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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
二章上編『前夜祭』

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Deviance World Online エピソード6 『神殺し』

 攻撃は至極苛烈であり、全てが即死と喩えても間違いではない。

 黒狼は殺され続ける自分を見ながら、削り続ける自分のMPを再確認し。

 目を向け、憐憫を向けた。


「水晶大陸、恐ろしい力だよな。その影響はもうただのスキルの領域を超えている、一介のスキルがやっていい出力規模じゃねぇ」


 剣を構え、弾く。

 攻撃を逸らせば、そのままさらに一歩踏み出し掌底を叩き込んだ。

 地面を滑る様に迫り、ドロップキックを見舞いながら後ろに飛び体勢を立て直す。

 無造作に薙ぎ払われる一撃で五人の黒狼が死んだ、与えたダメージは微々たるものでしかない。

 やってられないと言わんばかりに息を吐く、けれども顔からは笑顔が溢れ出る。

 何の意味も意義も持ち得ない、ただ形だけの笑みが。


「けど、水晶大陸だけじゃそんな風にはならない。なるわけが無い、だから答えはただ一つだ」


 攻撃、そして当たった箇所から無数の水晶の杭が生えた。

 また一人、黒狼が死んだ。

 後何回死ねるか、後何回だけは死を赦されるか。

 一瞬考え、辞める。


「『超越思考加速(マルティネス)』、やっぱりヤバいスキルだったな」


 目の前の、異形を見た。

 最早、人間の形など保っていない。

 そこにいるのは肉の木偶人形、暴れるだけの知恵なき生命。

 或いはただこれが正解だろう、ましゅまろの魂の形そのものを具現化した存在という答えが。


「三倍速で時間が進むゲーム内で、十倍速で動く。つまりは30倍だ、それだけの時間加速。少なくともサーバーとのやり取りの間で齟齬が生じ、絶対エラーを起こす」


 とある科学者が述べた、ゲームなどで用いられる時間加速の最大値は安全面を無視したとしても10倍が限界だと。

 それ以上の速さは実行したとしても肉体と頭脳の速度乖離により、上手く機能しなくなる。

 40フレームで処理する情報量が、1フレームで与えられる。

 如何にこの世界の技術が優秀だったとしても、その情報処理は人間の肉体が。

 そして何より電気信号の反応が追いつかない、絶対的な物理的な壁があるのだ。


「俺が立てた予想は三つ、それでも無理に強行しているのか。あるいはお前のために世界が遅くなっているのか、そして最後。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、正解は最後だったらしい」


 彼女の扱いが、プレイヤーでは無くN()P()C()となっているのを見て確信した。

 そして、その答えから『超越思考加速(マルティネス)』の効果を大体看破できたと言うのも間違いない。


 『超越思考加速(マルティネス)』、その効果はゲーム内に自分の存在をデータ化しコピーした上でコピーした自分がスキル発動中は行動し。

 そしてスキルが終われば、コピーしたデータで元人格を上書きする。

 それこそが、『超越思考加速(マルティネス)』の隠されたスキル効果だ。


「けど、そんな化け物になってる以上はマトモにスキルが動いているわけじゃない。少なくとも、そのスキルはぶっ壊れてる」


 何故壊れたか、その答えは水晶大陸だ。

 このゲーム内に存在する全ては水晶大陸の影響から逃れることは出来ない、ゲーム内に存在する限り水晶大陸はデータであろうと物質であろうと全て蝕み捕食する。

 彼女は水晶大陸を使えるのではない、或いはこの世界の全ての存在は水晶大陸を使うことができるわけが無い。

 ただ捕食されているのを、利用しているだけに過ぎないのだ。


「ここから予想になるが、お前は水晶大陸に蝕まれコピーされたデータが水晶化したんじゃねぇか? その結果として水晶大陸がお前に逆流し膨大な経験値が流入。その過程でレオトールの技術とかも手に入れ、一時的には強くなれた」


 たが、その裏では確かに水晶に変貌していた。

 心は凍て付き、目的は凍結し志は蝕まれ。

 彼女と言う存在は、かつて在りし日のレオトールと。

 人の身体を持ち人の姿をした、化け物へと変貌していた。

 その結末として、極短期間で魂の情報が肥大化し肉体に再度コピーすることが事実上不可能になっていたのだ。


 それだけならばまだ良かった、ただそれだけならばまだ幸運だった。

 おそらく無理矢理にログアウトをすれば、ゲーム体験の記憶は失われるが魂のデータがバグった状態になり続けているのはきっと解消されるだろう。

 だから本当に不幸なのは、彼女が亜人に類する種族を選んだことに他ならない。

 このバグの全てのキッカケとなるのは、『亜神眼』だ。


 本来、本来ならばプレイヤーの精神はゲーム側では無く端末側で保護されている。

 頭脳の中にあるデータをゲーム内にロードすることは不可能では無いが、再び人体にアップロードすることは不可能だ。

 何故ならばシステムとしてそのような挙動にロックがかかる様、作られている。

 だからこそ、彼女が亜人を選択したこそが最大の悲劇と言えるだろう。


「亜神眼が、何故エクストラスキルなのか。その答えは、より上位の存在と交信するスキルだからだ」


 所謂、神と。

 神と交信する、ただそれだけのスキル。

 それが故に、規格外なのだ。


 神と人はその全てが異なる、だがその中でも最も異なる部分は情報量だ。

 発する言葉の全ては短く圧縮され、その形容は其々の神が司る概念の形状を形成する。

 大神ゼウスならば万能なる雷霆に、悪意たるアンラ・マンユならば悪意ありし純黒へと。

 この亜神眼は神の言葉を容赦なく使用者に叩きつける、神の意思を形ある言葉として視認する。

 それが故にこのスキルを十全な形で使用するのならばシステムから身体保護機能を切っておかなければならず、だからこんな惨劇が起きる。


「神と人の違いは沢山あるが、『超越思考加速』を得て超越の概念を手にし水晶大陸によって肥大化した魂によりNPCとしてこの世界に確固たる存在となった。そして、今のお前がそこまでバグってるのは亜神眼がお前を神として捉えてるからじゃ無いか?」


 答え合わせはない、少なくとも全てを知ってるのは運営を除き居ないだろう。

 けれども答えはある、彼女は確かに神に至っているという事実が。

 神の言葉を人の身に卸すスキル、ソレが彼女を神と認識している時点で答えは見え透いていた。

 亜神と言えど神は神だ、神の魂には神の肉体が必要不可欠だろう。

 そして世界が彼女を神と肯定したのならば、彼女には神の肉体が必要になる。


 黒狼は少しだけ顔を隠し、そのまま改めて剣を握りなおした。

 水晶の剣を、水晶で形作られた毀れること無き絶世剣を。

 歓喜を叫ぶように、剣を構えた。


「まぁ、何でもいい。ただ俺が言える言葉は、唯一つ」


 魔力が練りあがっていた、それ以上に戦う理由が存在していて。

 もはや剣を振るうに躊躇う理由など、きっと存在していなかった。


 空を見上げれば、星が瞬いている。

 けれどもソレは曇天の内に包まれており、星明りは黒狼たちを照らさない。

 ソレは月光の光も、同じくだ。


「些かばかり少し早いが神殺し、承った」


 これは何かを示す戦いでもなければ、何かを知らしめる戦いでもない。

 ただコレは濯ぐ戦いだ、彼女の過ちを彼女の間違いを。

 空を飛べなかった小鳥に、引導を渡すための戦いだ。

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