Deviance World Online ストーリー6『嵐の海域を制した者』
『ワイルドハント』、ドレイク。
DWOとは異なる海戦ゲームにて、運営が用意した最強の艦隊を単一クランで撃破した功績より彼女はこう言われることとなった。
つまり、ドレイクと。
「嵐の海域を制したモノ、海戦の女王。味方にできればこれ以上なく心強い反面、敵に回せばこれ以上なく厄介な怪物だ」
「声を掛けるには最も厄介な相手ね、利益至上主義で略奪上等。彼女の部下にまで徹底された海の益荒雄としての在り方は交渉や知性とは無縁な暴力よ、反面アルトリウスのように仇なす者を完全に排除するというわけでもない」
「確かに話を持ちかけるには良い相手でしょう、ですが同時に相応以上のリスクがあります。私は、賛成しかねますね。紐で狂犬を制せる、とでも?」
「だから目の前に飛びっきりのお宝を用意する、アイツだって欲しがってんだろ? フラッグを」
残る旗は一つのみ、地上はキャメロットらに。
そして海上はワイルドハント含めた『黄金鹿の船団』によって、どちらもトップクランであり最強の一角を担う。
少なくとも海戦では『黄金鹿の船団』に劣り、陸戦では『キャメロット』に劣るだろう。
「……まさかキャメロットのフラッグを奪うというのですか? いえ、不可能とは言いません。ですが、余りにも無謀に過ぎる。そもそも彼らと事を構えるにはまだ、準備が整って」
「馬鹿言え、アルトリウスさえ居なけりゃ所詮奴らは烏合の衆。勝てるとは断言できねぇが、ワイルドハントを味方に付ければ負けることはない」
「随分な自信ね、根拠はあるかしら?」
「見た目の数字や規模だけで見りゃ、『黄金鹿の船団』はよくて中堅だろうな。けれど間違えちゃならない事がある、アイツは一つ前のイベント戦で海エリアを完全に攻略した上で唯一戦争に参加していない大手クランだ」
前回のイベント戦、最後に出てきたレイドボスのヒュドラ。
それと同等の怪物と単一クランで戦い、彼女は勝利を収めた。
全くもって笑えない、公式記録において単一クランでレイドボスを倒したのは現在わずか一つのみ。
黒狼たち『混沌たる白亜』を除き他にいない、けれどもだ。
あくまで黒狼たちの勝利は薄氷の上に残った奇跡の結末であり、二度と同等の事を為せと言われても不可能だと言う他にないだろう。
そんな大業偉業、あるいは難行をクリアできる可能性を持っている。
「それにキャメロットは想像以上に中身はボロボロだろう、だから態々こんなにも回りくどい手段を取ったんだ。同時進行されるイベントに、それぞれの戦力を割くと言う」
「一考の余地はあるわね、賛成してもいいわ。ただ基本的に私は研究と開発があるから積極的には参戦できないと思っておいて欲しいわね、そう言うわけで最終判断はモルガンに任せる」
「私がリーダーというわけではありません、船頭に立っているのは貴方です黒狼。貴方の判断で沈むも良し、あるいは辿り着くも良し。ここでの戦いの結末は大局に影響はないでしょう、とは言え」
負けた時点で、貴方は王である必要性を失います。
態々言葉にするなどと言う不粋なことはしない、言葉にせねば分からぬほどの愚物を王に選んだつもりもない。
突き詰めれば勝てばいい、常勝の王になれば構わないだろう。
「分かってるさ、だが負けるのもまた悪いことじゃない。重要なのは如何にして勝利条件を擦り合わせ達成し、敗北条件を満たさないようにするかと言うことだ」
だから黙って見ていろ、半ば睨むように告げられた言葉をモルガンは無表情で返す。
暫しの間の睨み合い、けれども先に視線を外したのはモルガンだった。
黒狼から視線を外せば、そのまま船の奥へと歩いていく。
「随分な物言いだったわね、そのくせ碌な反論もできやしない」
「そう言ってやるな、アイツもアイツで随分と気が立ってるんだよ。それに自分でも薄々と分かってるんだろうな、アルトリウスに勝てないって事が」
「面白いわね、彼女が聞いたら怒りそう」
「ああ、けどまぁまず間違いない。『騎士王』アルトリウスは言葉の通り強過ぎる、最終目標をキャメロットの完全打破とするのなら今回のイベントのような半端な状態の奴らじゃなくアルトリウス含めた13円卓を相手にしなきゃならない。まぁ先ず不可能だ、どれだけ準備を整えたとしてもアイツは必ず逆転する。アレは調子のいい俺と同じ状態を常に維持してんだからな、絶好調にまで調整しなきゃ俺でもタイマンで勝てる気がしねぇ」
それは確信ではなく、予測。
黒狼という存在を軸に組み立てられた論理なき理、されども不思議と納得のいく言葉。
アルトリウスは、絶対であると言う真実。
黒狼が勝負に立てば勝つように、アルトリウスを勝負という土台に乗せれば相手は負ける。
翳すのが正義というだけでアルトリウスもまた黒狼と同じ同類だ、あるいは一人のプレイヤーに言わせれば似たもの同士。
あらゆる逆境を己の意志一つで乗り越える怪物か、もしくは。
「先ずはキャメロットに脅威度を改めさせる、アルトリウスを攻略するのは難しくないがアルトリウスと戦うのは難しい。何れにせよ渡りに船だ、俺の計画的にもアイツのプライドを押さえ込ませるのにも」
「相当にイライラしてるもの、彼女。というより貴方の行動が遅過ぎるというべきかしら? 一ヶ月間、船で永遠と魔術と既存武器の量産ばかりさせてたじゃない」
「申し訳ないとは思ってるさ、けど必要だからやった。なんならもっと準備をしたいぐらいだが、まぁ辞めたのはここらが限界ってだけだ。アイツの勝利はアルトリウスに勝つ事かも知れないが、俺たちの勝利はまた違う」
「相応に考えはあるのね、まぁ村正とも別の悪巧みをしてるらしいし。多くを語らないのは嫌いじゃないわ、ただ意図は語りなさいよ」
そう言いながら、二人は視線を海へと投げかけた。
霧の間、黄金溢れる太陽より手前。
海に広がる一つの船団、あるいはこう言うべきか。
「『黄金鹿の船団』」
来たか、呟きながら立ち上がると黒狼はインベントリから一つの槍を取り出す。
真っ白な布をくくり付けた旗であり槍、降伏の意思を示すもの。
それを両手で乱雑に振り上げながら声の限り叫んでみる、あるいは無駄だと悟りながら。
「話、しようぜ!!」
「『宝を寄越してから言うんだなッ!!』」
まぁ、分かりきっている回答だ。
次の瞬間には白旗が撃ち抜かれる、防御魔術で弾丸を受け止めたロッソは静かにマスケット銃ねと溜息を溢しながら告げ黒狼はだろうなと返す。
弓を取り出し、続く攻撃を認識する。
「『構築理念・再考』『武芸千般』『絶技・弓張月』、…………。み゛ッ、っべ」
「『ラージシールド』、『対物理的衝撃を条件に追加、ダメージの減衰率を低下させ速度低下を優先』」
次の瞬間、弾丸の雨が叩き込まれた。
全てを結界で弾くロッソ、その真横で腕の骨が折れたと騒ぎながら転がる黒狼。
弓の打ち方が下手だったばかりに弦が腕にあたり、骨にヒビが入ったらしい。
呆れ自己回復能力で治るだろうと雑に蹴り捨てれば、迫る次の攻撃を捌いていく。
「おいっ!! どうなってやがる!?」
「ワイルドハントが仕掛けてきたの、対処するわよ」
「全く少し休もうと奥へ行けばすぐにこれです、船に大穴を開けて差し上げましょうか」
船から出てきた村正とモルガンが戦闘態勢に入り、ワイルドハントを見据える。
まだまだ遠く船の先頭、船首に立つドレイクの表情や顔はハッキリと見えないが。
ただ確信として、彼女は笑っているように見えた。




