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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
二章上編『前夜祭』

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Deviance World Online ストーリー6『へファイスティオン』

 誰かが落ちた、そして村正が潰された。

 認識したと同時にドレイクは黒狼の喉を打ち貫く、だがその一瞬より先にドレイクの腕が切り飛ばされた。

 同時に数十メートルほど吹き飛ばされ、地面を無様に転がってゆく。


「契約に応じ参上した、ヘファイスティオンだ」

「あら、随分と苦戦してるじゃない」

「おいおい、何で村正を殺した」

「どうせ復活するのだろう? そのまま死ぬのなら私も殺しは、まぁしなかった」


 その言葉を言い終わるよりも先に、飛来した電撃を剣で切り裂く。

 流れるように圧縮された詠唱をすれば、展開されるのは暗黒球。

 魔力を捻じ曲げるほどの概念的黒さによって周囲の魔力を吸収し、敵味方双方の魔力によるバフを奪う。

 次の瞬間にはドレイクの腕を斬り飛ばし、彼女を蹴ってさらに遠くへと吹き飛ばした。


「強くね……?」

「仮にでも、私はあのレオトールと同格だぞ? いかほどに体調が悪くてもそうそう負けることはない」

「私からすれば動いてほしくないのが本音ね、一挙手一投足に負荷がかかっているわ」

「自分の体だ、分かっている。いうなれば原初とでもいうべき属性の影響が相当に深いらしい、もうしばらくしか動くことも許されないだろう」


 次の瞬間、襲ってきたのは落雷だった。

 空中に一瞬だけ閃光が現れたかと思えば、黒狼たちに向かって落ちてくる。

 その全てを切り裂いたヘファイスティオンはヤレヤレと言う顔をしながら、両脇に二人を抱えて空を飛んだ。


「飛行魔術……? まって、貴方の魔力量は私たちを抱えて飛べるほどにあるの!?」

「魔術単体でもそう難しくはない、空を飛ぶぐらいならば子供でもできるだろう。これはスキル『黒曜の羽』だ、取得条件は『闇魔法』Lv.10および混合魔法スキル『穢土』の取得で手に入る」

「穢土? どうやってソレを手に入れるんだよ、まったく」

「深淵スキルを持ってるのなら簡単だ、あとで手取り足取り教えてあげよう」


 瞬間、身体がバラバラになるほどの衝撃が与えられものすごい風圧にさらされた。

 音速に達した、という訳だ。

 凄まじい耳鳴りと吐き気をこらえ、その移動を食いしばって耐える。

 一瞬すら感じられないほどの途方もない刹那の間に、黒狼たちは船の甲板に転がっていた。


「うぇ、吐きそう」

「うぇぇ、仕方のない話でしょう……。ウェ、うぇぇ……」

「急いでいたから少し飛ばしたが、そこまでになるほどだったのか……。すまない、次から気を付ける」

「次があればいいが、なぁ……」


 甲板へ横になりながら息を整えれば、未だに発動中の魔力視で目に入った違和感を凝視した。

 なるほど、道理で弱っているはずだと納得を示す。


 違和感どころの話じゃない、見れば見るほどその体内に存在している異質な魔力が目に焼き付く。

 不規則的に蠢くソレは宛ら臓器のようで、彼女の魔力と完全に癒着し乖離させることは不可能だろう。

 だというのにその魔力は暴力的な動きで徐々に身体の魔力を食らい増殖し、彼女の生体機能をより活性化させている。

 だというのにも関わらず肉体は確かに朽ち始め、過剰と言うほどに体の維持機能が壊れだしていた。


「ロッソ」

「無理よ、既に完全な形で癒着してる。蘇生された直後なら或いはだったけど、今じゃもう無理ね」

「憐れまれるほど私は弱くないさ、それに残った盟主の。いや最後に我が王から『黒の盟主』と呼ばれた貴様の在り方を見定める必要もある、そう簡単にくたばるもんか」


 はぁ、と短く息を吐き黒狼は意識を切り替える。

 ここまでの話ではなく、此処からどうするのかと言う話へ。


 状況は最悪だ、少なくともヘファイスティオンに二度目の戦闘を行わせる気はない。

 彼女の身体の状況云々以前に、ソレは酷く()()()()()だろう。

 詰まらない戦いはしたくないんだ、最高に気が狂うほどの面白さが欲しい。

 圧倒的は詰まらない、リスクのあるギリギリ以外を認めるわけがないだろう。


 だが次に挑めるのは時間にして9時間後、イベント終了間際ってところのはずだ。

 このまま逃げても勝てはするが、それもやはり面白くはない。

 深く息を溢しながら、黒狼は奥から現れたネロに告げる。


「お祭り騒ぎだ、時間は9時間後。へファイスティオンは寝ておけ、間違っても手出しするんじゃねぇぞ。ネロ!! 喉の調子は、良い感じか?」

「うむ、勿論であるぞ!!」

「やれやれ、全くね。武装の最終調整を行うわ、まぁアルトリウスと戦う前にデータは欲しいと思ってたし?」

「血の気の多い連中だ、だが嫌いじゃない。ゆっくりと眠らせてもらうよ、お姫様のようにな」


 ニヤリと、口角を上げる黒狼は矢継ぎ早に指示を出す。

 問題はない、最終戦闘はつい先ほど終わった。

 スケジュールの関係に加えて参加プレイヤーの関係で闘技大会は1日早く終わるように設計されているが実際に終わる時間は不明だ。

 けれどもインベントリ内に入った巨大な宝石をみて黒狼は確信する、ソレはつまり巨大な狼煙だ。

 反撃を行うための、巨大な。


「随分と運が向いてきた、予想以上に順調じゃねぇのか」

「へぇ、って貴方負けたらしいじゃ無い。よくもまぁあれ程の武装を使って負けられるわね」

「模造品の準古代兵器とモノホンの準古代兵器、流石に負けるさ。とはいえ警戒は相当に強めなくちゃな、アルトリウスめ。化け物かよ、全く」


 毒づき言い訳しながら、けれども確かに勝てる道筋を考え始めている。

 どんな戦いをしたか、どんな勝利を逃し敗北を許したのか。

 考え始めればキリがない、とはいえ戦い方次第では十分に勝利を拾える前提は作れると確かな確信を抱いていた。

 この前提を整えれば、まずまず負ける気がしない。


「計画をいい加減、進めなきゃな。あっちの俺が努力してるのなら、俺も」

「そう言えばだけど、いい加減明かしてくれるかしら。貴方の計画とやら、私の娘も巻き込んでいるのでしょう?」

「巻き込んでないと言えばウソになるかもしれないけど、基本は関わらないはずだぜ? とりあえず中に入ろうか」

「ハァ、教えなさいよ?」


 黒狼の計画、その全容はモルガン以外の誰も知らない。

 またモルガンもその概要を聞いているだけで実際に起こす事件の詳細は、その一切を把握しておらず。

 黒狼は二ヤリと笑い、楽しそうにこう告げた。


「良いぜ、中に行こう。時間はあるんだ、たっぷりと話してやるさ。だからお前も話せよ、ましゅまろの事。これは等価交換、取引だぜ?」

「………………バカ、良いけど」


 スタスタと中に入っていく黒狼と、ロッソ。

 ネロも黒狼にドロップキックをかましながら入っていく、残ったのはへファイスティオンだけだ。

 彼女また中へと入ろうとし、少しせき込む。


 いや、吐血した。


 手から血がこぼれている、顔面は蒼白だ。

 ステータス異常に魔力酔いが発生しており、心臓が異常な音を奏で明らかに常ならざる状態になっていながら。

 魔力で全身を確認する、確認したというのにも関わらず何ら異常はなく万全に生きているという結果が与えられている。


「王の言葉を伝えなければな、早く急いで」


 残された時間は決して長くない、向かうのだ。

 可能な限り早く、北方へ。

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