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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
二章上編『前夜祭』

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Deviance World Online ストーリー6『マンティスブレード』

 いい戦いっぷりだ、とは思う。

 荒々しさの中に明確に動きの基礎が出来ており、定石が存在しているのは間違いなく頂きを合間みた人間だと言うことを証明していた。

 益々、気に入った。


「欲しいね、村正」

「姉御、今はこの戦闘優先ですぜ!!」

「分かってるよ、アンタは黙って銃身に弾丸を込めな。ソレにまだ大丈夫さ、あの男が盤面を支配してる」

「盤面を支配……、ですかい?」

「感覚の話だね、アンタらにはまだ分からない事だよ」


 まぁ、おおよそ直近で負けることは無いだろう。

 勝てる保証もないが、そこをどうにかするのが求められている役割だ。

 このクランの弱点は見えている、やはり火力不足だろう。

 バッファー、デバッファー揃っているのにここまで高火力の出ない血盟(クラン)も珍しい話だが。


 独り言は此処までだ、一気に攻め立てるのが吉というもの。

 弾丸が再度装填されたマスケット銃を片手に、敵影を視界に収め。

 軽い引き金をいとも容易く引いていく、殺せばそれで十分なのだ。


「ナイス援護、っと。『大切断』、からの『スラッシュ』ッ!!」

「『共鳴演戯』、『桜火ノ導』。『天延』、『天逆太刀』ってな。まぁ十分な火力にゃならねぇか、部位破壊狙いも格を狙うも厄介どころが多すぎらぁ」

「攻撃力四桁がボーダーラインになりそうですね、しかも秒間ダメージではなく単一ダメージでという。なかなかに厄介なボスですが、攻略の糸口が見えないという訳でもありませんか」

「純粋な四桁より物理ダメージの割合も重要じゃないかしら? そういう点では私たちみたいな魔法職は弱いわね」


 その言葉を聞き、ワイルドハントも炸薬の配分を変える。

 マスケット銃である以上は火薬の配分の調整なんかも容易い、反面連射性は大きく劣るが貴重な戦闘要員ではなくこの二人を連れてきたのは意味があった。

 職業:技師に火薬使い、攻撃能力という点ではほとんどの職業に劣るが反面火薬や銃器の扱いに関して言えば右に出る者はいないだろう。

 いや、火薬の扱いだけでいえばアソコの『ウィッチクラフト』も相当なものだ。

 そういう意味では単純な比較は難しい、のか? 疑問は内心に仕舞い込み小銃を合わせる。


「フン、『チェック』」

「〈――脅威度再定義、優先排除対象を……ッ!!〉」

「甘いよ、ソレに遅いね。『暴走』『超過負荷』『ショット』」


 瞬きは、やはり紫電となって届くだろう。

 異様に思い弾丸がワルキューレを吹き飛ばした、即座に黒狼の蹴りがたたきこまれる。

 一方的な展開だが、そろそろソレも終わりだろう。

 スタミナが、切れる。


「交代だね、下がりなッ!!」

「へぇ……?」

「アタシが前に立つ、援護は頼んだよ。さぁて、魅せるかねェ。『ワイルドハント(ワタシ)』の、海賊の戦いを」


 海賊帽を片手で抑え、半ば壊れかけのマスケット銃をインベントリに捨て置く。

 抜き去るはサーベルだ、湾曲した刀身はびりびりと薄く電気をまとっており。

 天中には、太陽がある。


「村正、交代だってよ」

「馬鹿いえ、手前だ。戦いなれてねぇんだから下がっておけ、儂は大丈夫だ」


 次の瞬間、雷の斬撃が煌めく。

 そして空間に紫電の跡がくっきりと残って、『ワイルドハント』はこう告げた。

 『ライトニング』、と。


* * *


 環境として全力を出せない、いやそんな言葉は言い訳だ。

 全力を出せる環境でなくとも十分に力を発揮しなければならない、それこそが黒狼に求められている役割に他ならなければ。

 結局これは最もダメな最たる例ともいえるだろう、自責の念が消えることはない。

 まぁ多分どっかで忘れてる気もするから大丈夫だろう、そう思いながら杖を取り出す。


「ハン、軽いねぇ!!」

「ミスリル銀は攻撃力よりも付随する魔力特性の攻撃が怖いぞっ!!」

「わかってるよ!! そんなことも知らないオンナだと思ってんのかい!?」

「そりゃ失礼、じゃぁ儂から遅れるんじゃねぇぞ」


 息ピッタリ、と言うほどではないが上手い連携をする。

 近接攻撃の合間にマスケットによる一撃を入れ、暴風のような苛烈さをともなう戦いを披露する『ワイルドハント』に定石に沿った一撃一撃が丁寧極まる村正。

 今更ながらにどちらもトッププレイヤーであるという事を思い出させてくれる、かくいう黒狼もまたトッププレイヤーの端くれであるのは事実だが。

 加え、二人の戦いには明確な間があった。

 所謂スタミナの回復時間、黒狼はアンデッドであった時間が長いからこそ失念する体力的限界。

 二人の立ち回りはソレを踏まえたモノであり、止まることのない流水さながらの綺麗さと緩急の付いた柔軟さを魅せてくれる。


「参考になるな、『ダーク・レイン』」

「貴方はどちらかと言えば魔法職でしょうに、何故そこまで前線に出たがるのですか……」

「貴方か私が多少なりとも前線に立てるのなら、っていう前提が欲しいかしら? モルガン」

「あきらめましょう、早く戦い方を覚えなさい」


 我儘な魔女サマに呆れが出る、黒狼は心の中で文句を愚痴って。

 まさか、そこで終わりというわけもない。

 弓を取り出し構える、次の瞬間に放たれた矢は湾曲を描きながら突き刺さった。


「『ダーク・ボルト』」


 ワルキューレの体から黒い稲妻が飛び立った、今の弓の攻撃はただの攻撃ではない。

 魔術的なアンカーの役割を伴った攻撃だ、モルガンやロッソみたいな魔力単体によるアンカーでない分強度はある。

 必然、必中性も高い。


 レオトールに言わせればコレは小技だろうが、今の環境では必須技能だ。

 そもそも数キロ間を前提とした魔術の撃ち合いでレイドボスを狩る奴らの意見は参考にしないしできない、文字通りレベルが違う。


「魔法文字に関しても割と学べてきたしな、モルガン様々ァ!!」

「そう言うのでしたら労いの言葉よりも行動を、貴方の勝手な行動で何時間もが無駄になります」

「村正、まだ耐えれそうか!!」

「話を聞きなさい、愚か者」


 無理、とは言わない。

 ただ半歩下がった、ソレが村正の答えであり。

 黒狼の回復が終わったと言う合図でもある、ソレは信頼の証でもあった。


「『抜刀』」


 HPが無くなっても耐えるのは黒狼の特権だ、このまま瀕死で耐えられてはキャラクターが被る。

 ただでさえ肉体を得たと言う弱体化によって面倒なことになってるのだ、数少ない特徴まで奪われてたまるか。

 そう言うようにニヤリと笑い、黒狼は一つの稲妻となった。


「『雷神愚』」


 稲光、あるいは霹靂。

 1人の少女からインスピレーションを受け作り上げた村正の一振りが一つ、超高速の一閃。

 音速に至る寸前までの速度で踏み込みを行わせ、敵までを一直線に加速する。

 制御は不可能か、否まさか。


「露出させたぞ、『ワイルドハント』」

「『陽の日陰(タッシュ・ソレール)』、水平線に沈みなクーシェ・ド・ソレイユ


 破壊、暴虐。

 あるいは落日、太陽を落とすかのような一撃。

 放たれるは破壊、絶対たるエネルギーの本流が溢れ出す。


「へぇ、中々やるな」

「油断さんじゃないよ!!」

「してると思うのか? 『装鎧【マンティスブレードΩ】』『思考加速』『(スーパー)デッドヒート』『ピーキー・オブ・ザ・ピーキー』」


 次の瞬間だった、最弱の一瞬後に手に装備された二つのブレードが黒狼の身体能力をフルに活用した超加速の斬撃が叩き込まれた。

 恐ろしく速いだけの攻撃、残像が残るほどの速度で放たれた攻撃は迫る足掻きを全て切り裂く。

 あるいは斬撃の嵐か、徹底的に。

 破壊されたコアごと再生され無いように、絶望的に切り裂き続け。

 ソレは僅か数秒であり、ソレでもはや十分だ。


「な?」


 背後から投擲された槍に胸を貫かれながら、黒狼はそう笑いかけた。

 他の全員が馬鹿じゃねぇの? という呆れた顔を向けている、とはいえ。

 ワルキューレは機能を停止し、地面に転がっている。

 勝ちは勝ち、勝利には変わりがない。

 一先ずはこの勝利を祝おう、そう笑いかける黒狼にどうしようもない言葉を飲み込みながら『ワイルドハント』は笑った。

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