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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
二章上編『前夜祭』

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Deviance World Online ストーリー6『イベントボス』

〈ーーイベントボスが発生しましたーー〉


 簡素な通知すら聞く余裕はない、何せ放たれた光線が目前に迫っていたのだから。

 相手のスタイルに凡そのアタリを付ける、恐らくは遠距離主体の後衛タイプ。

 だからと言って全くの一切、前衛ができないと言うわけでもなさそうだ。


「仕方がない、俺が壁になる」


 にしても、と心の中で言葉を続けた。

 卵から孵った瞬間に村正に攻撃をさせ、そして腕の一本は奪ったはずだ。

 少なくとも村正はそう感じている、そして今の黒狼の『カズィクル』と言う内側から杭が生える実質的な即死攻撃を受けても平然と存在していることにより間違いなく異常な再生速度か。

 あるいは、ソレに類するスキルを保有している筈だ。


「最悪はヘラクレスみたいなノーリスクかつ耐性付きの蘇生か、まぁ無いな」

「ほう? 根拠は」

「アレがポンポン生まれたらこの世界終わりだよ」

「確かに、実力のほどは知りませんが黒騎士よりも強いレイドボスであれば。その能力を保有する怪物が容易く生まれる訳も、有りませんね」


 迫る雷槍を防御魔術で防ぎながら、モルガンは淡々と処理をする。

 ワルキューレの攻撃は確かに高火力にして高速である、少なくとも簡単単調に対処できる攻撃かと言われれば黒狼は否定するだろう。

 だが魔術的な視点で見れば然程怖くはない、むしろ防ぎやすいとまで考えられる。

 何せ魔力が酷く揺れ動いている、あの戦争の時点では認識できていなかったが魔力視を平常的に使うようになれば嫌でも理解できた。

 攻撃が来ると分かりきっているのだから、防御を展開することなど容易い話だ。


「けれども、ギミックがこれだけとも思えませんね」

「同じく、そんでそろそろ来るぞ」


 モルガンの呟きに黒狼が返しながら、そして大技が来ると予見する。

 モルガンに同じく、或いは黒狼をモルガンが倣ったように黒狼もまた『魔力視』を持っていた。

 モルガンほどの魔術への理解は無いが故に魔術の起こりや攻撃を予見できるほどの精度は無いが。

 ソレでも、大技が来ることぐらいは理解できる。


「予想は?」

「結界系ですね、それ以上は全く」

「使えねぇ魔女だな、おそらく答えは魔力とかを無効化する攻撃だろう」

「ほう? 理由は?」


 モルガンの問いかけよりも早く魔法が展開される、直後にワルプルギスの航空高度が低下し始めた。

 体感でも、はっきりと理解できるレベルで。

 村正は目を細め、インベントリを開きモルガンは即座に杖を構える。

 反対に、黒狼は笑みを浮かべた。


「存外やるな、コイツ」

「言ってる場合ですか、黒狼」

「予見できたことで態々慌てるほど、俺は暇じゃ無い」


 吐き捨てるように告げるが、ソレを堂々と言えるのは黒狼だけだろう。

 予見できてもその効果を目の前で発揮されれば、多少異常はあわてるだろうし当然驚きもする。

 人体ドッキリ箱の他レイドボスと比べれば、予見できた行動から予見できる攻撃が飛ぶことは驚くに値しない。

 もっとも、だからと言ってその攻撃が弱いわけでもないだろう。

 浮遊感を感じながら武器を改めて構える、戦いの本番はここからだろうと。


「『縮地』、『胴断ち』」


 村正が攻撃を迫り、一太刀入れるが無駄だ。

 結局は甲板より上を飛ぶ天使、刃が届く範疇に存在していない。

 甲板に戻る様に姿勢を整えながら、はぁと鋭く息を吐く。


 今まで攻撃を回避したり防御してきたやつはいた、だがそもそも攻撃が当たらないのは珍しい。

 あるいは運営の意地が相当悪いか、そもそもここに辿り着けるプレイヤーは相当少ないだろうに空中機動力を重ねて求めてくるのは意地が悪い意外に言葉にしようがないだろう。

 魔法攻撃の一切を展開できないと顔をしかめるモルガンを横目に、辟易と村正は溜息を吐く。


「おい、どうにもならんのか?」

「サァ分からん、魔力収束がかき乱されてるだけだから相当強固に展開できるのなら無力化はできるかもだが」

「はい、無理ですね。ソレが出来るのなら既にして居ます、申し訳ありませんがこの魔術か魔法かを無力化するために一定以上のダメージをお願いします」

「へぇいへい、『ショット』」


 黒狼の判断は早かった、インベントリの中にあった弓を構えれば即座に矢を番え放つ。

 空気を薄く切り裂き飛び立った矢は、スキルの補助も受けて的確に天使の頭部に命中するはずだった。

 攻撃がペシッと弾かれ折れて落ちてゆく、そりゃそうだ。

 ただ弓がうまいだけでは弾かれ落とされる、緻密な射撃精度よりも重要なのは如何にして回避・防御・対処されないかというただ一点。

 ただそれだけを鍛えれば、弓使いは強く厄介になる。


「スキルチェイン前提の戦法とか終わってんな、『アローレイン』」


 黒狼が再び矢を放った、その攻撃は天使の随分上を狙った一撃であり普通ならばあたらない軌道。

 けれども黒狼がチェインさせたスキル効果により、雨のように一気に矢が降り注ぐ。

 全部に攻撃判定がある、当たれば高くはないダメージがそれでも無視できないだけ積み重なるだろう。

 ゆえに空中を乱舞して無理矢理気味にでもその攻撃を回避する、ソレは至極まっとうな合理的判断だ。


「『抜刀』『飛燕』」


 だから、こうやって村正に補足される。

 目にもとまらぬ抜刀から放たれるは、絶大極まる斬撃その物。

 全くの別方向かつある程度以上の意識外から放たれるその攻撃を回避するすべはない、そして村正とてその攻撃を回避させる気もなかった。

 鋭く早い一撃は確かに天使の翼に突き刺さり、彼女の動きを阻害し崩す。

 同時にモルガンが魔法陣を展開した、つまりは魔法類の攻撃を阻害する術式が解除されたという事。


「『フォース』」


 力場の発生、引力によって無理矢理に引き寄せられた。

 より黒狼たちの近くに、甲板のある近場に。

 強制的に、そして無理矢理に引き寄せる。


「その翼は不要でしょう、貴方も人間に類する存在であれば」

「『倣識』『一刀両断』」

「『一騎当千』『大切断』」


 地面、より正確には甲板に落ちる。

 そこを狙って黒狼と村正が至極強烈な一撃をまみえた、一気に迫る二つの武器はその背中にある両翼を切り裂き。

 奪った、そう確信した次の瞬間に光が瞬く。


「ッ、電気……!! 自分を中心に電気の爆発を行ったな!!」

「阿呆か、よくやるっ!!」

「うむ!! ぱちぱちするぞ!!」


 だが、内心で綴る言葉は希望に満ちたものだ。

 何せ超速再生のギミックにおおよその辺りが付いたから、ギミック理解を深められるのならこの程度の相手はおそるるに足らず。

 もしくは真に恐れるべきはそのギミックではなく、戦闘環境であるべきか。

 空中という場が不利に働くことは分かりきっていた、だがここまで劣勢に追い込まれるというほどとは予想だにしていない。

 事実上村正が無力化されているようにすら感じられ、また魔力の制限によりモルガンも無力化されている。


「まぁ、そのどっちもを一気に解決できない事もないか」


 楽観的な言葉とは裏腹に、顔には皺が寄っている。

 それでも笑顔が崩れないのは黒狼と言う人間性に起因するからか、或いは黒狼と言う存在が嘲笑う存在であるためだろうか。

 答えを求めるのは無意味だが、無意味に意味を見出そうとするのもまた人間だ。

 何故笑うのか、そう思考しながら黒狼は武器を握る。


「さぁ、反撃の時間だ」

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