Deviance World Online ストーリー6『アグラウェイン』
物陰に身を潜めていた彼は、円卓の騎士アグラウェイン。
彼は握ったリボルバーを投げ捨てながら、ワイヤーを用いて一気に迫る。
黒狼の背後から、確かに。
「見えてるって言ったんだろうが」
「言ってねぇぞ、手前」
黒狼はその攻撃を紙一重で躱し、村正は一気に潜り込むと刀を振り抜いた。
アグラウェインは鎧で斬撃を受け止めながら、インベントリよりだした手榴弾をばら撒く。
青ざめる黒狼と、睨みつける村正。
互いの攻撃が届くより早く、そのすべては爆発する。
「ケホッ、ケホッ、っぶねぇなぁ」
「ちぃ、手早く決めねば。儂らが負けるぞ、良い加減限界だ」
「フルメンバーじゃないってのがここまで響くかねぇ、いやシンプルに実力差って捉えられる所はあるけど」
「喋っている暇があるとでも、『ショットガン』」
ガンアクション、いわゆるガンカタ。
複数の銃を取り回しながらワイヤーとナイフを用いて緻密に攻めてくる、このわずかな攻防で黒狼の肩が撃ち抜かれた。
ボロボロになった装備をみる、一瞬の思考ののち装備を切り替えた。
軽装から重装へ、鎧に大盾を握る騎士のように。
今必要なのは突破力だ、その鬱陶しいガンカタを止められるだけの。
「『シールドバッシュ』」
装備重量を乗せ、一気に畳み掛ける。
いかに騎士とは言えども相手は軽戦士、十分な備えなくして重量を伴った一撃が防げるわけもない。
吹き飛ばし地面に転がす、が同時に黒狼の右足も切断された。
目線を地面に向ける、地面スレスレに設置されたワイヤーが滴る血液を伴いながら輝いているのが見えた。
なるほど、と心の中で感心してしまう。
上手い戦い方だ、このたった僅かな攻防でトラップを仕掛けたのかと。
「だが、一撃で俺を殺せなかったのは悪手だぜ? 『魔力視』」
いかにスキルを用いていないワイヤーとはいえ、十分な攻撃性を伴う以上はその刃に魔力は存在している。
となれば当たり前に『魔力視』によってワイヤーを目視することはできなくも、無い。
盾を構え、蜘蛛の巣かと錯覚するほどに作られたワイヤーを突破していく。
突進だ、いかに緻密に作られていようと盾を破壊できるほどの攻撃力はワイヤーに存在しない。
思考の裏、攻撃の意図。
見え透いているとばかりに、黒狼は笑い。
「『操糸:」
ゆえに、その思考は慢心である。
思考の裏、銃に集中させた本命のワイヤー。
何て訳がない、盾を用いた戦いなんぞ騎士の特権。
つまりはキャメロットの十八番、対策していない訳もない。
特に無理矢理盾で糸を突っ切っていた黒狼に、そのワイヤーの罠は致命的であり絶死に等しく。
だからこそ村正は刃を握り、剣を振るう。
「捕縛陣』」
「『白日・大橙丸』っ!!!」
しかして無意味、一気に切り裂いたはずであるのにキツく肌に食い込んだワイヤーはギリギリと肉に跡を付け確かなダメージを与えながら拘束する。
攻撃力は決して高くない、だが確かに拘束しダメージを与える能力は十分に存在していた。
流石は円卓、そこに並ぶ騎士の1人ではある。
「恨むべきは相手だな、『操糸:簒奪陣』」
だがやはり相手が悪い、幾千と遍く広がる武器を扱い熟したレオトールのスキル群。
彼にとっては使うまでもないスキルでも、黒狼にとっては。
今のトッププレイヤーにとっては総てが必殺の一撃に足りえる、それも極めたプレイヤーに比類出来るほどの。
ワイヤーの制御を奪い、村正を開放する。
スキルによる武装の支配で戦う場合、スキル熟練度がモノを言う以上はレオトールの熟練度を受け継いでいる黒狼が圧倒的に有利だ。
それでも完全に支配権を奪い切れていないというのは、アグラウェインを褒めるべきだろう。
決して二人の差は圧倒的ではない、むしろ後手に回ってから反撃を始めている黒狼が劣っているのは間違いないようにすら思える。
一歩踏み出し大剣によってアグラウェインの銃撃を阻む黒狼の影から、村正が拙速の剣術を披露し弾丸もろともショットガンを刃ではじく。
もう片方の手ではワイヤーを握っており、これで攻撃手段はなくなった。
勝った、そういうかのようにニヤリと笑えば。
「悪いね、『八極拳』改め『二打不』」
一気に拳を叩き込む、既に装備は換装済み。
体をしならせ一気に叩き込んだ拳はVITを貫通し、そのダメージ総てを完璧に届ける。
血反吐を吐きながら白目を剥くアグラウェインのHPが0となったところで、黒狼は視線を遠くへ投げかけた。
雷を纏い、海賊帽子をかぶり。
蛮族が如き笑みを浮かべ、片手にサーベルを持ち。
威風堂々と歩いてくる、一人の海賊を見つけた。
その片手に持つ、フラッグと共に。
* * *
キャメロット襲撃、黒狼達が行ったのは陽動であり攻略ではない。
脳内の警笛が酷く音を鳴らしてくる、と言うのにも関わらず体が思うように動かなかった。
分かっている、仕組まれたのだ。
「クソが」
「仕掛けてきやがった、って言うわけか……」
体が電気によって拘束されている、恐らくソレは雷を用いた魔術だろう。
状態異常に高い耐性のある黒狼ですら拘束されているのならば、村正は一ミリも動くことすらできないだろう。
黒狼はゆっくりと、無理矢理ながら立ち上がりドレイクを見る。
今度は、敵として。
「頭を下げて出迎えてくれるなんて、良いねぇ? 大歓迎だよソウイウノ」
「それ以上近づいたら殺すぜ、こっちには未だ未だ奥の手があるんだ」
「なら出してみなよ、出せるのならって訳だけどね」
答えは無理、だ。
舌打ちと共にキツく睨み付ける、同時にソレが答えであると示していた。
黒狼は『顔の無い人々』によって分裂した黒狼とインベントリを共有している、しかしアイテムは一つでしか存在せず片方で取り出せばもう片方は使えない。
『黒蝕禍灼』などを用いればその火力や攻撃性から打開できるだろうが、ソレはもう片方の黒狼の状況が悪くなる可能性を秘めていた。
加えて問題なのは黒狼の状況を黒狼は知ることができないという点だ、『顔のない人々』の効果によって『顔の無い人々』使用中は一切の公的な契約などができない。
コレはつまり、ゲーム内でのチャットやゲーム外のサイトにweb掲示板などが利用できないということでもある。
対策方法は、実質的に存在しない。
「魔女が式装ってのを出しててねぇ、アンタも持ってるのならきっと出したろうよ。けど出して無いんだろ? つまり、もう底が無いって訳だ」
「秘密にしてるだけ、って可能性は?」
「時間稼ぎは辞めな、そんな降らない男だとは思ってないよ」
言葉と同時に引き金を引き、村正の足を吹き飛ばす。
ただでさえ抵抗などできないというのに、だ。
軽く睨みつける黒狼の鼻先へ、硝煙が立ち上る銃口をそっと当ててドレイクはニヤリと笑い。
手に持つフラッグを地面へと転がす、圧倒的強者の余裕と共に。
拾え、目線だけでそう示して。
「契約は守る、礼儀なくして海賊なんてやってられないからねぇ。確かにフラッグはくれてやる、ソレで私とアンタは全くの他人だ」
「サイテーな奴だな、全く。そう素直に俺が、受け取るとでも?」
「受け取らないならソレで良い、このイベントはアンタらの負けだ。さぁ、どうする?」
コレは、取引では無い。
ただの純然たる強迫、主張の押し付け。
絶対的な自己より告げられる覆せない強者の理論、黒狼は睨むようにして息を吐き出す。
そして自ら手を動かして、フラッグを取った。
「さようならだ、『不死王』。アンタは随分と、強かった」
次の瞬間、暴風が。
空から落ちた誰かによって、暴風が吹き荒れ村正が死んだ。
さっき気がついたんですけどジェーンって入力すれば『顔の無い人々』って出るようにユーザー辞書に登録してました。
賢いね、過去の自分。
愚かだね、今の自分。




