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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章上編『忘却されたⅫの栄光』

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Deviance World Online ストーリー2『自由への激情』

「……目標、か。語ってみせよ、コレを難行と定めた以上祖は汝の話を聞く義務がある……。」

「大層なもんじゃねぇけどな、ソレでも俺がゲームを始めてレオトールと会いゾンビ一号を作ってなんとなく定めてた目標だよ。」


 そう言って、ニヤリと。

 骨の体躯で笑う。

 恥ずかしさを、侮辱される恐怖を押しとどめ黒狼は口を開く。


「物事には、キッカケがある。俺がここにきたのも偶然じゃねぇ、必然だ。とは言え、最初の理由は只々気になったからだったけど。」


 ポツポツと語り出す、その前置きにどれほど意味があるのか? ソレは黒狼ですら理解できない。

 只々、馬鹿にされるために嘲笑されるために黒狼は夢を吐く。

 大言壮語、妄言の類でいながらソレでもと。

 黒狼は己の夢を、目標を語る。

 面白みはないだろう、侮蔑しかされないだろう。

 だが、ソレで先が開けるのならば。


 黒狼は全てを捨てられる。


「最初は最悪だった、永遠と死んでたよ。んで、真っ暗な洞窟に辿り着いて、そこで真っ黒な騎士に出会って、レオトールに出会って。そしてダンジョンに飛ばされて。」


 思い出をなぞる。

 この言葉にどれほどの意味があるか分からない、もしかしたらただの愚痴を話しているだけにしかならないかもしれない。

 背後でゾンビ一号は若干呆れながら、レオトールは無表情で聴いている。

 アトラスは相変わらず顔を歪めたままだ、だが誰もが黒狼の言葉を聞いているのは間違いない。


「んでゾンビ一号を作り、アホほど戦って。全然強くならねぇ……、って笑って。んでそん時に、目標ができたんだよ。」


 感動すべき話ではない。

 感動される話ではない。

 ただ、コレは笑い話(ファニーテイル)だ。

 馬鹿みたいに嘲笑されればいい。


「俺の目標は、自由だ。ああ、そうだ。自由なんだよ、俺の目標は。この世界で自由に生きるんだよ、あらゆる物に縛られながらソレでも自由に笑う。俺が、この世界で俺が一番自由に笑う。な? 笑えるだろう?」


 狂気じみた声で、だが確とした激情を持って言葉を紡ぐ。

 ゾンビ一号が思わず声を出そうとする、何を言っているのか分からないと。

 レオトールは呆れながら、ゾンビ一号を制する。

 レオトールは理解している、この言葉は空虚で虚な物だと。

 本人も果たしてどれだけ信用しているのか分からない話だと。


「……なるほど? なるほど、なるほど。確かに、ソレは笑い話だ。弱い癖に、脆い癖に、ソレでも自由を叫ぶのか? 骨の汝が!! なるほど!! なるほど!! 確かに笑い話だろうと!! ハッハッハッ、ああその通りだ!! 笑い話だ!! 空虚で意味のない話だ!! 道理がない!! 筋が通っていない!! そして何より、貴様自信が信じていない!! アッハッハッハ!!」


 だから、アトラスは笑った。

 快活に、大声で。

 大地を震わす程大きな声で、ダメージが発生するほど雄々しい声で。

 そして、少し恥ずかしそうにしながら言葉を紡ごうとする黒狼を涙を流しながら見る。

 

「な? 笑えるだろう?」

「……次から本心を偽るときは自分自身を騙してからにしろ……。でなければ、今みたいな支離滅裂な文言になるぞ……?」

「笑わせりゃいいんだからな? あと間違いを正すとコレは俺の本心だ。」

「……そうか、ならば失礼だったな。ほれ、約束の品だ。受け取るといい……」

「有り難く、頂戴するぜ?」


 そう告げ黄金の林檎を受け取ると、黒狼は2人に向き直る。

 骨の癖にニヤリと笑みを浮かべ、感情を露出させながら黒狼は告げた。


「さぁ、お前らは俺の話を聞いてどう思った?」

「……、ふん。」

「せめてもう少しわかりやすく言ってくれませんか?」

「あー、今度から気をつける。感情を言葉に直すのって難しんだよ……。」

「一つ質問だ、お前は自由を得るために何を捨てられる?」

「何も捨てねぇよ、一つも捨てずに全部手に入れる。それじゃ、ダメか?」

「いや、そういう考えも悪くはないだろう。少なくとも私は賛同できんが。」

「えぇ……、いいじゃねぇか。全部捨てずに全て手に入れる、夢見がちな中坊が思いそうなことでさ?」

「だからこそ、だ。全てを捨てないのならば、捨てない責任を取れ。その自由は、自由ではなく我儘だ。」

「ああ、その通りだ。俺は我儘なんだよ、レオトール。」


 そう言って、レオトールを見た黒狼は軽く肩をすくめると流れるアナウンスと現れた扉を見る、

 次の試練は何か? ソレに思いを馳せながら。


「アトラス、先に行くぜ?」

「……ああ、先に行け。汝の思うままにな……?」


 互いに笑うようにそう言い合うと、黒狼は扉を越える。

 他2人もソレに続き、最後に残されたのは何かを支えるように立っているアトラスのみ。

 地平線の彼方まで続く大地を見ながらアトラスは、聴かせるべきではない話をポツポツと語り出す。


「……だが、弁えているか? 骨の異邦人よ。汝のいう自由とは、汝自身を絡めとる鎖に過ぎん。その鎖すら脱ぎ捨てるというのならば、その対価を払わねばならん……。」


 アトラス、ギリシャ神話において天空を支える神。

 ティーターン神族がゼウス達との戦いに敗れ、アトラースはゼウスによって世界の西の果てで天空を背負うという役目を負わされる事となった神。

 そして、その役を一時放棄し黄金の林檎を取りにきたヘラクレスに任せようとしたモノ。


 その逸話、その神話はこの世界でも大きく違いはない。

 ただ、違う点を挙げるとするのならばティターン神族だけではなく他体系の神々をも巻き込んだ世界の覇権を争う大戦。

 ソレは数多の奇縁により人と神々と神々の戦いとなり、その結末は未だついていないこと。

 このアトラスが支えているのは、天空ではなく主神ゼウスの手によって齎された重力魔術であること。

 そして、もう一つ。

 ここは西の果てなどではなく、神々が作り上げた封印装置の中であるということだ。


「……祖らは汝らの自由を認めん、祖らは世界を滅ぼしかねない汝らを認めん。ソレでも、自由を望むのならば相応の対価を払え……」


 何を封印しているのか? 何のために存在するのか? 何故中に生きる生物には役割が与えられるのか?


 ソレらを黒狼が知るには時期尚早だ。

 だが、その答えの一端を知るのは時間の問題だろう。

 アトラスはそう確信を抱きながら、外套を着た人間を思い出す。

 ーーの力を身に宿し、酷く重い覚悟を持っている彼を。

 もし黒狼が本当に自由を望むのならば絶対に目を逸らせない、逸らしてはいけない14のーー兵器。

 その一つの力を部分的に所有する男を思い出しながらアトラスは笑う。


 滑稽だと、コレほどに不自由な世界で自由を嘯くという滑稽さを笑う。

 笑って、笑って、笑って、笑って。

 その末にアトラスは誰にも聞こえぬ嘲笑を告げた。


「世界を知り、苦難を越え、気づくといい。己の無知とその愚かさ、何より吐いた言葉の重みを。」


 アトラスはそれだけ告げると、課せられた重みを再度自覚し力を入れる。

 久々に楽しませてもらった、と。

 非常に悪質なその思いと共にアトラスは酷く醜い笑みを浮かべた。

何やらアトラスは知っているようだが……?

さて、12の難行も次が最後ですねぇ。

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