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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章上編『忘却されたⅫの栄光』

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Deviance World Online 間話『ウィッチクラフト』

 赤いドレスを身に纏った一人の女性が、鼻歌を歌いながら大釜を掻き混ぜる。

 中には四つの植物と、八つの動物の素材が入っており水には赤が滲んでいた。

 その様子は噂や伝承で出てくる魔女そのもの。

 軽くウェーブがかかった髪を弄りながら魔導書片手に何かを作る彼女は、暇つぶしがてらに開いていたインベントリから見えた掲示板。

 そこに書かれた興味深い内容を読み上げる。


「【募集】イベント攻略メンバー【極秘】? なんかアレね、陰険なくせに真面目、ソレでいながらネットで発言しない人が書いたみたい。」


 そう言いながら、早速その掲示板を開こうとして視線の先のカーソルに入力の意思を込める。

 同時に警告の画面が現れた、内容はこの場面を開くと強制的に血盟(クラン)に参加ささせられると言った内容だ。

 その警告文をじっくり読んだ後に、窯の底が焦げ始めたことに気づき慌てて混ぜ直す。

 冷や汗、というよりは品質が下がったという焦りからじわっと汗が滲む感覚を得た彼女だが一頻り悩んだ後まあいいやと楽天的な考えに至る。


「どうせ納品物だし、素人だしね。最悪自分で使えばいいんだし気にしない気にしないっと。」


 全力で目を逸らしながら、誰かに向けて言い訳しつつステータスのインベントリから再度作り直せるだけの素材があったか確認する。

 そして、後2回作り直せるだけの材料があることを確認すると彼女はホッと息を吐いた。


「ふぅ、けど泥沼トカゲの尻尾は少ないわね。あとで依頼を出そうかな……? あー、けどイベント前だしなー。私自身で取りに行くかなー。」


 そう言いながら、鍋を混ぜつつステータスに表示した警告を了承する。

 もとより彼女はフリーのソロプレイヤー。

 その理由も大したことはなく、ただ単純に間が悪かったというだけ。

 そもそも知的好奇心旺盛な彼女は、こういうコミュニティには非常に興味が湧くタイプなのだ。

 警告内容も別に彼女に問題が出るほどのものでなかったため、念のためもう一度確認した後に参加申請を出す。


「えっ!? はやっ!! もう申請許可されたの? え、廃ゲーマー? リアル時間23時だけど!? ……いや、火星ステーションなのかしら? ならありうる……、いやそれでも今23時よ!?」


 自分のことは棚に上げつつ、色々驚きながら掲示板を閲覧する。

 参加者数は現時点で自分を除けば3人。

 内容はほとんど雑談、だがその中に見知った名前があることに驚く。


【妖刀工】千子村正

【黄金童女】ネロ


 両名とも悪名高いプレイヤーだ。

 片や、来るもの拒まずのスタイルでpkにも金さえ払えば強力な武器を販売する武器職人。

 片や、【姫】キララに対抗するように音痴なくせに歌を歌いまくる害悪プレイヤー。

 どちらもあまりいいうわさを聞かない。

 そして、ホストとなっているのがヴィヴィアンと名乗っている人物。

 高名有名、ある程度知られているプレイヤーならば暇つぶしで把握している彼女も知らないプレイヤー。

 そのことに違和感を抱きながら、ログに『よろしくお願いします』と打ち込む。

 即座にヴィヴィアンと名乗る女性が返事を返し、一分ほど遅れ村正から『よろしく』とぶっきらぼうに打ち込まれる。

 ネロは返事はない、おそらくは寝ているのだろう。

 この中では非常にまともだ。


「っと、変色し始めたわね。そろそろ解毒剤をいれようかな?」


 そういいつつ調合スキルの反応を見る、調合スキルは新たな素材を入れても問題ないという反応を示しておりそれを見た彼女は安心して解毒剤を3錠入れる。

 そして、鍋を再度かき混ぜ薪の炎を水魔法で消す。

 そこまでやれば、あとはしばらくかき混ぜるだけ。

 そう意気込みながら右手で杖を回し視線はステータスに落とす。

 するとそこにはヴィヴィアンから何か連絡が来ていた。

 内容はイベントでの行動、より具体的に言うのならばイベント開始から3時間ほどたった時に集合したいといった内容だ。

 それに対し、彼女は特に断る理由もないなと思いながら肯定の意思をつたえる。

 別段難しいことでもない、それより気になるのは悪名高い二人がここにいる理由だ。

 詳しく追及するのはマナー違反とは言え、ある程度思考を張り巡らせるのは罪ではないだろう。

 その思いとともに過去ログをさかのぼる。

 入ってきた順番としては村正、ネロ、そして彼女であり全員ヴィヴィアンに誘われた様子はない。

 また、ヴィヴィアンも誰かをひいきしている様子はなく彼らは偶々入ってきたということがうかがえた。

 逆を言えば、ヴィヴィアンは彼らに対して何の感情も抱いていない、ということとなる。

 それにたいして、珍しいという感情を抱きながらもある程度二人の人なりを知っている自分ならば遠慮しそうだという陳腐な感想を抱き三人の会話をさかのぼる。


「へー、意外ね。」


 その中でも彼女が最も意外に感じたのは、ネロの人柄であった。

 噂はいくつも錯綜しており、余り関わりたくない人種という認識であった彼女だが会話を見るにわがままで子供らしくはあっても非常に理知的な人間だという印象を受ける。

 となれば、普段の行動はキャラ作りか? と思ったが、話し方的にもそれはなさそうだという結論にたどり着きやはり苦手な人種だなと寸分たがわぬ感想を抱く。

 

「あ、もうだいぶ冷めてる。この温度なら……、混ぜなくても大丈夫ね。」


 指を鍋に入れ温度を確認した彼女は、そういうと杖を釜から引き抜き流水で洗う。

 【ウィッチクラフト】、その意味は魔女の魔術。

 そして、それは彼女のプレイスタイルを代弁すると同時に彼女の二つ名でもある。


 そう、彼女は【ウィッチクラフト】ロッソ。

 炎熱系の魔術を操り、様々な薬品を扱う二つ名持ちプレイヤーにしてキャメロット所属の【黒の魔女】モルガンのライバルとも噂されている人物なのだ。


「ふう、品質に問題がなければ明日に『中位回復薬』を納品できるかな? ……、できたらいいなー。」


 そういいつつ、自分の工房内で背伸びをしたのちいくつかの装備を置いて外に出る。

 満天の星空を見上げればそこで煌めく星々があり、彼女の。

 いや、彼女たちの行く末を祝福してるかのよう。

 それに見とれながら、けれど見ほれないようにして彼女はステータスに視線を落とす。


「かの妖刀作りに黄金劇場かぁ……、柄にもなくワクワクするわね。」


 妖艶とは違う、幼さを残した笑みでそうつぶやくと彼女は再度工房に引き返す。

 もうすぐイベント、其処であるはずの喜ばしい出会い。

 それに胸を馳せながら彼女は憂鬱な現実を思い返す。


 たとえ未来だとしても、現実は酷く憂鬱で嫌なものだ。

 だが、その憂さは莫大な期待の前では晴れるだろう。

 いや、晴れればいいなという思いのままに彼女はログアウトした。


 これは、イベント開始よりリアル時間一日前。

 黒狼がのんきに寝ている間に行われた一幕であり……。

 そしてのちに彼らが向かう未来、【仮想並(Deviance)行世界( world)】で行われる狂気と正義と悪が入り混じったナニカ。

 それに対する大いなる布石であることを、彼ら彼女らは。


 いや、この世界に住むすべての存在はまだ知らない。

ランキング乗ってる間は毎日投稿と銘打ってましたが諸事情で辞めました。

今回から通常投稿になりますが、よろしくお願いいたします。

感想などで希望者が多ければ復活するかもしれません。


さて、今回はとある女性キャラのお話です。

どういう風に本編にかかわりがあるのか?

たっぷりと想像を働かせながらお読みください。


(以下同文)

今後の黒狼とレオトール、そしてゾンビ一号の先行きが気になる方は是非ブックマークと星をください。(乞食)

また、感想やハートなどをくだされば作者のモチベーションが高まります。

是非お願いします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] くぅ〜、一体全体黒狼くんはどんなプレイングを魅せてくれるのか皆目見当もつかないぜっ! [一言] 無理だけはいけないので無理のない範囲で、毎秒投稿お願いします
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