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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
二章上編『前夜祭』

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Deviance World Online ストーリー6『閑話休題』

 閑話休題(それはそれとして)


「おい手前、随分と楽しんでたらしいじゃねぇか」

「まっさかぁ、割と絶望だぞ? アレ。マジで戦うって盤面に持ち込んだら負けるわ、アルトリウスって実はチーターなんじゃねぇの?」

「はっ、分かりきってた話をいけいけしゃぁしゃぁと。其れが出来るからプレイヤー最強を名乗ってるんだろうが、あの化け物は」

「仮にも、認め難くとも聖剣が認めた王たるモノです。ソレぐらい、やって貰わなくては困る」


 続々とクランメンバーが集まってくる、黒狼は適当な雑談を楽しみながら一旦ログアウトをし。

 流れ込んでくる記憶の濁流に、脳を焼かれる。


 吐き気がする、脳の血管が何本かイった気がした。

 気のせいであって欲しいと願う反面、恐らくは気のせいでは済まないと言うことも理解できる。

 『顔の無い人々』、その長期使用の反動がコレだ。

 悪態をつくように顔を顰めながら、再びログインした。


「大丈夫でしょうか、貴方に倒れられては困ります」

「問題ない、ただ時系列の混濁があるな」

「無茶やったわね、よくそんな事をして自意識の喪失を起こさないのか不思議だわ」

「ナニ、他人のような自分も自分のような他人も。その歩んだ人生が何であれ、結局は本気で読んだ小説と変わらねぇよ。俺の生き方は俺が決めてるモンじゃねぇし、だからと言って俺が決めてないわけでもない」


 そう言いながらも辛そうに眉を顰める黒狼を見て、ネロは彼の体に飛びついた。

 ラーラーと歌を歌う、まぁソレで癒える事もないが。

 ただ多少は楽になった、そんな気がすると思っておこう。


「しかし、案外できるモンだな。二重展開、てっきり出来ないもんだと思ってた」

「大抵の場合はできません、ただし心象などが関係するスキルはできる場合があります。恐らくは発動のキッカケが世界に依存していないからでしょう、自分がきっかけで発露するのですから自分がやれると思うのならば不可能ではない」

「馬鹿言え、普通は無理だ。今回は偶々運良く出来た、そう思っておくのが吉だろうよ」

「当たり前だ、と言うか何度もできないしやりたくない。とりあえずキャメロットに攻撃を仕掛けるのは今から一時間後、ソレでいいな?」


 全員が返事をする前に、黒狼は地面に座り込んだ。

 吐き気が渦巻いておりどうにもマトモに動ける様子じゃない、ゲームにおける限界が頭脳に蓄積された疲労というのは何度も述べたと思うが今の状態こそ正にソレ。

 途轍もない無気力感、あるいは腑が煮え繰り返る程の吐き気。

 不可能の代償、と言えば聞こえはいいが実態はそんなモノじゃない。


「つまりは予定通りと、構いません」

「うむ、余も大賛成じゃ!!」

「そうかい、それじゃモルガン。儂等を船まで連れてってくれ、僅かな時間だが直す必要がある」

「手伝うわ、村正」


 個々人が割と意気揚々としているのを見て辟易とする、冷笑じゃないが今はやめて欲しい。

 ガンガンと頭に響いて離れない、と言うか其方もソッチで随分な冒険をしており記憶の大半を引き継いで来やがった。

 時間換算百時間は超えるか、短時間で流し込まれる記憶の濁流は少し前に話題となった情報麻薬を思い出す。

 噂によればこのゲームのプレイヤーの中にも、そう言う代物を使う人間がいるらしい。

 黒狼は麻薬など使う気も意思もない、むしろ麻薬を嫌悪している程だが。

 けれどもこの感覚を手軽に味わえるのならば、使う理由に足り得ると思ってしまう。


「立たなさい、そのままでは腕が切れますよ」

「へいへい、ちょいと待て」

「空間座標固定、座標アンカーを再発見」

「待てって!?」


 何も、コレが終わりではない。

 寧ろ始まりだ、大事を始める前の些事にすぎない。

 けれどもコレは些細な事ではなく、一人の命運を決めた大業ではある。

 だからこそ黒狼は僅かばかり手を合わせて笑う、そうして叫んだ。


「待てって!? マジで!!」


* * *


 時間は少し巻き戻る、あるいはメタ的な発言をすれば凡そ20話ほど前か。

 気持ちのいい、ある種の清涼感すらある終わり方を壊すように強引に話を進めさせてもらおう。

 ソレは黒狼がモルガンら『混沌たる白亜』と、別れの言葉を言い合った直後に当たる。


「よ、お前ら」

「……え? 何でいるの?」

「俺が居て悪いかよ、なぁ?」

「手前、さっきの別れはどうした……?」


 超弩級魔導戦艦『ワルプルギス』、とある1匹の怪鳥の血肉を削り骨を埋めて作った空飛ぶ戦艦。

 その中央、あるいは意趣返しに使った円卓で黒狼は佇んでいた。

 ただただ、悪戯っ子のような笑みを浮かべて。


「いや、別にさっきの別れとか言うのも多分嘘じゃねぇ。細かい情報は共有出来てないから許して欲しいが、まぁ事情は説明するよ。俺、実は分裂できるんだわ」


 さて、分かりきった答え合わせと行こうか。

 黒狼は『顔の無い人々』の能力により、無数に増えることが出来る。

 コレは基本的に期間などを設けられていない、そして一切のクールタイムも存在しない。

 エクストラスキルという無法、そして『ニャルラトテップ』との秘匿の契約により結ばれた黒狼が有する最強のジョーカー。

 ソレこそが、『顔の無い人々』の真髄だ。


「分裂ならば私も出来ますが、ソレほどに距離を離せばパスが開けません。記憶や魔力の共有など不可能なはず、少なくとも人間が使う技術では……。まさか、そう言うことですか」

「手前、儂との戦いで見出したな?」

「うむ!! 汚いぞ!! 小狡いぞ!!」

「許せよ、レオトールの肉体をゲットした影響で全くレベルが上がらないんだからさ。超超効率レベリングしてんのにこの準備期間の一ヶ月で1レベしか上がらなかったのは目を見張ったぞ」


 黒狼は嘯く、とは言え辟易としているのは本心だ。

 今の黒狼は進化直後のステータスとほぼ大差ない、あの戦いから一月も経っているのにも関わらずだ。

 ソレは黒狼が一切のスキルとマトモなレベルを獲得できていないと言うことを示す、あるいはソレこそがこの能力を使う制限にして制約でもあると言えるだろう。


「ソレに記憶に関しても完璧に引き継ぐことはできてねぇ、そのまま流せば頭が焼き切れかねないから情報を取捨選択してたらするしな。そう言う事もあってか、この能力を発動中は公的な契約なんかもできない」


 契約を結んだのに記憶がないからと逃げることはできない、一見すれば些細な話だが神との契約である『対価魔術』や血盟との契約によって成立する『大規模魔術(特殊)』なども使えないと言うのは相当なデメリットだろう。

 コレらはDWO内でも有数のレイドボス格にも通用する大規模ダメージなのだ、ほぼ完全な強化手段がなくなる代わりに無限増殖出来るようになるか。

 あるいは、と出されたら大半のプレイヤーは相応に悩むのは間違いない。

 少なくとも安易に選択できるプレイヤーは少ないだろう、なにせこのゲームは一度入手したスキルや能力は如何なるデメリットが付属していようと消すことは出来ないのだから。


「能力的に不可能じゃなく、実質不可能なだけまだマシかもだけどな」

「貴方ねぇ、随分と無法を……」

「まぁ、良い様に考えりゃ頭数が一つ増えたって訳か」

「うむ!! 船頭多くすればハッピーである!!」


 というわけで、記憶の整理も兼ねて話を進めよう。

 つまりはサイドストーリーの開幕、というわけだ。

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