Deviance World Online ストーリー2『千本桜』
大英雄ヘラクレスは、再度全身から蒸気を噴出させ血管が赤く光る。
死からの再生、黄泉帰り。
絶死の一撃さえ、彼を確実に殺すには余りにも弱い。
「レオトール!! 私が!!」
「ほざけ!! コイツの防御力とHPを消し去る攻撃などッ!? そうか……!!」
「魔力さえ有れば、どうにか!!」
「先に逃げろ馬鹿野郎!! 話は後からでもいいだろ!!」
「真っ先に逃げてる人の言葉の説得力は半端ないですねェッ!! 黒狼!!」
そう言いながら、狭いフィールドを3人は逃げ回る。
その奥で、ヘラクレスは弓を放り投げると空に現れた大きな獅子の皮を手で掴む。
ネメアの獅子皮、その効果は全耐性……、ではない。
黒狼たちが挑んだのはオリジナルの劣化版であり、オリジナルはあらゆる攻撃に対する無効化能力を保有している。
ソレ一つで武器となりうるのだ。
「『 』」
その毛皮に魔力を纏わせ、右手に手甲として装備する。
そして、一気に地面を蹴ると黒狼に向かって突撃した。
「ッ!?」
なんのスキルを使う間も無く、拳によってスケルトンの体躯を粉砕される。
例えようがないほどにその強靭な恵体は、所詮カルシウムの塊でしかない黒狼を砕くのに十分だ。
黒狼が自身の肉体を粉砕されたと認識した瞬間、白い空間に飛ばされる。
「不味いッ!!」
即座に、レオトールはヘラクレスに切り掛かかりあっさり弾かれた事に恐怖を覚えた。
この男は、目の前の大英雄は。
戦いながら成長している!!
最初はこれほど強くなかった、最初の剣戟ではこれほどの技量はなくただただ巨大な斧剣を高速で振り回すだけの存在だった。
だが今はどうだ? レオトールと戦った事によりその技量を飲み込みスキルを使用し出している。
この戦車のような大英雄は鈍器のような自らをレオトールと戦う事により刃に磨き上げているのだ。
舐めていたわけではない、油断をしていた訳ではない。
だが、先ほどまで存在していた余裕は消え去った。
「使うか、奥の手を……。」
発声せず数多のスキルを発動させる。
どれも取るに足らないスキルだ、だがソレらを発動しなければ即座に押し負けるのが否応なく理解させられた。
ヘラクレスの視線がレオトールを捉え、スキルを発動させると斧剣を手元に引き寄せる。
『剣限』、その効果に酷似している。
魔術でなければソレは、間違いなく同様のスキルだろう。
飛んでくる大質量武器を避け、剣を持たない左手で拳を叩き込む。
「『二打不』」
スキルエフェクトにより一瞬八極が現れ、ソレを砕くようにレオトールの拳が到来する。
ソレをヘラクレスは一目すると、両腕を交差させネメアの獅子手甲で防いだ。
ソレでも威力は消え切らないのか大きく吹き飛ばされる、そこに追撃としてレオトールはインベントリから出した槍に魔力を纏わせ雷槍として射出させる。
超電磁砲、レールガン。
その原理を理解はしていないものの、魔術によって齎される効果は変わりない。
大きく音が鳴ると共にヘラクレスの分厚い皮膚に突き刺さった。
「『串刺し』」
無駄だとわかりながらも、そのスキルを唱える。
先程は成功したスキル、だが同じ技を二度も喰らうほど大英雄は甘くないようだ。
スキル発動と共に、魔力でできた杭を生成しようとする槍だったが大英雄は杭が生成される前に抜き去る。
そして、その槍を投げ返した。
音速すら超える超速のソレ。
視認してからでは避けられない、だが来ると分かっていれば避けることは容易い。
超速で飛来するソレを紙一重で躱す。
躱しながらレオトールは再びインベントリを開き、刀を取り出した。
日本刀とは違う、中華刀といえばいいだろうか? そこに魔力を流し筋力強化を施す。
横ではゾンビ一号が先程飛ばされた灼熱の槍を掴み、魔力を流している。
「『祖は大地を抱く天命』」
「『 』」
白銀のエフェクト、ソレを纏いヘラクレスに肉薄するレオトール。
相反するヘラクレスは、漆黒のエフェクトを纏いその強靭な四肢を赤黒く輝かせている。
両者の衝突、即座に雷鳴が轟き人類の臨界とも思える戦いが始まる。
互いに一歩も引かず、されど一歩も進めず。
ステータスでは軽くヘラクレスが優っている、だがその長所は経験の喪失故に生かしきれていない。
逆にレオトールはステータスこそ劣っているものの、その技量でギリギリステータスの溝を埋めている。
だがこの拮抗は長くは続かない、ヘラクレスの足りない経験はこの瞬間にもレオトールの動きを見て喪失したソレを取り返しより強くなっている。
このままでは負けてしまうだろう。
「いいや、負けないさ。」
思わず、レオトールは笑ってしまった。
己が負ける? そんな事、誰が決めた?
まだ奥の手は残っている、まだ使える手段は存在する。
何より、この五体は未だ健在だ。
何より、この敗北はレオトール自身が許さない。
勝つ理由はあれど、負ける理由など微塵もない。
負ける理由は、負けた時に考えればいい。
「俺が、勝つ。」
中華刀にヒビが入り始めた、武器の質が違いすぎる。
レオトールの剣ならば決して砕けない壊れないだろう、だが凡百のソレを使い続けるのは限界だ。
スキル効果時間は残り数瞬、引くならば今しかない。
判断は一瞬、思考を切り替えるよりも早く背後に退く。
直後、ヘラクレスに向かって雷槍が飛ぶが……。
案の定、避けられる。
技量が上がり始めている、最速の奇襲ですら感知されている。
追い詰められていないだけで、詰将棋のように一歩手前まで追い詰められている筈だ。
目に見えない経験が、目に見えるように牙を剥いている。
「まさか180分待機と思った!? 残念!! 俺の登場だッッッツツツ!!」
「遅い、黒狼!!」
だからこそ、経験などない最弱がその牙を請け負う。
ニヤリと、思わず口角が上がる。
仲良しこよしは懲り懲りだと思わされたのは1ヶ月ほど前だっただろうか? その後にまさかこれほどの仲良しこよしをさせられるとは。
そんな気持ちと共に、彼の名を呼ぶとレオトールは開いていたインベントリから日本刀を取り出す。
必要なのは継続火力ではなく、瞬間火力。
そして、使用後の隙を考えなければその火力を出せるのは抜刀術。
レオトールが持つソレは擬だが、結果はそう差はない。
今出せるソレを全て出し切る。
右手に持つ剣を前に投げつけ、左手で掴んでいる刀を握る。
「『抜刀、桜花泰然万象捨斬(擬)』」
薄い桃色のエフェクト、ソレと共にレオトールがヘラクレスと共に中心で舞い踊る。
その姿は神に奉納する演舞そのもの。
厳かな雰囲気がその場に満ち溢れ、直後放った剣が地面に着く。
キィィィィィン……。
静かに、剣が地面に当たる音と共に血飛沫が上がった。
誰のか? 答えるまでもない、ヘラクレスのものだ。
桃色のエフェクトは効果発動と共に一気に桜吹雪となり、レオトールが持つ刀はその桜吹雪に乗りながらより一層ヘラクレスを切り刻む。
3回目、ヘラクレスは3回死んだ。
ヘラクレスが放ったスキルが空白の理由は、ヘラクレスが忘却しているスキルだからです。
本当の意味で思い出せば空白に文字が入ります。




