Deviance World Online ストーリー2『黄金の林檎』
一瞬の違和感は消え去り、新たな大地がそこに見えた。
地平線の彼方まで広がる大地、そこに1人の大男が苦しそうに何かを支えるようにして立っている。
「……、殺す? あの男。」
「アホなんですか?」
「とりあえず、だ。話をしてみようではないか、我々人類最大の発明を使わない手はない。」
そう言いながら、レオトールが真っ先に剣を抜きながら男の元に近づく。
無警戒、というのは流石にできない。
今までの内容上、一切の戦いがないとは到底信じられないからだ。
念の為、しかしながら用心深くレオトールは警戒する。
「……、久方振りだな。人と会うのは……。」
重々しくうめくように、重低音で腹に響く声で男は告げる。
その巨躯は3メートルもあろうか? 比較的高身長なレオトールですら見上げなければならないほどに大きな彼は重々しく呻くと黒狼とゾンビ一号も視界に捉える。
「……深淵に見染められた親族の使徒に魂を混ぜ合わせた無貌の使徒、か。なるほど、時は来たようだな……。」
重々しくそう呟くと、恐怖と怒りを込めた目でレオトールを見る。
その怒りは深く、恐怖は絶望として。
何かを訴え掛けるように、理解されない絶望を噛み締めるように。
大男は諦観した目でレオトールを見る。
「……どうした? 大凡あの男の難行をなぞった道を歩いているのであろう……? その末に祖とあった、と……。のぉ? 水晶の申し子よ……。」
「すまないが、なんの話をしているのか私には分からない。」
「カッカッカッ!! なるほど、祖らの大戦は!! 祖らの血涙は!! 祖らが踏み締めたその全ては末裔にすら伝わらないのか!! 僥倖僥倖、実に僥倖だ!! 素晴らしい!! ああ、実に素晴らしい!! これほど酷い話は決してなく、これほどの喜劇は実になく、神々は軽んじられ続けるのか!! ……、巫山戯るな!! 巫山戯るな!! 祖ら、神族が遍く死に地に集う英雄が悉く死にさったあの神話が!! 英雄譚が!! あの叙事詩が消えた? 巫山戯るな!! これでは報われんではないか!! 名もなき英傑たちが、名もなき英雄たちが!! 14の極限に集った祖らがあまりにも!! …………、報われんでは………、ないか……。」
最初は全て諦めたように、心の底から滑稽そうに。
全てを笑う、笑って笑って馬鹿にして。
そして、全力で怒った。
怒りではない、ソレはそんな半端な言葉で表されていいモノではない。
天地を震わし、雷を思わせる叫びを上げ炎を見せる怒りを噴き出し。
そして、その二つが正しいと悟った男はその末に涙を流す。
濁流のように溢れ出る感情を、涙として流す。
黒狼たちには、ソレどころか恐らく今に生まれた人類には理解できない慟哭は。
言葉にならない哀愁と、言葉となった怒りと、言葉では語り尽くせぬ歓喜を持って涙となる。
流れ流れ、溢れ溢れ。
たっぷり10分は流しただろうか? そのあとに重々しく大男は告げる。
「……悪かったな、人の子よ。何度も何度も理解した結末とは言え、祖には納得できない話があったというだけだ。」
「……ソレを察することはできない、その無礼を詫びよう。」
「……構わん、所詮あの王に言わせれば取るに足りん慟哭だろうからな……。」
「そう、か……。失礼だが名は何という?」
「……神族の末裔にして『支える者』、天空を支えし神。名をアトラスという……。」
「アトラス……、ねぇ?」
「……どうした? 何か気になることでもあるのか? 骨よ……。」
「いや、ナニ。ちょっと知った名前だったからな、関連性は著しく低いだろうけど。」
「ああ、そう言うことか。汝は異邦の旅人と言うわけか……、なれば祖の名を知るのも道理というモノ……。」
そう言って、何かを支え直すとアトラスは3人を冷徹な目で見下す。
ナニを考えているのか? ソレを推し量るのは難しいだろう。
だがそこに、明確な厳しさがあるのだけは理解できる。
「……この難行は黄金の林檎を手に入れれば終わる、ソレが欲しいか?」
「勿論です、私たちはこの先に進みたいんですから。」
「まぁ、そういうことだな。流石に手に入れる方法ぐらいは俺たちに教えてくれるんだろ?」
「……まぁ、祖が既に得ているモノゆえな。だが……、そうだな。ただ容易くくれてやっても面白くない……。」
「流石に難易度が高いモノは止してくれ、私たちでは対処できないようなな。」
「……簡単なモノだ。故に難しいと言った話か? どちらにせよ、頼むことは簡単な話だ……。祖を楽しませよ。天空を支えるでもよし、滑稽を晒すでもよし。祖を楽しませた暁には汝らに黄金の林檎を授けよう……。」
「……、コレまた厄介な。レオトール、お前は大道芸とかあるか?」
「あると思うか?」
「私も勿論ないですからね?」
そう言われて黒狼は頭を悩ませる。
笑わせろ、ソレは非常に難しい。
そもそも感性が違う、感覚が違う。
そんな相手を笑わせろ? 非常に難しい話だ。
「The worst is not, So long as we can say, ‘This is the worst.’、『これが最悪だ』などと言えるうちは、まだ最悪ではない、ねぇ? なるほど?」
「つまり、お前はコレを最悪と言っているのか? 黒狼。」
「んにゃ、あったりめぇよ。知恵を振り絞ることほど難しい話だ。」
「最悪ってほどではないんじゃないですか? 笑わせればいいだけですし。」
「それだけだから最悪なんだよ、しかもコイツを殺すには道理がない。しかも正攻法で攻略させてくれるときている、なら俺はコイツを殺したくない。」
「同じく、だ。道理もナニもないのに殺して仕舞えば、ソレはただの殺人鬼に他ならない。」
「最初に殺そうと言ってた人のセリフじゃないですが……。」
苦笑いしながら存在感を消す黒狼、ソレを見てやれやれと呆れるレオトール。
そしてウンウンと唸る3人だが……、やはり妙案は出てこない。
当たり前だ、全員芸人でも漫才師でもないのに他人を笑わせろというのだ。
苦悩するのにも程がある。
「うーん、そうだなぁ。」
「お? 何か思いつきましたか? 黒狼。」
「いやぁ、俺的にはあんましやりたくないんだけど。嘲笑はしてくれるか? って思ってな。」
「……あまり強制はしたくないが、ソレでも笑わせられるのならばやる価値はあるだろう。」
そう言われ、真剣に思案する黒狼。
ナニを言おうとしているのか? 本人の恥ずかしい話なのか?
ソレは彼にしか分からない、だがソレを言うのに賛成ではない。
だが突破口が見つからない以上、ソレをいうしか手が無くその考えを貫くほどの信念は黒狼にはない。
「……、まぁいいか。」
だからこそ、出した結論はソレだった。
貫くほどの信念がないのなら、嘲笑されようとソレが突破口になればいい。
そうするに十分だ。
そう、黒狼は結論を出してしまった。
「おい、アトラス。つまらない話かもしれなが……、まぁ聞きやがれ。」
「……ほう、自信がないのに語るというのか……?」
「ああ、そうだ。だけど突破口になるのなら語ってやるよ、クッソつまらないかクッソくだらないかもしれない俺の目標の話だ。」
虚の眼孔をアトラスに向け、黒狼は話を始めた。
目標や夢は基本的に嘲笑されますからねぇ。
(以下同文)
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