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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
二章上編『前夜祭』

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Deviance World Online ストーリー6『フラッグ』

「さて、改めて確認だ。今回のイベントの、所謂勝利条件のさ?」


 勝利条件、ソレは黒狼が定める戦いにおいての勝利をなんとするか。

 言い換えれば何を達成として勝利と見なすか、ソレを決めることで明確な勝利を決定する。

 黒狼の戦いとは自分の勝利を明確化することで一方的な勝利を押し付ける、ゆえに勝利するという身勝手なモノ。

 ゆえに悪質、ゆえに厄介。

 だからこそ殺せず、勝つからこそ負けないという暴挙暴論。


「今回のイベントの最終目標は存在しない、俺側には明確な目的や目標があるとはいえるがお前らに設ける条件なんてないといえばない。が、それじゃぁ面白くないだろ?」

「好きかって言ってくれますが、別段なにもないというわけではないというのを理解していただきたいですね。私たちとて目的があり理由があります、ですがまぁいいでしょう」

「パス、面倒よ。勝手にやってなさい、武装の最終調整があるのよ」

「儂も同じく、と言いてぇところだが実際には割かし暇なところもある。内容次第ではあるが……。まぁ、手伝ってやらんこともない」


 参加二人、辞退一人。

 おこちゃまが一人、指折りで数えながら付き合い悪いなと愚痴る黒狼。

 まぁ唐突に言ってきた内容に合わせるほうが悪いというものだ、付き合いもくそもない。

 適当に愚痴りながらも分別はわきまえているつもりの黒狼だ、ヤレヤレとしながら話を続けていく。


「今回のイベントの目標は協力も込みで、レイドボスの撃破だ。多分出てくるだろうし、せっかくなら倒したいだろ?」

「悪くはない話です、ですが後の計画的にそれほどのことをできる余力はあるのでしょうか?」

「多分無い、ただやらなくても勝てる保証は存在しない。結局は、どこまでも運任せだ」

「つまりはやるべきと手前は踏んだんだな?」


 誰も否とは言わない、むしろ黒狼の悲観的な推測を肯定しやるべきだと賛同している。

 実際に勝てる見込みを問われれば全員がないと答えるほどに勝ち目があるかは怪しいのも事実だ、敵となるのはプレイヤー最強のアルトリウスだけではない。

 最上位にして最高位、存在するクランの中でも最優と名高い『キャメロット』を相手に戦争を仕掛けている。

 負けない、と考えるのはただの驕りか現実を見えていないがゆえの妄言だろう。


「なに、そう深く考える必要はないさ。イベント戦である以上は勝ち目は用意されている、前回みたく隠しボスを起動させなきゃ勝てはするだろうよ」

「見えざる神の温情を期待するというのはおろかに極まりますよ、黒狼。達成できないという予測を立てたうえで楽観視せず、淡々と挑むのが最善です」

「無理な話ね、興味につられて自分の寿命を縮める真似をするバカに賢さを期待するのは間違っているというべきかしら? いずれにせよ作業的な戦い、そんなものを許容できる男じゃないわよ」

「うむ!! 存分に死に戦うがよい!!」


 各々が好き勝手に言っている、黒狼はヤレヤレとため息を吐きながら静かに首を振った。

 好きかって言ってくれる、しかも随分な言いようだ。

 気にするほどの内容でもないが、気にならないと言えばソレも嘘だろう。

 というか普通に文句は出てくるし、なんなんだコイツらという感情も無くはない。

 だがその言葉が非常に大きなブーメランであることも自覚はしているので、口にはしないだけだ。


「そう言う訳で、早速臨もうか」


 黒狼がそういうと、しばらくすればイベントに参加できるようになる。

 いくつかボタンを操作すればクラン単位での参加が可能らしい、そちらの操作に切り替えれば船ごと包み込む巨大な魔法陣が形成された。

 一瞬あとに、黒狼たち『混沌たる白亜』は光の中へと消えていった。


* * *


 そんなこんなで、早くもだ。

 イベント開始から、一日が経過した。


「不味い」


 イベントの内容は凡そ理解できている、今回のイベントは明確なボスは設けられておらず陸海空に存在する『フラッグ』と呼ばれる宝玉を入手するというのが大きな目標だ。

 もちろん、その宝玉を守るモンスターも存在している。

 またそのモンスターとは別に、一時間に一回。

 マップのどこかに魔物の集団が現れ、倒すと価値のある鉱物などがドロップする


「非常にまずい」


 イベントの概要を把握した黒狼は、戦艦『ワルプルギス』の上で寝ころびながらそう呟く。

 今の説明ですでに理解している人は理解できているだろう、そうこれはウェーブごとにやってくるモンスターを殺すだけのイベントではないことを。

 もっとわかりやすく言えば、だ。


「クソ運営め、どこまで対立煽りをしてくるんだよ」


 通常のワールドで開かれている決闘は個人間の対立を深めるもの、反するこれは『血盟(クラン)』レベルでの対立を行わせるもの。

 盤面を大きく動かそうとしている、ソレはまぁいい。

 おおよそこのゲームをプレイするほとんどのプレイヤーはトップ血盟である『キャメロット』を好むことはないだろう、強いというのはそれだけで明確な罪であるのだ。

 ただ、そのために行われているこのイベントが非常にまずい。


「最悪、というほどではねぇな。だが厄介極まるのは違ぇ無い、なにせ()()()()()()()()()()()()()()が居ねぇ。正しく、手前の言う通り不味い状況ってわけだ」

「またキャメロット、ですか」

「海のフラッグはすでに『ワイルドハント』率いる血盟(クラン)黄金鹿の船団(ゴールデン・ハイド)』がすでにとってるわ、残るは空のフラッグだけ」

「一日中空を飛んでるのに一切見つかる気配がないのも相当に深刻だな、さぁてどうしましょうか」


 個として盤面を覆せないのならば、数が盤面を制する。

 すでに地上は『キャメロット』が、海は『ゴールデン・ハイド』が支配している現状。

 そしてそれが覆されることは、先ず先ず存在しないだろう。


 何が怖いかと言えば、覆せる可能性がまだある黒狼でもトッププレイヤーの()()

 黒狼を超える個人の実力者の総ては闘技大会に行ってしまった、残っているのはクランとして参加するトッププレイヤーだけ。

 数も力も備えたクランを、単騎で戦っても負ける実力しかない黒狼たちで打ち負かさなければならないというのがどれほどの難易度か。

 それでも最悪でないのは、やはり騎士王がいないことに起因するだろう。


「もしもアルトリウスが居れば地上のフラッグの回収が完全に不可能だった、と考えれば本当に幸運だよ」

「或いはいてくれたほうが楽だったかもしれませんが、式装を二つも持って行っているのですよ? それも唯一実用化している武装を」

「貴方も賛成していたじゃない、攻めるのはお門違い。まぁ猪女には理路整然とした合理的判断も、自分の発言に対する補償もできないのは理解できるけどね」

「随分と随分に言ってくれますね、あんなバカみたいなものを作っている貴方が他人をバカにできるとは予想にも思っていませんでしたよ」


 喧嘩は良いが魔術合戦にまで発展しないでくれ、と願いつつ黒狼は頭の中の盤面を整理する。

 このイベントの勝利条件は大きく変える必要が出てきた、つまり宣言をしたはいいが早速撤回となる訳であるのだ。

 あまり望ましくないが仕方のない話、とは言え勝利条件を書き換えた場合に出てくるのはフラッグの確保。

 だが、それを行うのにも多大な問題がある。


「ワイルドハントにキャメロットめ、随分と好き勝手に……」


 地上にはキャメロット、海上にはワイルドハント。

 どちらも強く手強い、とくにワイルドハントは先の戦争に参加しないことである種の勝ちを納めに行った切れ者。

 海の荒くれ者のくせして、だ。


 キャメロットに関しては言わずもがな、というより長々と語る方が面倒だ。

 少なくとも黒狼レベルのトッププレイヤーを10人以上は有している、その全員が参加参戦するのかと言う話はあるが然程関係ないだろう。


 そんな辟易とした話を考えていると、だ。

 不意にモルガンが立ち上がり、杖を構えた。


「来たか?」

「総員、戦闘準備を」

「頑張りなさい、応援はしてあげるわ」


 どうやら、ついに発見したらしい。

 空にあるフラッグ、そしてソレを守護するモンスターを。

パソコン組み立てるべきか、買うべきか……

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