Deviance World Online ストーリー6『カス』
回復魔法で傷を治しつつ、回復しゆくHPを見ながら安堵の息を吐く。
カッコつけて死んだ、なんて笑い話にもなら無い。
ソレに秘中の武器を見せた、少なくとも簡単に負け死ぬのはダメだろうと頭の中で言葉を綴る。
まぁ、死にかけたのが恥ずかしいだけだ。
「しかし良い武器だねぇ、ソレ。特注品かい? 使われてる刃からして、村正が関わってると見える」
「大正解、すげぇだろ? 俺の村正」
「おい、儂は手前の物じゃねぇぞ」
武装『マンティスブレード』、カマキリの刃を参考にして製作された三日月型の刃がついた腕装備。
攻撃力よりも装備時の補正が優先されており、故に他相場よりも攻撃力自体は低いがAGI補正は高い。
とはいえ、コレもまたアチラの黒狼が使わ無いと断定した微妙な武器ではある。
速さを極めれば力となるが、正直純粋な速さでいえば『刻蝕禍灼』の方が早い。
何せアチラは下手な鉄砲と同じ速度だ、その上で竜炎属性を纏った炎の斬撃を放てる。
幾ら小回りが効き自傷ダメージが存在し無いとはいえ、極短期的な決闘に使うかと言われれば少し首を傾げるところ。
だと決闘をする前の黒狼は言っていた、実際には持ち込んだすべての武器や攻撃が自傷ダメージ前提のところがありジリ貧に追い込まれるシーンが多かったが。
コレも肉体を得た後の戦いに慣れてい無い部分があるからこその失敗とも言える、要改善項目だ。
「で、ソッチのお願いは守ったんだ。当然、キャメロットを刺しに」
「待て待て、どうせ今挑んでも仕方ねぇ。挑むならイベント最終日前日だろ?」
「おいオマエ!! さっきから聞いてりゃ姉御にケチと文句を!!」
「黙りな、ウェン。アタシは喋る鳥をココに連れてきた覚えは無いよ、確かにこの男は他人の神経を逆撫でするのは一流で一言喋らせれば余計なことを必ずいうだろう。けど、根本には合理性があるもんだ。文句があるならアタシが殺す、ソレに納得でき無いならアンタも殺す。ソレがアタシの船の上でのルールだ、わかったらイエスかハイだよ!!」
眉間に皺を寄せ、不服そうに。
だが、けれどもウェンと呼ばれた男は『ワイルドハント』ドレイクの言葉に従う。
ワンマン血盟の宿命か、圧倒的なカリスマ性もあり得る。
あるいは船長という言葉の重みが、ソレほどまでに違うだけなのだろうか。
「ワイルドハント、勿論キャメロットから奪った旗はくれてやる。そうなればお前の血盟の勝利は確定してオワリ、だ」
「……いいや、旗はアンタにやるよ。そのかわり、今回手を組んだこと。つまり一時的な同盟関係は完全に消失だ、そのあとは変わらず殺し殺されの関係になる」
「欲がないねぇ、それとも何か腹案が?」
黒狼の言葉に対して、『ワイルドハント』ドレイクは何も返さない。
聡い女だと心の中で毒づいた、目的がイマイチ明瞭でないのが不気味さを掻き立てる。
だが願ったりかなったり、渡りに船なのは間違いもない。
黒狼らにとって、このイベントを勝利できるのならば対キャメロットに対して相当にリードできるだろう。
少なくとも五分五分にまでは持ち込める、あとは状況次第だが。
「計画はそっちに任せる、俺らから出す戦力は俺と村正にモルガンだ。それでもう十分だろ? というか、それ以上割ける戦力がねぇ」
「ネロにロッソはダメなのかい?」
「申し訳ないけど、私は研究があるわ。ネロは純粋に戦闘力が弱いわよ、ALL1000は越えているけど1500にも届きはしないわ」
なるほど、と納得をしめした。
実際のところネロに関してはバァッファーとしての運用が可能であり、戦力外というわけではない。
無いのだが、ソレでも前線で十分に活躍するには彼女の心象世界を展開することが前提となり黒狼はソレを危惧している。
村正が正しく心象世界を展開できる様になった時、そして黒狼が『顔の無い人々』を使用できる様になったことで幾つかの納得と理解が得られた。
だからこそ、危険視している。
ネロの心象世界の性質と、その本懐を。
「分かったよ、ソレにアンタら3人でも十分な力を発揮してくれるだろう。今回の戦いで、よおく分かった」
「高評価しても手しかでねぇぞ?」
「手を出したら駄目だろうが、何を考えてやがるんだ……」
「まぁそういう事です、期日を決めましょう。ソレまでに此方もまた十分な準備を整えます、いつがいいですか?」
静かな問いかけに考えこむそぶりをする、正直言って一日以上の猶予があるのならば何時でもいい。
彼女とて口では保守的なことを言っているが本心としては全くの同意見、キャメロットを一切脅威としてとらえていないのだ。
戦えば倒せると確信している、だからこそ一日以上あればいつでも構わず。
「そうだね、イベント終了二日前。つまりはイベント5日目にキャメロットをぶっ潰そうというわけだ、それぐらいがたがいにとってちょうどいいんじゃないかい?」
「クックックッ、なるほどね。いいぜ、十分だ」
「じゃぁ帰らせてもらうよ、ああそうだ。この海域に近づくんじゃないよ、次にであったらその時は容赦なく船を落とすからね」
「オイオイ、酷いな。まぁ近づく予定はない、そこは安心してくれ」
会話は多くなくて十分だ、『ワイルドハント』は黒狼に背を向け魔石を砕く。
そうすれば見慣れたポータルのようなものが発生した、転移装置というべきか。
すでに流通しているというわけだ、転移魔術の術式が。
眉を顰め、黒狼は内心で愚痴をこぼす。
かつてはモルガン一人しかいなかった空間魔術、ひいては転移魔術の市場が開拓され始めている。
ばらまいている主犯格はおそらく陽炎、キャメロット弱体化の隙を盗み闇市と支配実行力の拡大を狙いながら技術の流出を企んでいると考えられた。
どうやら市場の完全な支配はあきらめ、その代わりとして市場の独占を狙っているらしい。
「また四日後にな、ドレイク」
「そうだね、勝手にくたばるんじゃないよ」
掛け合いは軽い、ついでに引き金も軽い。
軽口を雑に言い合いながら消えるのを待つ、予想に反して鉛玉は飛んでこなかった。
ふぅ、と軽く息を吐きながら空を見る。
雨雲が迫っており、快調の滑り出しに反して皮肉を感じさせてくれるものだ。
眉を顰め、神を呪う。
「さて、みんなドロップ品を渡してくれないかしら?」
「え?」
「持ってるでしょ? ドロップ品、先代文明の遺産って結構珍しいからほしいのよねぇ」
チラチラと視線を向けるロッソ、つまりは寄越せとねだっているわけだ。
一瞬だけ渡したくないという欲求が沸き上がるものの、ぶっちゃけ彼女には色々お世話になっている。
おとなしく黒狼はアイテムを渡し、反対にモルガンはものすごく嫌そうに眉間にしわを寄せていた。
「ええ、別に。別に私は渡しても構わないとは思っていますがこのアイテムを彼女が完全に扱えるとも限りません、それにリーダーからの命令もありません。また私の」
「渡せよ」
「謎に素直よね、貴方。まったく呆れるわ、あと例の式装『冥土』の完成にはあと三日ほどかかるかも? 貴方には過ぎた代物だけど船長命令だから」
「お前もメンドクセェな、存外」
呆れた声が途絶えることはない、というか面倒な奴しか載っていない船なのだ。
ヤレヤレ船長は苦労するぜ、という雰囲気を醸し出しながら全員にかけた迷惑を早々に忘れ真っ先に船内に帰る黒狼。
こいつ自身がこの血盟最大のカスであることには気が付かないらしい、残念な話だ。
生体インプラントでも埋め込んでまともな人格に変えてもらったほうがいいかもしれない、あるいはコンストラクトか。
ともかく、話は一歩進展した。




