Deviance World Online ストーリー2『【神々の栄光】、又は【神々への復讐者】』
ソレは、迷宮の奥で佇んでいた。
ソレは、巨大な斧剣で体を支えていた。
ソレは、神話最後の時代の生き残りのその1人だ。
〈ーーⅫの難行、訂正ーー〉
門が現れる。
レイドボスコールが流れ始めた。
目覚めは近い、眠りは近い。
〈ーーⅫの栄光、英雄でありレイドボスーー〉
目を開ける、主神の雷霆によって焼かれた全身はもうすでに回復している。
体から蒸気が溢れ出す、衰えたとはいえレオトールを凌駕するそのステータスを振るうため石のように固まったその体が動き始める。
〈ーー【神々の栄光】、顕現しますーー〉
目の前に、何か言葉を紡いでいる3人を視界に捉え体に刻まれたその命令を実行するように体を動かす。
鉛のように、大地を背負っているかのように重い。
だが、刻まれた命令はその酷く重い体躯を動かす。
男は声高らかに叫びを上げた。
*ーーー*
扉を潜った瞬間、黒狼は異様な威圧感を覚えた。
言葉にできないほど、重苦しく息苦しく。
死、その恐怖を明確に意識させる。
〈ーーⅫの難行ーー〉
アナウンスが流れ出した。
確りと聞くのは酷く久々かもしれない。
一瞬遅れ、現れる2人だがこの空間に漂う唯らなぬ雰囲気を感じ即座に戦闘態勢に入る。
〈ーー訂正ーー〉
暗かったはずの空間がいつのまにか明るくなった。
円形の闘技場、ギリシャ風の建造物の中心で1人の男が目を開ける。
より一層増す絶望、肌を焼くほどの闘気が目の前の存在から漏れ出し脅威を正しく認識させた。
真っ先に前に出るレオトール、いつでも攻撃可能な姿勢になる。
先手は取れない、少しでも欲を欠けば即座に死ぬ。
目の前の脅威を正しく認識したレオトールは、心の中で燻り出した恐怖を凍てつくような理性で封じ込める。
勝ち目は、無いわけではない。
だが、それでも。
〈ーーⅫの栄光、英雄でありレイドボスーー〉
興奮か、はたまた恐怖か。
死の影が濃厚に漂うこの領域で、レオトールは久々に北方の土地を思い出す。
己の故郷にして、ただの例外も無しに弱者が生きることが許されなかった大地を。
そこで出会い、戦い。
時には殺した兵どもを。
〈ーー【神々の栄光】、顕現しますーー〉
久々に聞くそのレイドボスコール。
感じる圧は生半可な敵ではないことを示す。
目の前の男は全身から蒸気を噴き出し、口を開ける。
「全員!! 生き残ることだけを意識しろ!!」
レオトールがそう叫び、普段は笑えない冗談混じりに返す黒狼や真面目に返答するゾンビ一号が形相を変え男から距離を取った瞬間。
空間に音が響き、世界が割れた。
*ーーー*
「ーーッ!!」
(巫山戯るのも大概にしろ!!)
黒狼は内心でそう叫びながら咆哮を聞く。
ただの音の振動、のはずだ。
なのに骨が大きく震えダメージが発生している。
状態異常無効を持っていなければ、恐らくは何らかの状態異常を患っていただろう。
それだけのモノであるはずなのに、ただの一つのエフェクトもない。
つまり、アレは攻撃の意思すらないモノだと言うことだ。
「ゾンビ一号ッ!! 『絶対に生き残れ』!!」
屍従属を用いて、命令を下す。
最悪、自分が死ぬ分にはどうにかなる。
だが彼女は? NPCである彼女はどうなるのか?
その未知数を、この土壇場で行いたいとは思わない。
十分と思いたいほどに距離を取り、黒狼は思考を巡らせる。
レオトールのあの焦り具合、そして今も感じる死の重圧。
VRCに元来搭載されている精神保護機能が警告を出しほどの重圧だ、勝ち目が見えない。
「『強靭な骨』『筋力強化(幽)』『跳躍力増強I』『腕力増強I』『視覚強化I』!!」
即座に環境系以外の強化を施す。
あの男は、英雄は黒狼を認識していない。
取るに足らない弱者としてしか見ていない、故にこれだけの強化を施せた。
だが、所詮誤差だ。
黒狼が強化を掛け終えた瞬間、レオトールと英雄は剣を打合い始めた。
レオトールの剣は実直な長剣、対する英雄は2メートル余りの巨大な斧剣。
その重量は1トンを超えているだろう、ソレは剣というには余りにも大きすぎた。
大きく、厚く、分厚く、大雑把過ぎた。
そんな剣を軽々と、レオトールの速度にも負けない……。
それどころか勝るほどの速度で振るわれる。
轟音と共に生半可な剣では軽くひしゃげるであろう攻撃を叩きつける、レオトールも生半可な強さではないがあまりにも差がありすぎるのだ。
初めからわかっていたことだが、その剣戟はその剣撃は黒狼が介入するにはあまりにも卓越し過ぎていた。
「笑わせる……!!」
目に喜色と愉悦の炎を湛えながら、槍剣杖から剣を抜刀する。
介入するには黒狼は弱すぎる、だが何もしないと言う話はあり得ない。
必死に頭を動かし、ゾンビ一号を見る。
彼女も剣を抜いてはいるものの、どう行動すべきか悩んでいるようだ。
勿論、手が無いわけではない。
だが、黒狼の持ちうる手段は周囲を巻き込む事前提でありゾンビ一号の場合はマジカルキャノンしかない。
支援に入るには少し、手段不足が否めないのだ。
「……、仕方ねぇ。」
ボソリと、だが確りと呟き黒狼は走り出す。
レオトールは依然劣勢、自己強化すらままならない状態。
状況を変化させるには、レオトールでは出せない一手が必要不可欠。
そして、ソレを最もリスクが低く行えるのは黒狼だけ。
覚悟は元から決まってる、このまま腑抜けたままで負けるなど神が許そうが黒狼が許さない。
レイドボス? 神々の栄光? 知ったことか。
「最弱上等ッ!! 英雄殺し、承ったぜ?」
黒狼はそう叫ぶと同時に全力で走り出す。
2人に比べれば酷く遅いソレ、だがそれでも全力だ。
頼りない槍剣杖を握りながら黒狼は、英雄に襲いかかった。
場所が一瞬で数メートル変わる打合い、そこに介入した弱い存在筆頭の黒狼。
レオトールは驚愕に目を歪めながら、英雄は視界の端に現れた邪魔者を排除するため斧剣を動かす。
その速度は神速、目にも止まらず黒狼の速度では認識も覚束ない。
だが、どこに来るかぐらいならば予想はできる……ッ!!
ドゴンッ!!
神速で振るわれるソレを防ぐため剣と槍を交差させ、地面に叩きつけられながら受け止める。
受け止める、とは言えソレはほとんど受けただけに近い。
地面に大きく叩きつけられた黒狼は、予想通りと言わんばかりにスキルを叫ぶ。
「『錬金術』!!」
さて、覚えているだろうか? 黒狼の武器の素材を。
錬金金属、その性質は錬金術によって形状を変化させることが可能な金属。
ソレを利用すれば……。
「捕まえたぞ? 英雄。」
虚の眼孔、そこに激情の焔が灯る。
表情は無くとも、ニヤリと笑っている姿を幻視する。
最強? いいや、最弱だ。
だがその最弱が、システムに英雄と称された相手に一矢報いた。
「行け、レオトール!! お前の最強の一撃を放って見せろ!!」
「『極剣一閃』!!」
黒狼が槍剣杖を変形させ、ヘラクレスを拘束したのを見た瞬間レオトールは究極の一撃を放つため剣を握っていた。
極剣一閃、グラムと言われたその極剣。
レオトールはここで初めて、その最高火力を発揮する。
今までレオトールが行っていたのは、応用的な使い方だ。
そして今から行う使い方は、基本の使い方である。
剣を握り込み、スキルを発動する。
北欧の極剣、その名を冠したそのスキルを。
剣から斬撃性のあるエフェクトが発生し、ソレを真横に振り抜く。
現れたのはエフェクトで出来た一閃、その場に一瞬だけ残留する光の糸。
速さによって叩きつけるのでは無く、技量によって光を収束させる。
それによって行われる一閃、ここで初めてソレが披露された。
さて、初手は何回もの打合いと黒狼の奇策。
レオトールの本気の極剣一閃によって始まりました。
このまま倒されてくれれば……、ありがたいんですがね?(不穏な空気)
正直、一章上編最高の (クソ)ボスなのでお楽しみください。




