表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
二章上編『前夜祭』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

364/372

Deviance World Online エピソード6 『透の盟主』

 魔導戦艦『ワルプルギス』、ソレはつまりNPCだ。

 ということは幾つかの手順を踏めばこのイベントにはNPCを連れてこれるという訳であり、その部屋の奥には一人の女がいた。

 『透の盟主』ヘファイスティオン、北方から来た『征服王』の配下であり彼の影。

 あるいは、最も弱い盟主。


「弱い、ねぇ。呆れて仕方ないわ、貴方が弱いだなんて」

「御託はいい、私はあと何日ほど生きられそうだ」

「知らない、と言いたいところだけど。細胞分裂の速度が異常に遅いわ、まだ普通の人間の範疇だけど最初に取ったサンプルと比較すればその速度は明白。嫌な話をすればあと半年もすれば内臓は完全に崩壊し、一年もすれば確実に死ぬかしら」

「回復魔術やポーションでの対処、抑制は不可能と?」


 ロッソは静かに肯定する、あの戦争が残した余燼は決して灰ではない。

 表に出てきていないだけであり、いつか大火となる小火だ。


 王の最後の命令を思い返す、脳に叩きこまれた情報を。

 北方へ、王が死んだことを伝えろという伝令。

 ソレを思い出して、彼女はまた眼を閉ざした。


「あと一年もあるのか、猶予は」

「実際のところは不明だけどね、私たちの世界の医学観点からの見解ではあるけど私は医者じゃない。精々が木っ端の科学者よ、さらに重ねれば肉体が死んでいっている原因は貴方の体を蝕んでいる『原初』属性とやら。参考にはなるかもしれないケド……、参考程度にしてほしいわ」

「属性の影響は可能な限り排除している、当然の話だが『死』属性もだ。それでもステータスの低下を抑えられず、抑えているはずの死属性が体に浮き上がっている時点で遠からず死ぬのは間違いがない。その推測は間違いなく正しいだろう、私はあと一年程度で死ぬ」

「死属性、ねぇ。随分と物騒な名前だけど効果のほども教えてくれないかしら、単純に相手を即死させるだけの属性ってわけでもないでしょう?」


 ロッソの問いかけに、ヘファイスティオンは記録結晶を渡した。

 中の情報量は、ひどく膨大だ。

 ロッソがこの世界に来て解明した魔力の性質などこの1割にも満たないだろう、山のような情報の塊そのものである結晶をヘファイスティオンは渡し。

 記憶を確かめるように、言葉を続ける。


「シーザーが記録した死属性の性質に関する内容だ、そこの記載によれば『ヒュドラの毒』一滴に含まれる死属性でレベル50以下の耐性値しか持たない存在は死ぬ。人類種から進化を遂げ200レベルに至る、至らんとする私たちでも一瓶も飲めば死ぬだろうな。いわゆる絶対的な死をはらんだ概念そのものが、死属性だ」

「記録としては、あのレオトールとかいう男は生き残ったけれど?」

「アレは人間ではない、怪物だ。生身で炎龍帝と張り合う怪物なんぞ、北方を駆け巡ってもあの一族以外にはありえない。王の影として言わせてもらうのならば、やはり生まれる前に死ぬべきだった」


 酷い話、返す言葉はそれだけだが悲しいぐらいにロッソも同意見だった。

 ヒュドラ云々の話を抜きにしても、水晶属性の恐ろしさはほかの誰よりも知っているつもりだ。

 黒狼の体からその属性を抽出した際には、用いた機器の総てが一瞬のうちに水晶へと変貌したほどにその属性は世界を蝕んでいる。


 噂に聞いた水晶大陸の運用方法、その全身に水晶の魔力を流し身体強化に充てるという異端。

 いくら身体に耐性が存在しているとはいえ限度がある、第二段階に目を瞑ってもバケモノと言う所業。

 第二段階というべき姿しか見ていないが、黒狼から聞いた第一段階という時点でも十分におかしい。

 水晶属性という蝕み侵略し拡大する性質を完全に律し、最も危険な体内でエネルギーと言う運用のみにとどめたレオトールの魔力制御能力は凡そ常識の範疇をはるかに超えている。

 いや、人間に許された領域をか。


「何を考えているのか凡そわかるから釘を刺しておこう、私個人としても盟主としてもあの男には返せぬほどの恩義がある。死者に尊厳など在るわけがないとはいえ、侮りは許さんぞ」

「侮りなんてないわよ、ただ解剖したらさぞ面白そうって思っただけ。それに私としては貴方との付き合いの方が長いの、碌に知らない傭兵より死にかけの貴方の方がよっぽど興味が湧くわね」

「不快だ、そもそも私と仲良くなったつもりか?」

「あら、一緒に兵器を作った仲でしょ? なら友達で良いじゃない。それに内臓も見せ合った仲でしょ、普通の友人関係じゃなかなかできないわよ?」


 カラカラと笑うロッソに白目を向けつつ、だが何処かで丸くなっている自分を感じる。

 というよりは、生きているという実感が湧かないのか。

 どうにも自分が生きているのか死んでいるのかが分からない、空気は美味しく味覚はあるのにどうしようも覆せない部分が自らを死んでいると宣告している気がしてならないのだ。


 いや、きっと死んでいる。


 死んでいるのに生きているから、こうしてゆっくり死んでゆくのだ。

 長く生きすぎている代償だ、細胞という細胞が生きているという自覚を失いつつある。

 それはきっと、これ以上なく惨めなことなのかもしれない。


「戯言を……、ハァ。貴様も随分と押しが強いな。あの盟主と同じく」

「少なからず影響されているところがあるのよねぇ、可愛い娘に目をつけられたし?」

「幼女趣味だったのか、あの男め」

「違うわよ、というか私もそんなに若くないって。分かりやすく言えばホムンクルスよ、人造人間。作ったは良いけど結局研究の方面では完全に失敗したの、その内の1人がこのゲームをやり始めたらしくてね。黒狼と出会って今盛大に喧嘩中とか」


 もし村正か、モルガンがいればアレを喧嘩と言うのかなどと呆れるかもしれないが生憎とここには2人しかいない。

 ヘファイスティオンはそう言うものかと軽く流し、続きを急かす。

 病床にいれば酷く暇なのだ、面白そうな話の一つや二つ。

 興味を持たないことはない、それに彼女も女なのだ。


「詳しくは知らないわよ? 私は私の作った子供達に干渉しないし、冷たく当たることに決めてるから。モルモットに感情移入したら、何処かで私の心が悲鳴を上げそうでね。けど風の噂を聞く限りじゃ何やら決闘イベントで雌雄を決するとか」

「親としても、人としても最低だな。ただ私たちのような人間にはそれが正しいのも間違いないか、私も故郷に幼子を置いてきた」

「あら、そんなに若そうなのに。意外ね、何歳なの?」

「私は28、子供は11だ。そろそろ成人だな、多くは望まないさ。ただ、死んでなければ良いが」


 望郷に想いを馳せる、なんら後悔がないわけではない。

 悔いと後悔だらけの人生だ、満足することなく死ぬことしか残されていない人生でもある。

 淡々と言葉にはするが、目尻に溜まる水気は誤魔化せない。

 例え心象世界を開けるほどに狂っていたとしても、彼女は人の子であり人の親だ。


「ふと思ったのだけれどレオトールに子供はいるのかしら、あんなに強い人間の遺伝子なんだし残すべきだとは思うのだけれど」

「聞いたことがない、冗談とは言え何度か閨に誘ってみたが。あの男には欲という欲が欠けているらしい、私も美人のはずだが……。乙女というには少し年齢を取ってしまったが、可愛いと思うんだけどなぁ……」

「恥じらいは無いのかしら、もう少し声を小さくして言いなさいよ。全くもう……、じゃあ嫁とか妾とかもいないの?」

「婚約者の噂は聞いたことがない、妹が随分と執心だったとは聞いたけども……。あの男が精通する頃にはすでに剣を握って魔物を切り裂いていたからな、多分子供なぞいないんじゃないか」


 同僚の恋人ぐらい把握しときなさいよ、と口に出すが仕方のない部分もある。

 『征服王』により地域の壁は消え始めたが、それでも婚約などは一家の一大事だ。

 下手に漏れれば攻め入るキッカケにもなりかねない、妊娠なども同じく。

 ヘファイスティオンはそんな価値観をおもいだしながらら、外を見た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ