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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
二章上編『前夜祭』

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Deviance World Online ストーリー6『火薬』

「全く嫌になるねェ、アンタのところの骨はいつもアレなのかい?」

「そうですね、毎回予想できないことをさも当然のようにやってきます」

「苦労してそうだね、その口ぶりは」


 マスケット銃が火を吹く、迫り来る弾丸が胸を穿つ。

 軽く滲む血に体を貫く衝撃、同情の言葉とは裏腹に彼女の攻撃は至極苛烈極まっている。

 逃す気も、生かす気もないらしい。


 数歩後ろに下がりながら杖を握り直すモルガン、半ば奇襲じみた接近に対して明確な答えを出しながらここまで対応するとは。

 その感嘆とは裏腹に自分たちの戦略性の無さを突きつけられた気もする、全員が突出した個人であるからこそのマンパワーに全てを傾倒させている戦い方しかできていない。

 非効率を極めているとも言える、黒狼が居るのならば。

 より正確には指示系統がハッキリしているのならば目立つ粗ではないが、分断されれば一気に崩壊する程度の粗隠しだ。

 コレもまた自分たちの弱点か、と心の中で呟きながら改めてヒールを執行。

 玉露のような艶やかな肌を取り戻しながら、目の前の海の女を睨む。


「そう睨むンじゃないよ、裏切りの魔女」

「敵を睨むのに、如何なる不都合が?」

「都合や合理を求めるなんてアサいねぇ、真に求めるべきは……」


 カチッ、という音がした。

 ロッソが防御術式を張る、同時にモルガンは対処できない。

 モルガンはロッソほどの運動神経も持ち得ていないために、攻撃への反応は遅れる。

 必然、防御を展開する速度も。


「笑えるか、じゃないか?」


 一瞬だけだが、ワイルドハントの笑みに黒狼が重なる。

 黒狼がいつも顔に張り付けている悪意にも善意にも似つかない笑顔に酷くよく似ている、吐き捨てたくなるタイプの笑顔だ。

 あるいは自分の絶対性や優位性を疑おうとしない自信に満ち溢れた笑顔かも知れない、ただ彼女の笑顔と黒狼の笑顔の違いは。

 その顔の中に、これ以上ない無鉄砲さと清々しさが感じられるところだろうか。


 右目に弾丸が当たり、眼球が弾ける。

 痛覚カットの通知が届き、そして同時に立てなくなった。

 脳にまでは届いてないだろう、その手前で止まった気がする。

 だがその衝撃は殺せているわけではない、近代以降の銃みたく先が尖っていないからこそ衝撃は重苦しい。

 加え致命部位によるクリティカルも相まってダメージもソコソコ受けた、全体の一割程度は奪われているはずだ。

 加え幾つかの状態異常、ここまでの致命傷を受けたのは黒騎士戦以来だろうか。

 いや、黒騎士戦ですら受けたことはない。

 全てが即死攻撃と等しかったあの戦いではそもそも攻撃を受けられない、ソレと比べれば確かにずいぶんと温く。

 そしてまた、致命的。


「ほら笑いなよ、折角の綺麗な顔が台無しだよ?」

「冗談のセンスが終わってるわね、海賊風情が」

「いいね? ウィッチクラフト、気の強いオンナは大好きだよ!! ウチに来るかい?」

「悪いけど間に合ってるわ、貴方みたいな巫山戯たヤツは」


 サーベルかロッソの髪を少し切り裂き、また彼女はインベントリから武器を出す。

 銃器使いには同じく銃器で対抗する、脳内のどこかで黒狼が呼んだ? と聞いてくるが一旦無視だ。

 両手に装備するは破壊、あるいは衝撃の権化。

 すなわちショットガン、ソレもこの世界観をぶちこわすような所謂近未来的なショットガンだ。

 ソレを二丁、両手に持てば軽い引き金を雑に引く。


「武装解説、して欲しい? あのバカは聞かないのよね。何だっけ? パイルバンカーこそ至高!! 銃器なんて見てから回避できんだから、然程強くないとか言って」

「是非ともして欲しいねェ……、何だいコレ? 今ので腕の骨にヒビが入ったじゃないか」

「いわゆるショットガンね、ただ衝撃性能に全振りしたわ。ビリーちゃんには感謝しないとね、拡散と衝撃のバランスは彼女のデータなしに作り得なかったわ。っと、そろそろ起き上がりなさいよモルガン」

「気が付いていましたか、時間稼ぎご苦労様です」


 放たれる致命の一撃、狙うは心臓にして穿つは刃。

 完全とまでは言えぬまでも不意打ちが突き刺さる、ステータスと装備によって軽症にまで留められた攻撃は確かにワイルドハントの姿勢を崩した。

 すかさずロッソのショットガンが放たれる、機械的な音と炸裂音は更にワイルドハントを吹き飛ばす結果となるのは明白でしかない。

 反撃は、許さない。


「『鎖よ、縛るがいい。逆賊がここに1人、鼠の様に這い回る【チェイン・ロック】』」

「『照準照射、アンカー固定【魔弾の射手(サンタ・マリア)】』」


 鎖によって締め上げられる、たわわな双峰が強調するように出て来くると共にロッソが取り出したライフルがワイルドハントの心臓を知らしめた。

 続く轟音、正しく爆裂。

 光と共に放たれた弾頭はステータス差を半ば無視するように胸に抉り込む、身じろぎ一つできないワイルドハントに対処はできない。

 風穴が開く、と言う所までは惜しくも届かないが肋骨と言う絶対的な壁は貫き去った上で心臓手前に存在している。

 ピュゥ、と間抜けな音が聞こえそうな程に血液が溢れ出す。

 主要な血管の一つ二つは撃ち抜いただろう、この様子を見る限り動脈もか。


「へぇ、中々やるじゃないか」

「死ぬわけないわよね、分かってたけど」


 半分諦め、半分苦々しく。

 肉体の欠損ほどこの世界で語る無意味な話はない、というか誰しもが見たはずだ。

 その半身を消し飛ばされ、尚も動いた怪物を。


 異邦人(プレイヤー)は、真の意味で侮蔑の言葉となった。


 腕を切られても大丈夫なのだ、心臓を抉られようが問題はない。

 痛覚はシステムによって軽減され、恐怖よりも面白そうだと言う興奮が勝る。

 世界はそのようにプレイヤー(異物)を設計した、神はその様な人間の成立を許容した。

 殺しても殺しても、抉っても切り裂いても遊戯と断じて進むバケモノを。


 皮肉にも、怪物やバケモノ。

 あるいは『白銀の絶望』と言われたただ1人のNPCによって、プレイヤーという存在が作り上げた人間としての在り方は打ち破られたのだ。

 あの男が告げた言葉宛らに、如何なる拷問も苦痛なく逃れる術があり。

 そのくせ精神は人間(NPC)と同じく、だがしかし人とは思えぬ愉悦快楽に身を浸す。

 渇望の末幾人を殺し手に入れた力を僅かな時間で己が力とし幼童が遊ぶかのごとくに振りかざして行うのは悪鬼逆賊に等しい悪行、そして異邦人(プレイヤー)同士で殺し合い、ソレを道楽とする精神の異常性。

 かの男が予見し侮蔑した言葉通り、あるいは黒狼が体現するかの様な無垢の悪意というミームが蔓延している。

 ただの誇りも、正義もない悪意のミームが。


「臓物を垂らしながら戦うゲームシステムなんざ、私でもそんな悪趣味なことを考えやしなかったよ」

「概ね同意、そんなゲームは私としてはやりたくないの。そういうわけで、素直に負けを認めてくれないかしら。こっちはリーダー1人失ってるわけだし、痛み分けってことにならない?」

「フン、構わないよ。ソレにこれ以上の消耗は、理に敵わない」

「あら、存外話が通用するわね。感心感心、全く話を聞かないタイプの人間かと思ったわ」


 ガッ、と周囲の音が止まる。

 静かに包囲しようとしていた『黄金鹿の船団』の面々が動きを止めた音であり、また村正がその手を止めたということに他ならない。

 つまり戦闘の意思はないということ、甲板に転がっている黒狼が持っていた白旗を手に取りハァと息を吐き出しながらロッソは告げる。


「そういうわけで、話し合いをしましょ?」

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