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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
二章上編『前夜祭』

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Deviance World Online ストーリー6『嵐のような』

 焦燥感と怒り、我儘が通用しないという傲慢。

 それらを飲み込めば、超超遠距離から弓を叩き込んでくる『キャメロット』の13円卓が1人。

 弓使いのトリスタンの姿を、視界に収まる。


「あんなモノに手こずってるってのかいッ!!」

「へ、へぇ。ですが姉御!! アッシらは姉御ほどの精密射撃はできねぇでやんす!!」

「言い訳をするんじゃないよ!! 弾丸装填始めッ!! 反撃に警戒して魔力アンカーを叩き込むんだよ!!」

「了解でやんす!!」


 イラつく、存外思い通りに行かないこの世界に。

 いや思い通りにいかないのは分かりきっている、その思い通りを制することが出来ないことにイラついているというべきだろうか。

 すべての歯車が狂い始めたのは、やはりあの戦争からか。


 参加した人間は漏れなく負けた、参加していない人間は戦わずして敗北した。

 賢い選択を得たとは思う、実際に参戦していれば今以上に被害が生まれそのままクランとしての勢いは失っていたに違いない。

 あの『アイアンウーマン』も自らが所属していたクランから抜け腐っている、ここに『白銀』らが来たのもあの戦いに参加し個人としての弱さを自覚したからに違いないだろう。

 推測ではあるが間違いはない、あの戦争に参加したトッププレイヤーの約一割がゲームを去り五割が勢いを失った。

 またプレイヤーの動きも大きく変化している、少し前までは北方へ足を延ばすという雰囲気が感じられていたにもかかわらず今ではもう既に北方に挑むことを完全な無謀となっており。

 より南、より山岳の奥先にある砂漠の国家を目指している。

 そういう風に湿気た空気が広がっている、必然北へ広がる海を占領するワイルドハントら海賊の勢いも下がっていった。


 どうにも、気持ち悪い。

 盤面が誰かの意図によって整理されている、ソレは運営などと言った外なる神の干渉ではなく盤面の内側。

 本来ならば見えているはずの個人によって、民意を操作されている。

 あってはならない事だろう、けれどもだ。

 『ワイルドハント』ドレイクはその民意という波の勢いに逆らうことはできない、彼女と言う海賊は国家に所属しないからこそ自由があり責任がある。


「嫌な風が吹いているねぇ、この盤面はアンタが仕込んでるってのかい?」


 その渦中にあるのは間違いのない、『キャメロット』と『混沌たる白亜』の二つだ。

 どちらも戦争によって大きく被害を、それか利益を得たクランには違いなく。

 そして遠くない未来で直接的に戦うことが確定している、二つのクラン。


「風の向きが読めない、触れるべきでないっていうのは分かるが……」


 好奇心が、どうしようもなく疼く。

 所謂、ここが引き際であり介入できる最後の場所だろう。

 コレが終われば最早、ワイルドハントが行えることなど無い。

 直感ではあるが、また真実でもあると考える。


「しかし、あの男は誰だい……?」


 尚更、同時に疑問が湧いてきた。

 ()()()()()()()()()2()()()()()()()()()()、これはこのゲーム云々以前に存在する絶対原則だ。

 分身の魔術やスキルに関しても発動した時点で思考回路が完全に分かれた状態になり、まともに歩くことすら困難となる。

 だからこそ、彼女らがリーダーと言う自殺した男の存在が不明瞭に過ぎる。

 ソレに、()()()()()()()()()()()()()()()

 おかしな話だ、思い出そうと考えれば考えるほど明らかに見知ったナニカになる。

 認識の改竄? と一瞬疑いはするが……、現実的に。

 そしてそれ以上に、常識的にあり得ない。


「だからあり得る、って訳かねぇ? まぁ良いさ」


 対面する時は決して遠く先じゃ無い、ソレに加わるか否かという選択も急ぐ必要はある。

 だが急ぎすぎる必要もない、直近に差し迫っているわけではないのだから態々自らの陣営をここで確定させる必要性もないわけで。

 ただいい加減『キャメロット』一強の時代に辟易としているのは、間違いのない事実ではあり。


「姉御ッ!! 奴ら撤退していきます!!」

「フン、ちょっかいを出して無傷で逃げ帰ろうってのかい。随分な度胸だね、そう簡単に逃がしはしないよ絶対に」


 海の風はいつでも澄み渡っている、だから海は好きだ。

 世界の総てを支配する者がいないように、海の総てを支配する存在など要るわけがない。

 だから海の上は自由で好きだ、この自由はこよなく好ましく。

 この磯臭さだけは、誰にも譲れない。


 船が加速する、海を縦横無尽に動き始めて。

 ワイルドハントの真に恐ろしいのは単独の戦闘能力ではなくその操舵技術。

 風を読むことに関してならば、決して誰にも劣ることはない。

 ゲーム内で完結しない技術、培われた経験からくる圧倒的なスキル。

 トッププレイヤーとは、ソレを有する規格外のことを意味する。


「操舵を寄越しな、ソレじゃ悪いよ!! 帆をやや畳みなっ、急ぎ過ぎるんじゃないよ。エンジンは未だ使うんじゃない、最高速度を見せればそのまま食われるよ。ソレにトリスタンが乗ってるのなら大砲を確実に当ててくる、射程圏内に入ったら終いだね」


 個人の技量や能力が関係ない射撃は、ソレ単体で相応の能力を伴う。

 そう言う点でキャメロットのトリスタンは最悪だ、数キロを間に挟んでの精密射撃が可能なのだから。


 ただ有効射程は長くても3キロ未満であるのは間違いない、船の動きからすればおそらく1.83kmぐらいか。

 攻撃力の減衰は最大で80%、コチラは逆にほぼ間違いがない。

 武装によるブーストを掛けても仕様上、攻撃力は大きく下がる。

 コレは不変的な事実であるがためにこの世界の弓兵が不遇化されている要因でもあるだろう、まぁソレほどの距離を一方的に蹂躙できると言うメリットがあるのだから仕方がない。

 少なくとも現状はワイルドハントの、彼女にとって有利に働く要素ではある。

 仕様に不満を言うのならば先に目の前の敵を片付けてから、話はソレからだ。


「行くよ、野郎ども!! 準備は万端だね!!」


 答えは、返事は聞いていない。

 急速発進を始めた船の上、気持ちの良い風を全身で浴びながら。

 きっと絡でもない話があることを予感しつつ、嵐のような女は笑みを抑えきれなかった。

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