Deviance World Online ストーリー2『強き敵』
強い。
取るに足らない存在を殲滅しながら、レオトールはそう確信していた。
その敵影は約30メートル先。
いくつものスキルを駆使し、存在を消している。
だが……。
いや、だからこそ。
レオトールは正確に相手の力量を推し量ることができた。
単純な能力では自分に勝ることは決してない、だがたとえその程度の存在であれど無視することは許されない。
だがらこそ、牽制がてらボウガンの一斉掃射を行い何発か意図的に狙ってみたのだが……。
やはりというべきか、当たるはずもない。
そして、余分なことをしたおかげで得られるものも少なかった。
「チッ、二桁も殺せんか。」
そうつぶやき、連射によって負荷がかかり切れたボウガンをインベントリに入れる。
消耗はいまだ少ない、全力も本気になる必要すらない。
勝ちは確定している。
少なくとも、負ける未来は見えない。
だからこそ、現れた存在を視認し思わずつぶやいた。
「……、笑わせてくれる。」
不機嫌にぶっきらぼうに、そして悪意を増して。
現れた女性を、アマゾネスを認識する。
彼女の得て物は短槍、その風格は正にアマゾネスの長だろう。
体は小さく、少女というにふさわしい。
ひとつ気に食わない所があるとすれば、その顔が情欲に歪んでいたことだろう。
ただその一点だけで、レオトールは無常にも嫌悪感を抱いた。
「ハジめまして。」
先に口を開いたのは、アマゾネスの方だった。
全方面から突き刺さる殺気を感じながら、レオトールは剣を硬く握る。
「投降のつもりか? もしくは、更なる殺し合いを望むと? どちらにせよ結果は目に見えているぞ。」
最後通告、その意思を込めてそう告げる。
できるのであれば、ここでやめて欲しいという願望も含んでいるだろう。
終わりの見えない戦いほど、キツいものはない。
「まさか、ココデやめるとでも?」
だが、その言葉に返されたのは否定だ。
ならば、仕方ない。
相手を全滅させる、少なくともその程度の気概を持たなければ。
そう思い直しながら、ふと思った質問を投げかける。
「先に幾つか聞いておこう、まず最初に何故今更出てきた?」
「オマエが好きだからダ。」
は? と。
一瞬、本気でフリーズしかけた。
もしこのタイミングで襲い掛かられては迎撃が間に合わないほどに、呆けてしまった。
理解できない、脳が理解を拒絶する。
自分が、好きだ? 敵なのに? 相手を殺すのに?
バカなのかこいつは。
その思考が常にぐるぐると周り、結論が出ない。
だから、会話を諦めた。
「……ハァ。聞くだけ無駄だったな、せめて名前だけでも聞いておこう。」
「ワタシの名? 私の名はナイが役割ならばある。ソレを代わりとして名乗っておこう。ワタシの役割はヒッポリュテ、だ。」
「そうか、では死ね。」
そう告げ、即座に殺しにかかる。
女王としての風格は確かにある、肌で感じる分にはその強さも頭ひとつ飛び抜けているだろう。
だが、それでも自分にはまだまだ届かない。
その油断を持ちながら軽く殺そうと。
そう思い接近しようとした瞬間、一気に感じる圧が膨れ上がった。
何が原因で、どう対処すればいいのか? それは不明だが、その圧は無視できるものではない。
助走を全力にし、体躯を動かす。
僅か20メートル、移動時間は2秒未満。
疾風迅雷、まさに神速。
残像が置いていかれる速度で迫り、彼女の首を斬らんと武器を振るう。
だが、その行動は一瞬遅かった。
「チッ、厄介なッ!!」
彼女を、ヒッポリュテを吹き飛ばしながらレオトールはそう叫ぶ。
あの速度、あの強さ、あの硬さ。
それらは間違いなく、自分に迫るモノ。
即座に、鑑定スキルを使い彼女のステータスを確認する。
本来ならば、絶対にしない行為。
本来ならばする必要のない行為だが、脅威を正確に測るのならばこの行為は必須。
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*ステータス*
名前:ヒッポリュテ Lv.67
性別:女 ※種族特性です
種族:アマゾネス
生命力:850(+1500)
魔力:977
STR:845(+1500)
VIT:1021(+1500)
DEX:964(+1500)
AGI:1008(+1500)
INT:709(+1500)
スキル
・・・・・
・・・
・
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後にも続くステータス、その全てを見る前に全てを察したレオトールは冷や汗を掻く。
目の前の存在は、少なくとも数値では自分に勝っていると。
油断は、消えた。
意識を変える、ただの人間から傭兵レオトールへ。
依頼は、この迷宮の攻略。
報酬は、この迷宮で得られるモノ。
失敗条件は、明後日明朝までにここを突破できない事。
そして目の前のモノは、敗北条件を満たしうる可能性を保有する。
故の小手調べ。
どれほどの脅威か、どれほどに厄介な存在か。
それを調べるための、最強のジャブ。
「『極剣一閃』」
剣を翻し、直後に切り掛かる。
剣は極剣の名を成すように輝き、エフェクトに斬撃属性が発生する。
それを、秒間100以上。
音を突破した爆音と共に超高速で振られるソレ、だがヒッポリュテはそれを知覚し相殺するべく動き始める。
「『偉大なる祖』」
発動したスキル、それはギリシャの軍神の名を冠するスキル。
紅く、猛々しいエフェクトを纏いながらレオトールの極剣に対抗する。
速度は同じ、大きな差異はステータスに対する慣れだろう。
元より2000台という高みに存在していたレオトール。
神器により2000台半ばまで引き上げられたヒッポリュテ。
数値は同じであれど、その実態は全くの別だ。
打ち合えば打ち合うほど、ヒッポリュテを追い詰めている。
だが、それでも。
やはり、ステータスの差が大きすぎる。
最大で500という、あまりに大きなソレは余りある技量をしても余裕にあしらえるモノではない。
負けることは必ずないが、意識外からの攻撃を上手いタイミングで打たれればやや劣勢に立たされる可能性もある。
下手をすれば、その間に別動隊が動き黒狼を殺す可能性も。
焦りによって、動く額を無理矢理押さえつける。
ここで、余裕なく対応すればこの軍勢を引き付けるという役割は果たせない。
そうなれば敗北は濃厚だ。
「感じる圧と数値に大きな乖離があるようだな? アマゾネスの女王。」
「そちらこそ、大分手を抜いているのでは無いカ? 異国の戦士ヨ。」
故に、余裕綽々にそう問いかける。
少なくとも、そう見えるように。
ソレに対してヒッポリュテは、アマゾネスの女王は息を切らしながらもニヤリと笑い返した。
見透かされている、そう思ってしまうほどその表情には余裕があった。
まるで、今この瞬間が楽しいかというように。
故に一瞬、焦りが芽生えさらに挑発するように問いかける。
「どうした? 来ないのか? 煽る口はあってもその実、戦えぬ弱卒だったか?」
「ッ!! 舐めた口ヲ。」
故の挑発、そしてソレこそ下策であった。
いつものように多くを語らず、言葉少なく挑発すれば相手は簡単に激昂したかもしれない。
だが、そうはならなかった。
その煽りは、黒狼を心配する余りに出たその煽りは。
やや上擦った声から出たソレは、ヒッポリュテに余裕がないと知らせるには十分なモノであった。
もし、万全の信頼を。
もし、全幅の信用を。
彼に置いていたらこんな事態にはならなかっただろう、上首尾から始まり下策に至る。
コレは、レオトールがあまりにも強すぎるが故の失敗だ。
目の前に立つヒッポリュテが槍を構え、突撃してきた。
速度は上々、自分に迫るモノはあるが対応できないモノではない。
ここは初手にグラムを発動し、受けに回りそこで……。
(後手に回るつもりか!! 俺!!)
思わず叱咤する。
状況は劣勢、自分1人ならば勝利は堅いが黒狼の安否を含めると答えは不明。
敗北条件が満たされる確率は五分五分、下手をすれば四分六分だ。
問題ないとは、到底言えない。
そこで、後手に回る? 笑わせるなと。
後手に回った途端、泥試合が確定する。
ステータスで劣っている以上技量勝負になるのは間違いない。
そこで敗北するのは、まずないだろう。
だが、相手が防御に回り出したら話は別だ。
その間に黒狼を殺されかねない、その時はこの勝負ではなく依頼の失敗がほぼ確実となる。
ならば、ここで一気に形勢を傾けなければならない。
「『パリィ』」
迫り来る槍、ソレに対してカウンターのアクティブスキルを発動する。
受けるのではなく、攻める。
攻めて攻めて、泥沼を脱する。
そうしなくては、敗北しかねない。
パリィの発動条件が満たされた瞬間、レオトールの肉体は動きが固定される。
最善の動き、カウンターとしてこれ以上ないモノ。
その動きのまま、ヒッポリュテを切り裂こうとして……。
彼女は上に飛び上がった。
(予想通り、だッ!!)
戦闘経験の差が如実に現れる。
スキルによる動きの固定、ソレを把握しているからこそ宙に流れたのだろう。
もし相手が凡百ならば上策も上策。
100点満点の回答だ、だが相手は自分だ。
圧倒的格上に対し、100点では合格になり得ない。
剣を手から離す。
動きの強制を解除する。
そして、右手拳を握り込みレオトールは飛び上がるヒッポリュテに叩き込んだ。
その拳を。
「『二打不』」
直後、内部破壊を引き起こす超絶技巧。
VITを貫通してダメージを与えるその攻撃が、放たれた。
レオトール視点、敗北条件が明後日までにダンジョンを攻略するという以上割と焦ってたり。
まぁ、前回の説明でキャラクターの強さが一気にインフレしましたが些細なことです()
数字なんて実質飾りのようなモノですし。
そもそも、このダンジョンは普通この段階で攻略するものではないので……。
黒狼が弱いのではなく、レオトールが強すぎる。
そのように認識していてください。
ついでに、今回の戦いでよく分かったと思いますが数値が同じかもしくは相手の方が上であっても、技量差がかなり開いていれば割と関係ないので数値は参考までにしておいてください。
(以下同文)
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