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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
二章上編『前夜祭』

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Deviance World Online エピソード6 『生まれた訳』

 死体が、あった。

 呼吸はなく、ブヨブヨの肉塊でありながら確かに。

 それは人の形をした、死体だった。


「やっぱり、か」


 インベントリから取り出し、手元で漸くポリゴン片に変貌する水晶の骨を見ながらそう呟く。

 無限に存在していた様に錯覚できた黒狼も最早存在しない、今そこにいるのはただ一人。

 世界で一人だけの、黒狼だ。


「お前のおかげだよ、本当に。コレで漸く、そして確かにレオトールを殺せた筈だ」


 この世界の絶対法則として、死体は消える。

 例え水晶の力で蝕まれていようが、死ねば消える筈だ。

 少なくとも砂塵のように崩れ去る、それがこの世界の道理。

 ヘラクレスがそうだったように、レオトールもそうである筈だった。

 けれども死ななかった、だからこうして彼を確実に殺す必要があったのだ。

 二度と、復活などさせないために。


「本当に有難う、コレで潜在的な最大の脅威は完全に消えた」


 常々思っていた、もしも面白みを捨てて自分がこの世界に向き合うのならば。

 その時に最大の敵となり得るのは、一体誰か。

 黒狼は不合理と嘲笑の権化だ、悪意と螺旋の象徴だ。

 だからこそ殺さなければならない、殺さなければならなかった。

 レオトール・リーコスが可能性として復活しうるのならば、必ず。


「さてと、お前に用がある奴が来たぞ」


 そうして黒狼は立ち上がると、徐々に水晶化しながらポリゴン片に変貌する彼女に駆け寄る女を見る。

 あるいはこう呼ぶべきかもしれないが、『ウィッチクラフト』たるロッソが来たと。


* * *


 これは、私の考えだ。

 けれども今の人類が持っている、共通的な哲学だろう。

 『もはや自分たちには一切の価値がない』、誰しもが一度は考え否定する哲学だ。


「愛する保証はない、って言ったわよね」


 かつてなぞった言葉を、罪を告解するように綴る。

 被造物が造物主を愛していても、造物主が愛する保証はないという言葉を。

 私は確かにそう言った、だからこうしてここで否定させてもらおう。

 きっと無意味だと分かっているけれども、そういわずには居られなかった。


「保証は無くとも、愛していたわ。貴方はこれ以上なく、私のために結果を出した」


 もっとも、無意味だ。

 その結果は決して私の考える予想を超えるモノではなく、計算の範疇でしかない。


 私たち人間には欠陥がある、ソレは進化出来ないという欠陥だ。

 西暦が始まってから既に3000年、この期間があり多種多様な生物は生存戦略の中で自らの生き方を変貌させたというのにも関わらず。

 私たち人類は一切の生物的進化をすることなく、この世界に根を張っている。


 どれほどに、不自然な話か。


 そのために私は研究し、この両手から零れ落ちるほどの命を誕生させ。

 そしてその殆どが生物の規格を超えて死んでいった、まるで神が嘲笑しているように思えたほどだ。

 何もかも上手く行ったのに、その最後の最後で彼らは目的を見失う。

 新たな雛形としての可能性を正しく開花させたのに、その最後でその殆どが自殺し或いは同類に殺された。

 退化し続ける世界なのに、けれども新しい価値を生み出すことなど許されなかった。


「何も無く死ぬ、ソレはある意味では成功なのよ」


 実験の最終目標から見れば十分失敗だ、けれども私にとっては間違いのない成功だ。

 ただ生きているという事の、なんと難しい事だろうか。

 そうする事で、私は直視を避けていたらしい。

 ニセモノの愛情で、偽りを向けていたらしい。


「貴方が死んで、私は初めて愛情を向けるわ」


 無価値ではあったし無意味だった、私がその人生を注ぎ込んだ研究にして究明は無意味に決まっていた。

 けれども生み出したものは無意味では無く、生み出されたものには価値があった。

 計算式も答えも間違いだらけの研究に、けれども生み出されたものは方向性を示した。


 全てが消え去った、彼女がこの世界に生きたと示すモノはこの世界にどれぐらいあるだろうか。

 或いはその一切がないのかもしれない、ただ現実に残る二度と動くことのない肉の塊が彼女の生きた証明かもしれない。

 笑えるほどに下らない話だ、とっても。


「よう、ロッソ」

「そうして本体で会うのは、本当に随分久しぶりに感じるわね」

「目元のメイクが崩れてるぜ?」

「生憎と、女のファッションは崩れて初めて完成するのよ」


 不躾な質問だ、と言い返す気にもなれない。

 私はもはや無価値な人間だ、コレから先に希望を見出せないくせに過去の産物に向き合うことすらやろうとできない。

 ただ現実から逃げるように、この世界を究明するという目標を掲げることしかやらず。

 自分の怒りと不甲斐なさを、その怒りをただ感情の赴くままに世界に打つけるだけの存在。


「ねぇ、意味はあったのかしらね」

「ねぇよ、あるわけが無い」

「じゃあ、彼女は何のために戦ったと思う?」

「価値を示すためだろ、分かり切った事を言うなよバカ」


 どうやら、黒狼は役に立たないらしい。

 はぁとため息を吐いて私は立ち上がる、少なくとも彼と契約を結んでいる以上は立ち上がる義務が必要があった。

 先に進む、進み続ける。

 期待の出来ない可能性を、芽生える事がない苗芽を育て。

 枯れさせる、ソレが私のできることだ。


「ま、そう悲観するなよ。悪い事が積み重なった時に悲観しても、悪い事結果しか見えてこねぇぞ」

「随分と身勝手な事を言えるわね、一度黙ってくれるかしら?」

「ひっでぇ、というか俺たちにとっては寧ろ大成功。レオトールが復活する可能性を限りなく下げれて、アイツは実質殺せてキャメロットに攻め入る最大条件が揃ったって言うのに何でそこまで気が沈んでるんだよ」


 次の瞬間、彼は私の髪を掴んで持ち上げた。

 無理矢理顔を合わせてくる、私と彼の目と目が合う。

 嫌がらせのような笑みを浮かべて、彼は告げた。


「楽しもうぜ? どうせ、こんなモンは人生の無駄でしかねぇんだからよ」

「生憎と、私は貴方ほどバカじゃないから」

「そうやって気取って、また失敗するのか?」


 仕方ない、私はそう言うように瞬きをし。

 彼の頬を思いっきり引っ叩いた、目を白黒させる彼を見て私はクスリと笑い。

 彼の睾丸辺りを蹴り上げながら、改めて文句を言う。


「女の髪を掴むなら、ソレの三つや四つ失う覚悟で掴みなさい」

「悪いな、俺のやつは二つしかないんだよッ!!」


 呆れたように近づく彼らが見えた、沈んだ気持ちも浮き上がってくる。

 どうやらウジウジと失敗を見続ける余裕など、私にはないらしい。



 さようなら、私のモルモット。

 次はもっと有意義に産んであげるから、だからもっともっと死んでね。

 私のために、来るかもわからない成功のために。

パソコンが死亡したため更新頻度が上がります

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