとかしようかと思いましたがメインの登場キャラクターが3人程度しかいない以上、態々解説するのもアレなので一章はここで終了します。

感想などでキャラクター解説を求められた場合そちらで答えるかもしれませんが…。


さて、次回一章中編お楽しみに!!

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