Deviance World Online ストーリー2『完全制覇』
「やっぱ、振り回されてやがる……!!」
「見えるんですか!? 黒狼!!」
「な訳あるか、ただこの状況を見ればわかる。アイツはこんな派手な戦い方をしないんだよ。」
飛んでくる余波、ソレを避けながら黒狼は焦りを吐く。
そこには恐れはなく、納得が心に染みていた。
(追放されるのも納得だ、こんな化け物と戦うなんて他にとっては恐怖でしかないだろ……。)
曲がりながりであったとしても、今までの難行ならば黒狼たちも干渉できていた。
ソレがどうだ? 今の戦いでは黒狼は完全に置いて行かれている。
まともに戦うどころか近寄れば消え去るまでになっているのだ。
「そうだな……、ゾンビ一号。魔力はどれぐらいいある?」
「若干回復して1%未満ですね、碌な魔術は放てません。」
「回復方法は何がある!?」
「魔石があればどうにか、もしくは進化ですね。」
「……、進化するには?」
「丁度レベル不足です。」
怒りを隠さず、黒狼はインベントリから貯めに貯めた魔石を取り出す。
碌な使い道がなかったソレ、後に錬金術にでも使おうかと夢想していたソレを惜しみなく取り出すとゾンビ一号の口に突っ込んだ。
「食え!! 即座に回復しろ!!」
「ふぉんふぁいっふぁいふぁふぇれふぁせん!!」
「いいから食うんだヨォ!!」
直後に襲う光剣の乱舞、黒狼は即座にダークシールドを展開するとダメージを最大限に減らす。
手段は選んでられない、無理矢理魔石を食わせつつ黒狼は詠唱を始めた。
「『夜の風、夜の空、北天に大地、眠る黒曜。』」
【始まりの黒き太陽】、極限の太陽を降臨させるソレ。
詠唱により魔法陣を描くソレを見ながらゾンビ一号の口内に魔石をどんどん突っ込む。
「なんか変なスキルを獲得したんですけど!?」
「『不和に予言、支配に誘惑、美と魔術。』」
ゾンビ一号の言い分は完全無視、諦めたゾンビ一号は口の中に突っ込まれた魔石を噛み砕く。
モンスターであり魔石の毒性を無視できるからこそその無茶苦茶だが、ぶっつけ本番でやることではない。
「『其れは戦争、其れは敵意、山の心臓、曇る鏡。』」
涙目になり魔石をはむゾンビ一号だったがMPが最大量に到達したことを確認すると流石に黒狼を静止した。
それに対し、一切ゾンビ一号を見ていない黒狼はインベントリを開けどんどん魔石を口の中に突っ込む。
リスの様に口を膨らませたゾンビ一号は黒狼を殴るべきか一瞬迷い始めた。
「『五大の太陽、始まりの52、万象は13の黒より発生する』」
諦めたゾンビ一号は即座に制御権を奪えるようにする。
同時に黒狼は最後の一節を唱え始めた。
「『第一の太陽ここに降臨せり』、ゾンビ一号魔力を流せ!!」
そう告げるが早いか、黒狼は立ち上がるとゾンビ一号に己の羽織っていたネメアの獅子皮を被せる。
勝つ為の方程式はゾンビ一号に魔石を食わせながら組み立てた、十分とは言えないが1分ぐらいには勝ち目がある。
インベントリから取り出した未製錬の鉱石、ソレらをフィールドにばら撒き始める。
「理解できる行動をしてくださいよ!? あぁ、もう!! どうにでもなれ!!」
ゾンビ一号がそう叫んだ瞬間、レオトールの剣がヘラクレスを切り裂き殺す。
ゾンビ一号と黒狼の夫婦漫才中に一回、そしてこれの一回。
合計9回、後3回殺せばこの難行は終了する。
「【始まりの黒き太陽】!!!」
黒狼のソレよりかは少々威力が低いものの、数千度には達する極小の太陽が空間を灼いた。
1番の至近距離でその膨大な熱量を受けたゾンビ一号は、黒狼に被せられたネメアの獅子皮によってその熱と光のほとんどを遮断するに至る。
だがそのかわり鉱石をばら撒いていた黒狼は、その光によって蒸発。
もとい死亡した。
中心で戦いあっていた2人だがレオトールはその熱に対する防衛手段を保有こそしていなかったものの、ステータスのおかげで全身火傷程度で済んだ。
だが、流石にそこまでのステータスを保有しないヘラクレスは多少離れていたこともあり蒸発してしまう。
だが即時に回復するヘラクレス。
ソレを見たレオトールは一切の回復の猶予を持たず剣を握った。
*ーーー*
全身が焼け爛れ、まともな視界すら確保できないはずのレオトールは。
それでも声高らかに叫ぶ。
「コレで決める、大英雄!!『極剣一閃』!!!!」
不変の迷宮、そこにヒビが入ると思わされる踏み込みと共に、極剣によってヘラクレスの身体を切り裂く。
ステータス二万、扱いきれない膨大な数値をそのまま振るったただ極限の一撃は熱気舞い込むその中でヘラクレスを殺すには十分以上の火力を出す。
11回目の死亡、残る命はただ一つ。
もう大英雄に後は無くなった、叡智を宿すその瞳を見開き技を出そうと二つの主武装を交差させる。
「ーーーーーさせるかよ、【神々への復讐者】。」
幾度となく死にながら、そしてただの一回も死んではいけないと叫ぶ最弱が復活する。
かの大英雄、その現世での幼名を告げる。
一瞬動きが止まる大英雄、その瞬間黒狼はスキルを使用した。
「『錬金術』」
骨の癖に、骨ながらに。
豊かな表情を操り、尊敬と畏怖と。
そしてそれらが混ざり合った嘲りを浮かべ槍剣杖についている骸骨を掲げる。
他金属に錬金術の効きが悪いのは金属が固体であるから、莫大な熱量により溶け切ったソレを操るのであれば通常金属ほど時間はかからない。
ヘラクレスに纏わりつき、動きを止めた金属。
もがけばもがくほどより酷い火傷を与えるソレを見ながら黒狼は静かに詠唱を始める。
「『我が道にソレは有らず。』」
静かに、唄う。
ともに己の本性を自覚した、その性根は決して相容れぬ悪だと。
この光を扱うにはあまりにも自分は相応しくないと。
「『我が胸にソレは有らず。』」
だが、ソレでも。
例え、どれほど己が相応しくなくとも。
力を貸せ、と。
黒狼は叫ぶ。
描かれる魔法陣、同時に幾つも展開されるスキル。
その全ては、眼前の敵を殺すため。
その全ては、そこに佇む仲間と次を迎えるため。
邪悪を焼く極光を展開するため、全てのリソースを注ぎ込む。
「『されど、我が名を持って告げる。』」
全てを賭ける、だから大人しく言うことを聞けと。
黒狼は心の中で、嘘にしか聞こえない本心で叫んだ。
故に、その魔法陣は答える。
「『万象を照らし光り輝く極光、あり得ざる十三よ。』」
4極、そこに刻まれた一つの【 】。
それによって魔術は広がり、重なり極光となる。
万物を遍く照らす極光、ソレを受けて輝く淡光。
『月より闇と魔を司る純潔の神』の寵愛を受けた骨は、声高らかにその先を叫ぶ。
「『今ここに、あり得ざる光を放て。【光り輝け悪虐の聖光】』」
残存HPはただの1。
蛇の呪いを使い、出せうる全てを出す。
故に、己に応えない極光はソレでも最低限の仕事をこなした。
濁流の様に放たれたソレをヘラクレスは真正面から受け止める、間違いなく己を殺す一撃をヘラクレスは丁寧に理性と智慧を持った目で正面から受け止める。
最初に大きな斧剣が弾き飛ばされた、次に大きな棍棒が。
ネメアの獅子皮は数秒保っていたが、徐々にその熱量によって焼け消える。
残るは強靭な肉体のみ、だがその肉体は焼け爛れておりもうまともにその極光を受け止められない。
〈ーーⅫの栄光、『ヘラクレス』にして『アルケイデス』ーー〉
〈ーー討伐されましたーー〉
簡素に、簡単なアナウンスを聞いた3人はそれぞれの形で脱力し。
薄氷の勝利を噛み締めた。
完全制覇!! と書きましたがⅫの難行編はもう少し続きます。
そして、ヘラクレスはポリゴン片になっていません。




