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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
二章上編『前夜祭』

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Deviance World Online ストーリー6『ランスロット』

 勝利、とするには未だ未だ戦いの最中だ。

 突き出された聖剣を弾きながら、村正は一歩進む。

 その背後で黒狼は黒い魔力を圧縮し槍として、一気に投げつけた。


「無駄だ、その程度ッ!!」

「完全に砕くかよ、バカが!!」


 放った槍は手刀で砕かれ、迫る聖剣は黒狼の皮一枚を切り裂きながら莫大な魔力を溢れさせる。

 その剣を受け止められる武具など数少ない、鎧ならばまだしもだが。

 相応なレベルの装備を求められるだろう、最低でもボスドロップの品物か。

 それほどの防具を用意しても、完全に防ぎきれるとは思えない一撃。

 通常攻撃でしかない、と信じたく無くなる強さに目が裏返りそうだ。


「耐えろ、儂が火力を出す」

「オーケー、死ぬなよ」

「見す見す許すとでも?」


 攻撃は重く鈍重、そして早い。

 大剣を振り回すように扱う姿はその重さを御しきれていないようで、その実叩き潰すことに特化した動きだ。

 実直にして堅実、さながらソレは巨大な岩の塊。

 加え触れれば多重のダメージ判定を放ってくる、悪意しかない。


「『ダーク・ウォール』ッ!!」

「『特・大切断』、『境界よりいでよ、楚は湖に揺蕩う竜』」

「させるかよ、『呪い(カース)』」


 黒狼がレオトールの肉体を奪ったことで得た能力は、多岐にわたる。

 というよりは、魔法的才能の倍率が飛躍的に上昇し魔法魔術に分類されるスキルのレベルや進化が一斉になされた。

 ただ、彼の肉体を奪っただけで。


 当然、その中には呪術スキルも存在している。

 派生として生えてきたスキルツリーは『報復性原理』『宥恕性逆理』の二つ、そしてここからさらに発展し『背信者』にまでつながった。

 そのことで獲得した総括スキルこそが『呪い(カース)』である、このスキルは用いることで対象の最大MP値に応じて『呪根』という状態異常が与えられる。

 この状態異常は単体では何ら効果を及ぼさないが、前述した二つのスキルに加え『呪術』『復讐法典:悪(アヴェスター)』などを発動すると根ざした呪いの深さに応じ対象に防御力低下が付与される。

 と、此処まで聞けば優秀なスキルだと思うかもしれないがもちろんデメリットも存在し。


「な、魔力操作が……」

「これさえなきゃなぁ……、最強スキルなんだが」


 黒狼にも『呪根』が刻まれ、そのうえで『呪根』が刻まれた対象は魔力操作の難易度が非常に高くなる。

 心象世界の展開など、そもそも通常魔術の体系と大きく異なる代物や小規模な魔法ならば問題ないがそれ以上はほぼ不可能と言えるだろう。

 そして魔力操作と言えばDWOにおける最高クラスの、必須技能だ。


「『焔を宿し、我が身を投じ』」


 詠唱が、始まる。

 広がるは灼熱、禍根にして災いに成った炉の炎。

 ソレは業か宿命か、彼の胸に宿るのは無数の刀身。

 あるいは、一つの世界そのもの。


「『幾重に鍛えた玉鋼、宿業を以て此処に成そう』」


 灼熱色の魔力が広がり、収縮する。

 村正は胸の内側に手を差し込むと、一気に生身の刃をつかむ。

 ゆっくりと、ゆっくりと融解する鉄からソレを掴み取る様に村正の魂魄の形がそうとなり。

 己の在り方が、収束して。


「まず、」


       「『此れ成るは、古今無双の妖刀成』【魂魄刀千子村正】」


「毎度思うが強いな、ソレ」


 心象世界、心のカタチ。

 己の在り方の定義、果てに到達する終着点。

 ソレは村正の可能性を集約した果てに至る可能性の末路、古今東西因果の果てまでに至る遍く総てを刀にした魂魄の刃。

 すなわち、此れまで(過去)此れから(未来)の可能性の極み。


「悪いな、円卓の騎士。手前さんを倒すためにゃぁ、今の手持ちじゃ少しばかり研ぎが足りねぇ」

「ソレが新たな力、至った頂か」


 次の瞬間、村正が刀を振りかぶった。

 独特な白色のエフェクトが発生し、急速に周囲の魔力属性が変化する。

 ただでさえ黒狼の『呪根』によって魔力操作を封じられたランスロットに向かって、一直線に。


「『白屍』」

「な、にッ!?」


 腕が、一気に白い砂となる。

 魔刀『白屍』の特殊アーツであるソレ、だがその攻撃を行った刀は確かに『魂魄刀戦子村正』だ。


 ではなぜ、魔刀『白屍』の特殊アーツが放たれたのか? この一瞬だけ持ち替えたのか?

 否、そうではない。

 そもそもの話、魔刀『白屍』は『月光のペルカルド』が無意識的に放った闇属性の魔力に侵食され既に使えない状態となっている。

 うち直しても内側に存在する魂が朽ちており、特殊アーツはおろかその品質を最高クラスに戻すことも困難なはずだ。

 では、この技を放ったギミックとは一体。

 睨むように村正を見定めるランスロットは、一つの結論をはじき出す。


「再現、か」

「違うな、可能性の収束だ。儂の心象世界は即ち可能性の心象世界、儂が辿った過程と辿るである過程を内包する。即ちだ、この刃は儂が作った可能性総てを内包しその全ての力を発揮できる」

「おいおい、喋ってやんのかよ」

「手前と違って、この刃は曲がったことが大っ嫌いなんでな。下手すりゃへそ曲げ、儂に力を貸さなくなりやがる」


 一歩踏み出す、前へ。

 地面が割れるほどに確かに踏み締め、ヒビが入った地面はその力を逃すことすらできずに振動に変える。

 さながら地震、ランスロットは次なる攻撃を理解できても出来る行動は出来無い。

 何せ、黒狼が攻撃を行っていたのだから。


「『操糸・捕縛陣』」

「ッ!!」

「『真打ち・胴貫』」


 即死は、しない。

 村正の火力がやや足らない、ある種の圧倒的な硬であるランスロットを一撃で。

 尚且つ確かに屠れる一撃は流石の村正でも放てない、この場合は村正の弱さを謗るではなくランスロットの硬さを褒めるべきだろう。

 鎧を着込んでいる、トッププレイヤーである。

 その二つを差し引いても、彼はあまりにも硬すぎた。


「ま、ソコが限界だろ。『復讐法典:悪(アヴェスター)』」


 だが、限界はソコまでだ。

 腹部を貫いているランスロットの聖剣を見ながら、スキルを発動する。

 突如としてランスロットの腹が裂け内臓がまろび出て、血が止め止め無く溢れていた。

 待てば死ぬ、間違いなく。


「拘束されながら良くもまぁ、一撃を加えるとは。流石は円卓の騎士、という訳か」

「片腕使えないのに良く刺して来たな、コイツ。バケモンかよ、円卓の奴ら」


 まだガウェインは常識的だった、と言いたくなる。

 殺せば死ぬと言うのがどれだけ有難いか、戦って来たレイドボスを思い返して辟易として来た。

 どいつもこいつも殺しても死なない、死んでも死なない化け物ばかり。

 それと比べれば、彼もまだまだ人間というわけか。


「さて、気を抜くのは程々にして。出てこいよ、どうせ俺は毒系統の攻撃無効だし意味ねぇぞ」

「チッ、『フルバースト』」

「うおっ、騎士が銃とかマジかよ!!?」


 顔面を殴られたような衝撃と共に、地面に吹っ飛ぶ黒狼。

 村正は襲いかかる弾丸の全てを切り伏せて軽く息を吐いた、一瞬だけの空白と共に弾丸の主人に切り掛かる。

 敵地の最中、攻撃が休まるはずなどない。

 倒し続けることだけが唯一の道と言えるだろう、そんな思考を片隅でしながら黒狼は再び剣を構えた。


「名乗れよ、騎士サマ?」

365話における黒狼に関する描写を修正しました。

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