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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
二章上編『前夜祭』

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Deviance World Online エピソード6 『思考の迷宮』

 神とは、完全な生命体だ。

 神という存在を殺す方法はなく、神という存在を倒す手段はない。

 ただし何事にも例外はある、世界とは例外だらけで構築されている。


「幸運だな」


 呟きの中で言葉を嚙み締めた、確かに黒狼は幸運だ。

 目の前の存在は神と同じ魂の質量を持っており、そして神の肉体を得ようとしている。

 そう神の肉体を、得ようとしているのだ。

 まだ彼女は人間であり、人間の肉体しか持ち得ていない。


 殺す隙は、そこに見出せる。


 『顔の無い人々』の効果により、黒狼は魔力が尽きるその瞬間まで無数に呼び出せる。

 だから問題となるのは戦力不足ではない、もっと根本的に彼女が得た超越の概念そのものだ。

 神には等しく概念を擁する、ましゅまろは超越の概念により超越の神になっている。

 その超越を、黒狼は如何なる手段で乗り越えるのか。


「何も、悩む必要はないだろ?」


 明瞭な答えは用意していない、だが殺す手段は手元にある。

 HPを一瞬で削り取ればきっと死ぬ、その必殺の一撃は黒狼は持っていた。

 式装『パイルバンカー』、いくつかの前提条件が必須とはいえその攻撃力は驚異の5桁に上る。

 実用的な範囲に収めても4桁にはギリギリ届く超火力、ほぼ無条件で高ダメージを出せる『始まりの黒き太陽』には大きく利便性の面で劣るが展開速度はこちらが圧倒的だ。

 『騎士王』アルトリウスには生来の直感と豪運、そしてエクスカリバーという式装の上位互換そのものと言える準古代兵器を持ち出されたからこそ無意味に終わったが普通はそんなので防ぎきれるわけがない。

 少なくとも理性を失った怪物、知性なき蠢く屍。

 神の成り損ない、啓蒙を宿した肉塊を相手に防ぐ手段などないだろう。


「魔力装填、開始」


 ガゴン、黒狼の腕にパイルバンカーが装備された。

 魔力が注ぎ込まれている、発動できるまでに要する時間は決して少なくない。

 緊張はある、緊張していないほうがおかしい。

 ただその緊張は高揚とも言い換えられる、自分の可能性に期待しているとも言える。

 だから、負けるわけにもいかない。


 触手か羽か、いずれにせよ肉塊が蠢き攻撃を放つ。

 それを皮切りにその塊は、確かな形を形成し始めた。

 例えるならばその姿は、聖書に出てくる天使か。


「お前が俺を超越するというのならば、だ。俺はお前の存在を、地に落とそう」


 お前という存在を、地を歩くアリにしよう。

 神のままに、踏み潰されるほどに矮小なモノへと。


 一瞬の空白、黒狼の頭蓋に警報が鳴り響く。

 ようやく本調子に戻った、あるいはレオトールの肉体が黒狼に十分馴染んだというべきか。

 それとも、いいや。

 考察など不要だ、この世界に真っ当な理屈など期待したことはない。

 屁理屈が蔓延り、黒狼という存在が語る欺瞞もまた真理になる。

 そんな馬鹿馬鹿しさが、けれども確かに現実という厚みを持って存在していれば良いのだ。


 体を曲げる、直後頭の上を水晶の羽が通過した。

 剣を構え続くレーザーを反射させる、何が来るのかを正確に判断し回避するのは難しいが持ち前の反射神経を使えばどうにもならないというわけでもない。

 死角から迫る羽根により吹き飛ばされた頭で、黒狼は思考する。


「俺がパイルを持つ、とりあえずは俺を守れッ!!」

「「「「ヤだね!!」」」」


 黒狼の声に、黒狼が答えた。

 『顔の無い人々』、その全てに黒狼という存在を投影している現状。

 黒狼という存在はその全てであり、またその全てを殺さない限りは黒狼は死なない。

 民衆の悪意、形なき意思の象徴。

 黒狼とは即ち、事実すらも捻じ曲げる大衆そのもの。

 一人の意見は肯定されず、多数の意見を絶対的正解とする。

 誰かが上に立つことはなく、絶対的自己を持つ其々がそれ以外を見下す歪な在り方は。


「けど、そっちの方が面白いぞ!!」

「お前に取られてたまるかよw」「俺が楽しむんだが?」「俺が楽しまなきゃ意味ねぇだろうが」「俺が、倒してしまっても構わんのだろう?」「オイオイ、そりゃ流石にやりませんねぇ」「なあなあ、ヒュドラの毒とかで殺せねぇのかな?」「知らん、やってみようぜ」「えぇ、それだったら太陽だろ。常識的に、考えて」「マジレス乙、死んでどうぞ」


 つまりは、無限に増殖する烏合の衆というわけだ。

 全員が持つ武装もバラバラであり、何なら大半が武器を持たずにましゅまろが放った水晶の羽を握っている。

 そしてそんな彼らが片っ端から突撃し、神回避を見せながら死ぬ。

 誰も次の事など考えない、刹那的快楽主義者であり自殺願望者とでも言えるような動きをしていく。

 だが、それこそが幸運だったのかもしれない。


(口先だけで何を言っても俺だ、最終的に『俺』が考える内容に収束する。つまりは、より合理的な方向へ。寄せ集めには統率が必要だが、俺たちには統率こそが邪魔になる)


 より無意識的な、けれども存在する絶対的自我こそが答えとなる。

 黒狼たちは烏合ではあるものの、けれども馬鹿でもなければ無能でも無い。

 其々が考えた絶対的な勝ち筋を狙いながら、その上で個々人ではなく意識下に存在する『黒狼』が出した最適解を抽出する。

 つまりは、パイルを当てに行くために誰が言わずとも死兵となるのだ。


「ッ、衝撃波……!!」

「恐らくは光系統の魔法か、魔術か!?」

「ダークシールド、いや。魔力が勿体無い、お前俺の壁になれ」

「じゃ、お前が俺の壁になれ!!」


 ドミノ倒しになりながらも、確かに全員生き残っている。

 攻撃力は然程だったらしい、故に怖いのはその追撃。

 続けて放たれる触手の薙ぎ払いに、対応できずに死んでいく。


 動け、ここからもっと面白く。

 そう言わんばかりに地面に倒れていく自分を踏み付けながら、先に進む。

 これ以上の快感が、この世界にあるモノだろうか。


「だが、快楽だけでは勝てないな」

「俺がやる、だから勝てよ」

「「「誰に言ってんだよ、バカが」」」


 次の瞬間、黒狼の一人が()()()()()()()()()

 黒き剣を持ち、黒き鎧に身を固めた騎士へと変貌している。

 あるいはこう言うべきかもしれない、黒潰しの騎士に変貌していると。


 黒狼、ひいては現状の『顔の無い人々』を展開するのに欠かせないスキルとして『顔の無い人間』と言うスキルがある。

 このスキルの効果は簡単に言えば、世界に影響を与える自己暗示だ。

 言葉ではなく魂で、自分を肯定する全霊を用いて自分自身をナニカと認識する事で世界がソレをそう認識する。

 世界は純粋ではあるが疑り深い、けれども例え嘘でもそう認識したのならば容易に答えを変えられない。


「……死ぬと良い、神の紛い物よ」


 次の瞬間、黒い純黒の魔術が炸裂した。

 周囲の光をもねじ曲げながら、世界の事象すらも否定しながら。


 その武器の名は、その男の名は。

 その騎士の名はペルカルド、月湖の騎士ペルカルド。

 かつての黒狼の最大の脅威であり、そして今は。


 言葉なき骸の、ただ一つに過ぎない。

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