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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章上編『忘却されたⅫの栄光』

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Deviance World Online ストーリー3『英雄の王』

 扉を潜った先、満身創痍の黒狼たちを出迎えていたのは何かの機械に埋められている黄金鎧を着た男だった。


「フハハハハハハハ!! よく来た下郎、この(オレ)をここから解放する栄誉を与えてやる!!」


「(えっと……、見ないフリしてみるか? 後ろにEXITって書かれた扉あるし。)」

「(賛成です、なんかヤバそうな人ですし。ソレに高圧的に言ってますが要は助けろって言ってるんですよね?)」

「(……、酷く賛同したいがここは堪えておこうか。)……すまないが、我々は用があって急いでいる。助けろ、と言われても明確にメリットが無ければ断りたい。」

「なるほど、この我に対価を要求するか!! いいだろう下郎!! 望む宝物を幾つかくれてやっても良いぞ!!」


(相当限界なんだな)

(相当限界なんですね)

(相当限界だな)


 珍しく3人の内心が一致した瞬間である。

 基本的に行動理念や信念が一切合切合わない3人だ、思考が一致することは酷く珍しい。

 だが、そんな3人の感想が一致するほどに目の前の男の声音が尊大でいながら焦りを含んでいるのだ。


 ハァ、とため息をつくと黒狼がその男に近づく。

 そもそもアナウンスも何も鳴っていない以上、やる義務や必要性は感じないがそれでもこう言うことをしてしまうのは黒狼が善人であると言うことだろう。


「けど助けるってどうすればいいんだよ。」

「そこの赤いボタンを押せば良い!! 何は兎も角早く助けろ!!」

「はいはい、っと。」


 案外大した手間もないらしい、近くにあったドクロマークが書かれ厳禁と表記されているプラスチックケースっぽいものに入っているソレを蓋の上から叩き割りボタンを押す。

 

 ウィィィィィィィィィィイイイイイインウィィィィィィィイイイイインウィィィィィィィィイイインウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィン!!!!!!


 すると鼓膜を突き破る様な爆音と共に警報が鳴り響き、レオトールは状態異常:麻痺をゾンビ一号と黒狼はダメージを喰らう。

 だが、そんな音を気にする素振りをしない黄金の鎧を纏った男は何処からとも無く剣を取り出すと先程まで彼を縛っていた機械を破壊する。

 同時に音が止まり、3人はようやく耳から手を離すことができた。


「ふっ、くだらん。この程度でこの我が縛れると思っていたのか?」


(縛られてたよね?)

(縛られてましたよ?)

(縛られてたな。)


 奇跡が起きた。

 一度だけでも稀有な話なのに、こんな短時間で3人の心が一致する……。

 世界が壊れる前兆かもしれない。


「さて、下郎。報酬をやると言っていたが……、何が欲しい? 望むのなら大抵の物を持っているぞ?」

「うーん、じゃぁとりあえず美味い飯。」

「フン、ならば美味い酒は欠かせんな。」

「黒狼、その体でご飯食べられるんですか?」

「あ、そうじゃん。俺骨じゃん。」

「じゃぁ私は肉体を得るアイテムとかお願いします。」


 そういうと、黄金鎧を纏った男は信じられないモノを見たような顔をした後何かを呟きながら空間に亀裂を入れてそこに上半身を突っ込みながら荘厳絢爛なアイテムを山の様に出す。

 少なくともゾンビ一号の顔は青褪めておりレオトールの顔も無表情ながら引き攣っている様だ。

 対して黒狼は価値をわかっていない様で、ソレらを『何か凄そうだなー(小並感)』と言った感想を持ちながらボケーっと見ている。


「お、あったあった。我が持つ特上の酒と糧そして人化の薬だ、勿論全てがこの我自ら選んだ特上品、下郎風情には余りにも過ぎたるモノであるが我を救った品にしては些か見窄らしいな……。」


 そう言って差し出されたのは計2つのマジックバックと二つのポーションだ。

 マジックバッグ、黒狼は初見だがレオトールとゾンビ一号には見覚えがあったらしく片や興味深げに片や感心した様にみる。

 その効果は内部の空間の拡張と内蔵するアイテムの重量を10分の1にする効果であり、インベントリを持たないモノは勿論のこと、インベントリを持つモノであってもかなり多用するモノだ。

 レオトールも幾つか保有しているがそのどれも目の前に見えるモノほど高価では無い。


「……これ一つでどれだけの価値があるのか……。」

「下手な貴族ならこれを奪うために戦争起こしません?」

「フハハハ!! このガワ程度で戦争とは酷く落ちぶれたモノだな人類も、ソレであれば実際一つ国が滅んだ中にある酒を見ればどうなることやら……。」

「……よし藪蛇になりそうだから何も喋らないでおきましょう、そっちの方が精神衛生的に良さそうです。」

「ああ、そうしておくべきだな。絶対違うとはわかっているが嘘だと思い込む様に努めよう……。」


 渡されたソレを落とさない様に震えるゾンビ一号、静かにだが素早くゾンビ一号から離れるレオトール。

 黒狼は当然の様に部屋の隅っこに逃げている。

 何気なく要求した飯と酒で、国が滅んだレベルの代物を出してくる存在に全員恐れ慄く。

 3人とも性根は小市民であり、大金を目の前に出されて仕舞えば割とビビる質なのだ。


「しかし酒と糧では単純な持て成し、これでは我が名が廃ると言うモノだ。他には何が欲しい?」

「「「もう何も出さないでくれ(でください、様に頼む)!!」」」


 3人同時に、全員が絶叫する。

 精神衛生に非常に悪い、人間身の丈を超えたモノを扱うのは怖いのだ。

 早くこの状況をなんとかしなければと全員汗を垂らしている中、目の前の男はさらなるアイテムを取り出し始めた。


「この我の褒美が受け取れんと言うのか!! いや、久方振りの自由に気が舞って些か上等すぎるモノまで出してしまった様だ。流石に、国々が滅びる原因となったダイヤなぞいらぬだろう?」

「絶対に渡さないでください!!?」

「フン、渡さんわ。ソレに新人類がまたしても滅びかけては寝覚めが悪い、我はあの愚か者どもとは違う。」


 自分に言う様にすると出した大量のアイテムを空間に開けた穴に放り込む。

 先程は気づかなかったが封印、もとい拘束していた装置を破壊していた武器を取り出したのもこの力だろう。

 

「さて、この程度では褒美たり得んだろうが他によい品も見つからん。暫しの間はここにいるだろう故、何か欲するモノがあった際には言伝るといい。」


 そう言って指を鳴らすと彼が纏っていた武装が消え多少マシとなった服装になる。

 若々しい、それこそ20代前半の様に見えるオッドアイの男は犬歯を出しながらニヤリと嗤い体を伸ばすと再度空間に穴を開けた。


「こんな見窄らしい場で食う糧は不味かろう、外に出れば程よい草原らしい。どうだ? 魔除けぐらいならばしてやるから其方で食うか?」

「アッ、ハイ。オネガイシマス。って、そうじゃない!! すみませんが名前教えてくれませんか?」


 黒狼が告げたその言葉を聞くと同時にその男は、呆れと共に尊大な動作で己が名前を告げる。

 現実において人類最古の王、人類最古の叙事詩に記載された英雄の中の英雄。

 英雄の王。


「『英雄王』ギルガメッシュ、又の名を『破壊者』ギルガメッシュ。とく尊ぶが良い、我の名を知れたことをな。ああ、伝言は聞いている。態々言う必要はないぞ? 下郎。」


 その言葉と共に、英雄の王はその空間から消えた。

作中屈指の強キャラの初登場シーンがギャグかよ……。

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