Deviance World Online ストーリー2『知恵』
レオトールがその文言を告げた瞬間、灼熱の空間だったはずのコロシアムが絶対零度になったかの様に凍てついた。
ヘラクレスが放つ恐怖の威圧、それと同格もしくはそれ以上にレオトールから根源的恐怖を呼び起こす様な威圧が現れる。
何か、見てはいけない、存在してはいけないナニカを見ている様な錯覚に陥る。
だが、その感覚は轟音と共に交差する武器の音によって掻き消える。
先程までの劣勢が嘘の様に、レオトールはヘラクレスの武器を押し返していた。
スキルを併用しない一撃、だがその攻撃は今までの攻撃の何倍も重く素早く鋭い。
先程までのヘラクレスならば受けることすら許されなかったモノだろう。
だが、ヘラクレスはその力を受け流し互いの技量と力は拮抗していた。
「レオトール!! 振り回されるな!!」
黒狼の忠告、同時に2人の剣は大きく弾かれ無数の軌道を描く。
間違いなくレオトールがヘラクレスを圧倒している、だが圧倒していても技量では負け始めている。
一瞬にして膨れ上がったステータス、そのおかげでステータスで上を行っていたヘラクレスに競り勝つことができているがそのかわり……。
(クッ、やはり体が持たん!!)
肉体に莫大な負荷が発生している。
通常のレオトールならば絶対に行わない攻撃、技量ではなくステータスのゴリ押し。
『水晶大陸』、その効果はステータスの10倍化。
一気に増えた値に、流石のレオトールと言えど制御できない。
だが、する必要はない。
莫大なステータス、技量による制御が不可能とは言え唯のゴリ押しですらソレは凶悪な一撃となる。
単純に考えてダメージが10倍になるのだ、12の命をもつヘラクレスであれど無条件で喰らえば即座にそのHPを削られる。
故に、ヘラクレスは初めて理性を以てスキルを発動した。
「『猛き戦神』」
あまりに強烈な反撃、扱いきれないステータスにより避けきれずレオトールがくの字となって吹き飛ぶ。
しかし互いにダメージは軽微、いわばコレはジャブの様なもの。
故にこそ、勝負は剣術による殴り合いではなくスキルによるシステムでの競り合いとなる。
「『流星一閃』」
「『偉大なる海神』」
同質の攻撃、破壊力はヘラクレスの方が高く技巧ではレオトールが。
火花を散らしながら二つの剣は極限を描く。
一進一退、いやどちらも退かず常に動きながら其々のスキルを発動する。
「『技遊の万能』」
「『絶叫絶技』」
ヘラクレスはその剣で風を切り裂き真空に流れ込む空気によって完成した暴風を浴びせる、レオトールはスキルによって発生する暴音と周囲の空間を共鳴させソレによってその暴風を相殺した。
ダンジョンでなければ周囲の土地がひび割れ、抉れ天変地異の様な災害が起こっていたことだろう。
ソレが起きていないのは偏にここが絶対不変のダンジョンであるが故。
少しでも近づけば粉砕、離れていても絶死。
黒狼やゾンビ一号が死なないのはその強力な攻撃の主となる部分が、システム的に状態異常に換算されるから。
逆を言えば、状態異常に換算されなければ今すぐ死にかねない。
「『氷海魚剣』」
「『智慧の戦神』」
再度、剣がぶつかり合う。
輝羅綺羅と輝くエフェクト、ソレは大海を示すと波となってヘラクレスを襲った。
同時に放たれたヘラクレスのスキルはその大海の間を縫い、巨躯でありながらレオトールに肉薄する。
だが、その均衡はこの剣戟によって崩れ去った。
ステータスの差、ソレを上手く活用したレオトールの手によりヘラクレスの剣が大きく弾かれる。
そこに到来するAGI20000の攻撃、最大速度に到達していないとは言え加速の一瞬だけでもその速度で襲い掛かれば先程までの音速以上とはいえ緩やかな動きにはついていけない。
レオトールは即座に回復しているながらもほぼ完全に骨が折れた右腕の代わりにヘラクレスから1殺を奪う。
「『冷却滅剣』」
「……!? 『忌まわしき神の女王』」
スキル『12の栄光』、神の呪いによって編まれた12個の命。
ソレによる完全回復に要求された時間、ソレによる初動の遅れ。
天秤が傾く、拮抗が崩れ始めた。
されど、未だその技量は遥かに高く。
一瞬の焦りから放たれたその攻撃は、純然たる破壊を齎す。
レオトールが放った凍てつく冷気を纏ったソレ、対抗するは黒色に澱む不屈の焔。
ソレは怒り、ソレは嘆き、ソレは呆れ、ソレは失望。
余りあるソレは神をも殺さんとする呪いを持つ。
その攻撃は、己が身に宿る宿命を示す様だ。
だからこそ、レオトールは追撃を放つ。
最大限の敬意を持ちながら、その役割を終えさせる為に。
「『紅蓮真紅』」
「『月闇の純潔神』」
荒ぶる炎、世界を灼くソレを思わせるソレは漆黒の中に輝く黄金によって相殺された。
だが、その熱はヘラクレスに届き皮膚を灼く。
この程度では大英雄は死なない、死ねない。
だが、明確にソレはダメージとして蓄積する。
勿論、レオトールにもダメージは蓄積しており刻一刻とその身に傷を増やしている現状だ。
だがしかし、受ける傷は急激に爆増したステータスにより急速に癒され死を覚悟させるほどの痛みと共に万全となる。
故に、優勢。
脳内から分泌されるアドレナリンが、四肢の端々で物理法則により溜まりつつある血液が、膨大なINTによって誤魔化している酸素不足による思考力の低下があれど。
優勢なのだ。
「『冥府に佇む尊神』」
「『貪断食暴』」
ヘラクレスの即死攻撃、ソレを貪り食うモノを意味するスキルで無効化。
ソレどころかヘラクレスをスキルによって縛り付ける。
一瞬の拘束、体が動かせなくなったヘラクレスはレオトールから放たれたスキルを使わない絶技によって命を絶たれる。
「ーーーーーーーーーー!!」
突如の咆哮、大地は轟々と揺れ黒狼たちは横殴りをされたかの様になる。
逸話において、ヘラクレスの発狂は周囲の人々を絶死に追いやったとされる。
状態異常がほぼ完全に無効化される2人だからこそその死を喰らわず、レオトールは膨大なステータスで耐え忍んだが……。
ヘラクレスはその一瞬にて反撃手段を整えた。
先程投げた棍棒を掴むと手に巻いていたネメアの獅子皮を棍棒と結ぶ。
瞬間、襲い掛かるレオトールだがその攻撃をネメアの獅子皮で防ぐと反対の手で持つ斧剣で切り裂く。
本気、ソレでいながら全力。
短い間に与えられた死、そこで本来得られるはずだった武器武装が現れるが……。
ヘラクレスはソレに目もくれず、レオトールを見据える。
「『豊穣と酩酊』」
「『英雄必剣』」
また、剣戟が始まった。
残る命のストックは5ですね。
そして互いに覚醒しました……、いやコレ無理ゲーじゃない?
2人とも最低マッハ1で動きながらSTR5000で殴り合ってんだけど……。(控えめに言って序盤のボスと味方じゃない)
コイツら(主にヘラクレス)実はラスボスだろ……?
そして置いてけぼりの2人。
基礎も足りてないのに応用についていけるわけないよね!!
と言うか現状最大規模のスキルの撃ち合いやってる横で必死に生き残ってるだけでも誉められるモノだと作者(黒犬)は思うの。
さて、予定ではヘラクレス戦は後3話程度だけど予定内で終わるかな?




