Deviance World Online ストーリー6『死者の王』
『ワイルドハント』たる彼女の戦い方は、シンプルに強いという結論を以て話が始まる。
基本的にはヴィクトリア風の武器を用いた遠距離攻撃、マスケット銃による物量のごり押し。
ソレ単体は恐ろしくない、と言うより下手な銃であればむしろ弓の方が怖い。
「ただ、戦闘センスがずば抜けて高いですね。まさしく人海戦術を正しく使っている、と言うわけですか」
「弾丸の雨とは恐れ入った、狙撃能力も悪かねぇ」
「どうしようかしらねぇ、あの距離から撃たれてるのなら迎撃は難しいわよ?」
「ならば私を守りなさい、徹底的に返しましょう」
モルガンが杖を構え、地面で悶える黒狼を足場とし。
弓を引き絞るように、矢を番えるようにして魔力を収束させる。
目を細め照準を合わせた、未だワイルドハントは遠い。
だが遠いだけだ、決して魔術的なアンカーを打てないほどではないだろう。
グエーと呻く黒狼を無視しながら詠唱を始める、そしてソレが反撃の狼煙でもあった。
「『鏡面の空間、飛び越えるは境界、重なる世界より繋げよう【即ち鏡面の果て】』」
「まぁ……、先鋒はやるか。『雷塵供』」
船の上に大きな鏡のようなものが現れ、その先が歪む。
暫しの静寂、そして村正が先鋒を宣言しそのゆらめく鏡に突進した。
バチバチと全身から雷を放ち、周囲の空気を焦がしながら。
「転移魔術かい、そういやソッチには魔女がいたんだったねぇ!!」
「その御首、貰い受ける」
次の瞬間、雷を纏った刀と海賊の湾曲したサーベルが打つかり合い火花を散らす。
特殊アーツを用いた一撃、確かな攻撃力を伴った衝撃であるはずなのにワイルドハントは容易く受け止めた。
威力も衝撃も相応にある、一昔前ならば決め手になっていた攻撃だろうがそうはならないというのが互いにトッププレイヤーということがわかる。
あるいは村正の限界か、いかにトッププレイヤーと騒がれていても村正は鍛治士。
その二つ名である『妖刀工』より生産職なのは明々白々、戦闘職である『海賊』の中でも一つ二つ飛び抜けた『ワイルドハント』に劣るのは必然でもある。
が、生憎とトッププレイヤーの数であれば思っていない。
「『座標確定、アンカー固定【マナ・ランス】』」
「『四極絡まり光輝と為せ、【マジカルキャノン・ディストラクション】』」
「ハっ、容赦のない奴らだネェ!! こっちも全力で行かせてもらうよッ!!!」
発砲音が二つ、銃身を破壊しながら放たれた弾丸は二人の魔術を正面から相殺する。
最高峰の魔術が二つを、正面から。
さすがにこの行動、この攻撃には黒狼も目を見開いた。
DWOでは未だに魔法一強の世界だ、決して物理キャラが強いという話は聞かない。
NPCやそこを大きく超え北方の傭兵にまで目を向ければ別だろう、何せ評価基準にあの最強が君臨している。
だがそうでなければ、少なくともプレイヤーという狭い範疇で比較を行うのならば魔術職一強の時代であるのは間違いないと考えていい。
ただし、純粋火力と言う局所的な視点でいえば。
「笑えるねェ、まったく」
「笑える? ハン、お前さんは戦う前からダウンしてるのかい? 随分とつまらない男だねェ?」
「おや、私から視線を逸らす余裕があるのですか? 随分とまぁ余裕ですね」
「視線を逸らす? 面白い言葉だ、少し視野が足りていないんじゃないのかい?」
次の瞬間に、剣が付き出される。
視線を投げかければ正体はいともたやすく看破できるだろう、そこに立っている二人の名を理解した。
二つ名プレイヤーがたっていた、少なくとも黒狼の物語に一切絡んでこなかった二人のトッププレイヤーが。
そこに立っているのは西洋鎧に身を包んだ一人の『白銀』、その隣に居るは滲む錆に胎動するは『黒鉄』の東洋鎧。
すなわち、二人のトッププレイヤーがいる。
「姉ちゃん、黒の魔女を頼んでいい?」
「御意、裏切りの黒魔女よ。いざ、参る」
二人の攻撃が魔女二人の首を狙う、迫る一撃は属性をまとった攻撃であり恐怖するに必然な一撃でもある。
対処できない攻撃でもない、だがそれは対処するのに相応の犠牲を強いる攻撃であるという事も事実であるのは間違いのない話でもあった。
防ぐか? 無理だ、近接職の攻撃は同じ近接職でなければ対応できる訳がない。
少なくとも、魔術師などに類する遠距離職が行える動作行動ではその攻撃を一度は受け入れるほかにないのが答えだろう。
「させねぇぞ、手前ら」
「チッ、強いね。流石は村正サン、なんでも村一つを壊滅させてレベルを上げたんだって? その実力是非とも見せてもらいたいよ」
「喧しい、手前が剣士なら刃を振れ」
「剣士じゃなきゃ?」
言葉と同時に火薬の炸裂音が耳に届く、火花と共に朱に染まった炎が目に入り頬を滑りながら弾丸が髪に振れるのが感じられた。
銃器、なるほどと心の中で納得する。
どういう経緯で味方に引き入れたのかと思えば、銃という共通点があったのかと。
「態々聞いて、答えは変わるのか?」
「ハハっ、確かに変わらないね」
次の瞬間、二人の剣と剣が。
刃と刃が交錯する、さながら戦慄であり武の形と考え直してもいいだろう。
村正の速さに重きを置いた攻めの攻撃と、その速さを受け止め返す受けの技。
高度な戦いにはAGIよりもINTが求められる、例えばこんな話を聞いたことはないだろうか? 卓越した達人同士の戦いでは感覚がより伸びるという話を。
実際には体感時間の延長であり実際に認識を加速させているVRシステムとは全く異なる理屈ではあるが、とはいえそれらの反応も全て脳波が関連している。
ならば、システムとして落とし込めない訳もない。
最も、理屈の上では。
「ハハッ、なかなかやるぅ!! 本当に生産職?」
「『抜刀』」
「だよね? 初手で入れるよねソレ、やっぱ本当に対人経験は浅いんだ?」
インベントリから刀を取り出しながらもう一本を仕舞う、この戦いのスタイルも随分となれた物だ。
あるいはその頂点を見て答えを得たからかもしれない、熱に浮かされるような思考の何処か冷静なところで正確に判断していく。
同じく、視線を魔女二人組に向けた。
モルガンは完全な運動音痴だがロッソは前衛もある程度こなせる程度には動ける、と心配ない要素を羅列するが相手は近接戦まで対応できるトッププレイヤーに完全な近接職。
少しでは済まない怖さがある、流石に3人のトッププレイヤーを相手に村正は生き残れる気がしない。
そう心配し、チラリと視線を向けるが……。
「グッバーイ!! ベイベー」
「不覚……!!」
「……使えないさねぇ、海に落ちるとか」
足場の悪さと黒狼の意地悪さが合体した結果、船頭から黒狼諸共海に落ちる『白銀』が見えた。
姉と呼ばれた彼女は黒狼の意地の悪さまで看破できなかったらしい、正々堂々挑もうとしそのまま落とされたらしい。
何とも締まらない話だが悪い状況でもない、多少好転した状況に満足を示しながら改めて目の前の敵を睨む。
まだまだ戦えると、そう知らしめるように刀を強く握りながら。




