Deviance World Online ストーリー3『神の呪い』
「ーーーーーー、名を。」
3人が喜び、地面に倒れた時。
ポリゴン片となって消失していなかったヘラクレスが、声を上げた。
「ーーーーーー名を告げよ、英雄の蕾たちよ。」
一瞬、全員がぎこちなく固まり正にギギギという擬音が聞こえてきそうな動きでヘラクレスを見る。
黒狼は先程の極光を浴び一度死亡しているため万全ではあるが……、レオトールとゾンビ一号はそうはいかなかった。
比較的消耗がマシなゾンビ一号も短時間の大量魔石摂取により体調が悪い。
戦えないこともないだろうが、逆を言えばその程度の動きしかできない状況だ。
レオトールに至ってはもっと酷い。
まずは『水晶大陸』のデメリット。
ソレは、単純にスキルによるステータスバフが得られないこと。
基本的にスキルを取得すればそれによってステータスが2か3つほどに10ポイントほど加算される。
スキルレベルアップによってもソレは上昇していき、その結果としてレオトールは全てのステータスが2000となっていた。
そんな彼が持つ奥の手である『水晶大陸』だが、そのスキルレベルアップによって得られるステータスアップを一時的にではあるが大幅に低下させる。
得られるバフ量はレベル1の時と同じだ。
そのステータスは高くても1000に辿り着かないほどに低下しているだろう。
そして何度も何度も急速に体を破壊し、回復したせいで全身が過度な疲労状態となり慢性的な骨折のリスクを受けている。
いや、実際何度も骨折が発生しているのであろう。
一眼見て高価とわかるポーションを惜しげもなく全身に振りかけ、苦痛に眉を歪ませている状態だ。
少なくとも再度戦闘するにはしばらく以上の時間がかかるだろう。
「……、俺の名前は黒狼。こいつらのリーダーってところか?」
「フン、対等なのでは無かっ……、冗談だ。骨の癖に器用に表情を表現するな。私の名前はレオトール、北方風に言うなら『伯牙』にして『白の盟主』と言ったところか。」
「私の名前はゾンビ一号……、でいいんですよね?」
「他の名前がいいか?」
「ワルプルギスとかいいと思いません?」
「却下、お前はゾンビ一号だ。」
「えぇ……。」
若干漫才を挟みつつ、3人は各々名前を名乗る。
そして、急速に全身が癒されている。
つまり、『Ⅻの栄光』が発動しているヘラクレスを見て再度戦える様に武器を手に取った。
「ーーーーーー安心しろ、直ぐに死ぬ身故。」
そんな警戒を真正面から見たヘラクレスは苦笑しながらそこに現れた球を手に取る。
インベントリ、そのエフェクトに非常によく似た取り出し方。
そして取り出されたソレを見て3人は、全員頭に疑問符を浮かべた。
「ソレは……、水晶だよな?」
「ーーーーーーさぁ、どうであろうな。」
誤魔化す様にそう呟くと、ヘラクレスはソレを口元まで持っていく。
まるで食べようとしているかの様に。
ヘラクレスの体に空いた大穴は徐々に塞がり、後数十秒もしないうちに完全復活を成し遂げるだろう。
ソレとともにヘラクレスの目からは叡智が徐々に消えつつあった。
「ーーーーーー 一つ、依頼を。この天空に、この世界の深層にいるゼウスを殺せ。必ず、絶対に。二度と、この世界の崩壊を招かぬ様に。我が復讐を肩代わりしてくれ。」
「……請け負ってやるよ、その依頼。」
「ーーーーーーそうか、なれば英雄の蕾に未来を託すのがこの身の役目だ。」
そう言うと、共にヘラクレスは顔を大きく歪める。
何かを失わない様にするかの様に、必死に顔を歪めながら最後の言葉を告げた。
「ーーーーーー我が恩人、我が終末を見るモノ共よ。英雄の王にこう伝えてくれ、『未来を送った』と。」
ーーーーーーーーーーィィィィィイイイイン。
音にならない音、聞こえる筈のない音と共にヘラクレスは水晶を噛み砕く。
瞬間、背中から八本の足の様なモノが生えヘラクレスの全身を水晶の様な透き通る何かが覆いそして砂粒となって消えた。
若干の呆気なさと共に現れたドロップ品を確認する。
いや、確認するまでもない。
見ればわかる、現れたのはただ一つの武器。
早速鑑定する黒狼だがそこには塗り潰された文字しか見えない。
「斧剣『帝帯』……、か。」
「鑑定効くの?」
「名前だけならば、逆を言えば名前以外は一切わからんぞ?」
そう言いながら痛む体を動かしソレをインベントリに仕舞う。
そして地面に寝転ぶとレオトールは静かに目を閉じた。
その顔を覗き込む様にして黒狼はしゃがむ。
「ああ、しばらくは戦いたくない。」
「お前にしては珍しい弱音だな、気持ちは分かるけど。」
「ただ黒狼はこの後、どこかにいくのでしょう? 時間、大丈夫ですか?」
「こっち換算後1日ほどあるし問題ねぇよっ、と。」
徐ろに立ち上がった黒狼は、酷使した槍剣杖のメンテナンスを行いつつ現れた扉を見る。
先程のヘラクレスが言って『英雄王』、彼がどの様な存在か。
敵か味方かわからない以上この先に行くのは正解なのか? そう己に問いかける黒狼だったが立ち上がったレオトールを見てその思考を止める。
「行かないのか? 黒狼。」
「お前は……、大丈夫なのか?」
「大丈夫に見えるか?」
そう言い、笑うと軽く体を伸ばし2人を手で呼び寄せる。
自分の悩みを軽く流したレオトールの姿に、呆れ笑う黒狼とゾンビ一号。
2人と共に黒狼は、扉に入った。
*ーーー*
(なるほど、走馬灯の様なものか。)
ヘラクレスは水晶を噛み砕いた直後、脳内に溢れる記憶の数々を体験していた。
ヘラクレス、そして彼を象徴する『Ⅻの栄光』。
その効果は、己の記憶を対価に12個の命のストックを作るモノ。
そして、ヘラの執念と数々の難行。
そしてゼウスの鬱憤晴らしによって幾度となく殺されたヘラクレスはその記憶の全てを失うに至っていた。
(あの骨には感謝せねばな、死の間際にアレほどの戦いができるとは。)
だが、ソレは黒狼の呪血の効果によりほんの一部とは言えその記憶を取り戻すことを達成した。
ほんの一部とは言えど10年近い記憶、だが数千年以上生きながらえた生かされてきたヘラクレスにとってはそれでも非常に短い記憶。
ソレを懐かしそうに慈しむと、ヘラクレスは徐々に喪失する肉体を近くする。
(永い、永い間だった。)
もうすぐ体の半分は消えるだろうか? サラサラと砂状になりポリゴン片になる体を見るのをやめ旧友を思い出す。
元々は人類の生存圏が存在しなかった大陸、そこを切り拓き北の大地に人間が生きられる生存域を作った己。
道中までとは言え数々の敵を打ち倒した黒鎧を纏った友人に、他の戦う術を持たない存在を守ると定めた騎士。
湖の精霊として己を助けた彼女、全員掛け替えの無い友人であり戦友であり親友だ。
そんな彼らの消息のほとんどは知らないが……。
(せめて、幸せに死んでるとーーーーー。)
その思考が纏まり切る前に、ヘラクレスは消えゆく光の奔流によって消え去った。
黒狼たちを苦戦させ、最も強い難敵として立ちはだかった大英雄はここに死んだ。
神が存続させた、苦しみしかない栄光という呪いは黒狼の手によって打ち砕かれた。
過去の遺物は死に、新たな存在が台頭を始める。
三度目の時代の激動、ソレを真っ先に感じた大英雄の最後は騒がしいながらも微笑ましい喧騒の中だった。
蛇足かな? っと思いましたが自分的にヘラクレスの最後は書きたかったので書いてみました。
さて、ヘラクレスの解説ですが……。
まぁ、割と本文でした気がする。
強いて言うのならヘラクレスの持つ完全蘇生スキルである『Ⅻの栄光』はこの世界で女神ヘラから与えられたⅫの難業をクリアしたことで得られた神の呪いです。
効果は記憶を対価に12個の命のストックを作成するモノで、細かな制約はあっても作中最強クラスのスキルとも言えます。
まぁ、神の呪いとは言えど呪いなので黒狼の呪血が混じった時に若干変質して一部の記憶を取り戻せたと言うことですね。
しっかし意味深なことを言ってましたねー。
序盤に出すべきじゃない最強キャラの友人なんて碌な相手じゃないだろうし出ないことを願っておきましょう。()




