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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章上編『忘却されたⅫの栄光』

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Deviance World Online ストーリー2『水晶大陸』

「変われ、『環境適応(猛毒)』」


 スキル発動、ソレと共に状態異常に対する絶対性を捨てる。

 それと同時にヘラクレスが放っていた矢をインベントリから取り出す。

 元から手段は選んでいない、そしてコレからも選ぶつもりはない。

 殺すために全てを使う。


「さて、大英雄。お前が放った毒矢、お前に耐えられるか?」


 その言葉と共に投擲を使い黒狼は、ヘラクレスに毒矢を放つ。

 神話において、多少の手助けがあったとは言えヘラクレスはヒュドラを打ち倒した。

 そして、その猛毒を矢に浸し必殺の毒矢にして後の試練に役立てたと言う話がある。


 さっき放たれた矢、そしてレオトールが行った対策。

 それらを見れば嫌でもわかる、あの矢はヒュドラの猛毒が混じっていると。


          (GaaaaAAAAA)!!!!!!」


 絶叫を上げる、全身を焼くような痛みから逃れんと叫びを上げた。

 レオトールすら即死しかねないその猛毒、ソレを直に食らって尚生存している事は偉業ではある。

 だが行動ができない以上、戦闘においてそれはただの弱点でしかない。

 ニヤリと笑うと黒狼は、杖を翳しスキルを唱える。


「『呪血(ブラッド)』ついでに『蛇呪』」


 猛毒に適応した黒狼、いわばその状態の黒狼にとって猛毒は己の血肉に等しい。

 で、あるのならば。

 自分の血肉にも等しい猛毒を変質させるのは、容易い話だ。


 体内に混ざる異物、血液となった猛毒によりヘラクレスはさらなる絶死を経験する。

 血液、呪術における最も有用な触媒。

 体内に混ざり込んだソレは呪いを吸い込み、ヘラクレスの体内で牙を剥く。

 

 犯す、侵す、冒す。

 

 赤色に発光するほどに莫大な魔力が沸るその血管に混ざり込んだ致死毒。

 緩やかに、けれど確とその体を蝕みたった5秒でヘラクレスを死に追いやる。


「『夜の風、夜の空、北天に大地、眠る黒曜。』」


 再度全身を復活させるヘラクレス、その隙を突き黒狼は魔術を展開する。

 ゾンビ一号から教わったマジカルキャノン、その時についでとばかりに他の魔術も刻んでいた。

 黒狼が保有する最大火力、そのうちの一つを展開するため黒狼は詠唱を行う。


「『不和に予言、支配に誘惑、美と魔術。』」


 未だ二節、深淵スキルを併用した魔術であるため要求される節は5。

 されど、目の前でかの大英雄は復活し始めている。

 残り三節を唱え切るには、時間が足りない。


「『其れは戦争、其れは敵意、山の心臓、曇る鏡。』」


 残り二節、ゾンビ一号が動く。

 ほんの少しの時間を稼ぐため、ヘラクレスに向かっていったのだ。

 スキルエフェクトを纏わせ、攻撃するゾンビ一号。

 だが、その攻撃をヘラクレスはあっさりといなし手に持つ棍棒で弾き飛ばす。

 同時に何か大技を放とうとする黒狼に対して踏み込み、ソレを止められた。


「させるかッ!! 奴を殺したくば俺を殺してからいけ!!」


 踏み込みは同時、放たれる技は同質のもの。

 ステータスでも技量でも明確に置いていかれたレオトールだが……、それでもヘラクレスは無視できなかった。

 巧い、相手が一撃でも喰らえば勝敗が決する程度でありながら目の前の彼はその一撃も喰らわない。

 押されていながらも、敗北には至らない。


「『五大の太陽、始まりの52、万象は13の黒より発生する』」


 四節目、残り一節。

 あまりにも長い一瞬は、それでも一瞬であった。

 ヘラクレスは、レオトールを弾き飛ばすと理性が宿り始めたその慧眼で黒狼を睨む。

 稼いだ時間はほんの少し、だがそのほんの少しがヘラクレスの貴重なリソースを削り取る。


「『第一の太陽ここに降臨せり、【始まりの黒き太陽(ファースト・サン)】』」


 目の前に描かれた簡素な魔法陣、ソレは深淵に住むヨワリ・エエカトルのジャガーによって変質させられアステカ神話に登場する黒の神の権能に変化した。

 勿論、そのままの権能を引き継いだわけではない。

 所詮骨でしかない黒狼がソレを扱えるはずがない、だが権能の一側面を扱うのは十分だ。


 太陽、万象を照らす灼熱。

 その権能を付与されたただの魔術は一瞬にして膨れ上がり真っ先に黒狼を殺す。

 だが止まることはない、与えられた魔力を用いてその場に極小の太陽を降臨させる。


「ッ!! あの馬鹿野郎!? 私達ごと殺す気か!!」

「制御できない魔術をぶっつけ本番で使うんじゃないです!!」


 2人とも叫ぶと同時に灼熱から逃れる。

 とは言え狭い空間、摂氏数千度に達する灼熱から逃れ切ることは非常に難しい。

 レオトールはインベントリから剣を取り出すと魔力を流しゾンビ一号と己に冷化のバフを掛ける。

 判断が一瞬でも遅れていれば死んでいた、少なくともゾンビ一号は。

 そんな膨大な熱量を浴びせられた2人が憤るのも当然の話だ。

 だがその憤りも一瞬の話、それ以上に至近距離で莫大な熱を浴び上半身が消し飛んだにも関わらず完全蘇生を果たそうとしている大英雄を見て戦々恐々とする。

 

「とりあえずだ、喰らえ!!」


 だが、コレも想定できた話。

 思考を即座に切り替えると、インベントリから出したヒュドラの猛毒を投げつける。

 ヘラクレスに当たり、ガラスが割れ中から猛毒が溢れ出しヘラクレスはソレを浴びてしまった。

 総量は大したことない、だがその猛毒は間違いなくヘラクレスの生命を削る。


「ゾンビ一号。」

「なんですか!?」

「この戦いが終われば私はしばらく使い物にならん、故に後は任せたぞ?」


 え? と、驚愕の表情を浮かべるゾンビ一号。

 熱は未だ空間に満ちている、大英雄は毒に悶えているが体内に入っていない以上長時間悶えることはないだろう。

 レオトールは息を吐く。


(長い様で短い28日だったな。)


 心の中でそう呟く、その言葉に込められた想いは一体何か? 少なくとも余人が推し量るにはあまりにも重く実直なものだろう。

 故郷から共に戦ってきた仲間からの裏切り、もう少しで死ぬところで黒狼に出会い、そして謎のダンジョンに飛ばされゾンビ一号の進化を共にしⅫの難行で剣を振るった。

 

(賢人、ケイローンよ。確か貴様は私に対して選択をしろと言っていたな?)


 ケンタウロスの村、そこで黒狼がアーツを得た後レオトールはケイローンに一つ助言をもらっていた。

 レオトールはソレを思い出す。

 

『貴方は近い未来、大きな選択を行うでしょう。命か、誇りか。どちらを選ぶかは貴方次第ですが……。』

『……、根拠は? 生憎と根拠もない戯言を聞く気はない。』

『賢人として与えられた能力、でしょうか?』

『……、そうか。だが問題ない、もし選択をする時が来るのならばその選択の答えは決まっている。』

『そうですか。』


 ほんの少しの問答、だが脳裏に鮮烈に焼き付いたソレをレオトールは今この瞬間思い出した。

 ヘラクレスが毒の効果を乗り越えた、もう他に毒はない。

 散っている矢を拾い投擲し刺すには、互いの技量が高すぎる。

 だからこそ、レオトールはリスポーンした黒狼を横目にしながら最凶の奥の手を切った。


「展開、」


 急速に接近するヘラクレス、理性の目が宿るソレを真正面から睨み返し剣を握る。

 時間にして一瞬未満、コレを使えば一瞬の絶大な力と引き換えにしばらくの間酷く弱くなる。

 それこそ本来ならば相手にもならない洞窟蜘蛛(アサシンスパイダー)にすら殺されるだろう。

 だがコレを使わなければ己が忌み嫌う誇りなき死が待っている、意味なき死が待っている。

 そして、盟友(とも)が死ぬだろう。


 それだけは許さない、許されない。

 故に、レオトールはその名を告げた。


「『水晶大陸』」

さて、ヘラクレスは合計5回死にました。

……、思った以上に死んでないな……。


割と全力を振り絞った黒狼と入れ替わる様にレオトールの奥の手こと最強スキルを発動しました!! ヤベェ、カッケェ!!

ついでに黒狼相手に使えるタイミングを誤魔化していましたがレオトールは勿論把握しています。(ケンタウロスの難行の夜のシーンでチラッと話してたり)

言わなかった理由は、ソレを使わなくても攻略できそうだからて感じです。

と言うか、使えるってバレたら黒狼は使わせる前提で作戦を組みますからね。

流石レオトール、英断です。

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例えば、侵食する水晶で作られた極限地帯...エピソード52「環境適応」より 話に出たからにはいつか出るだろうとは思いましたがまさかスキルで出てくるとは...
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