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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
二章上編『前夜祭』

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Deviance World Online エピソード6 『展開』

 周囲に、大地が水晶で汚染され。

 また等しく黒狼が溢れかえり、ふざけた空気を振りまき続ける。

 だがこの盤面で振るわれる力は一握りの上位プレイヤーでしか扱えない、確かに最上たる力だ。


 黒狼の攻撃、黒狼の魔法を片っ端から凍結させていく。

 水晶に変換し地形とする、ソレは絶対的な攻撃であり災禍。

 対処法なぞ存在しない、この世界の技術では絶対に対抗しえない最悪の攻撃にして防御。

 ソレを一瞥し、黒狼たちはそれでもなお一切の動きを止めずに進む。


「水晶大陸、恐ろしい力だよ。その力があれば世界征服なんて夢じゃねぇ、頑張ればその先すらも行けるかもしれねぇ。全く恐ろしい話だよ、その力は力というには強大に過ぎる」


 黒狼が一人、逆立ちしながら水晶に変貌した。

 また黒狼が一人、ロボットダンスをしながら水晶に返還される。

 そうして黒狼が一人、剣を胸にはやしながら殺され。

 黒狼がまた一人、笑いながら死んでいく。


 リソースは有限であり、限界は存在する。

 無為に黒狼と言う命のストックを減らせば、最終的にじり貧になるのは黒狼に他ならない。

 だが無作為に圧倒的な攻撃を行ったとしても、其れもまた無意味だ。

 MPという限定的なリソースがある以上は、その圧倒的な魔力による攻撃を行えばガス欠になるのが早まる。

 その一撃で勝てればいいが、ソレはやはり机上の空論だろうか。

 すくなくとも、黒狼は自分よりも速い彼女を相手にして確実に必殺技を当てられるとは思えなかった。


 結局はジリ貧、最終的にこのままでは黒狼が負ける。

 であるのにもかかわらず、そうであるはずなのにも関わらず。


「何故、まだ笑ってられる!!」

「何故って、なんでだろうな?」


 不気味にも、黒狼は笑っていた。

 無尽蔵に思えてくる、地面からもやしのように生えては死んでいく黒狼に恐怖を抱かないわけがない。

 その全員が同じような笑みを張り付け、ふざけた言動を操りおかしな格好で死んでいく。

 無為に無意味に無駄に無造作に屍の山を積み上げ、ただ一回の勝利のために無尽の屍を許容して。


「少なくとも、そうやって俺に勝つために醜く変貌しているお前よりかは。きっと、理解しやすいと思うよ」


 その言葉を聞いたときに、ましゅまろは水晶に映った自分が見えた。

 そこにあった自分は、顔の半分が欠け水晶となり力に追いつけず血と肉をあらわにしながら再生する体があり。

 そして、虚ろにも何も映さない自分の目が合った。


* * *


 水晶の中心、剣と水晶の凍てついた玉座。

 そこに座る、一人の傭兵。

 彼は確かに目を開きながら、ましゅまろに一つ問いかけていた。


「戦いとは経験であり、人生とは苦難の連続だ。貴様にはいささかばかり、その双方が不足しているように見える。先達より助言をするのならば、やはり辞めておくべきだな」


 一切の身じろぎがない、呼吸すらも。

 認識が理解に追いつかず、この世界の正体すらも知識の及ばぬ自分では理解することもできない。

 けれども分かったことがある、ソレは彼が死んでいるという事だ。


「何者、ですか」


 必然の質問であり、必定の問いかけだった。

 それ以上の意味も理由も含まれない、ただそれだけの言葉であり。

 傭兵はただただ無表情に、その問いかけに一言を返す。


「ただ一言でいうのならば敗北者か、貴様風にいうのならば翼を持っていたにも関わらず海に自ら落ちた愚か者」


 傭兵は微動だにしない、本当にその言葉がこの男から発されているのかすらわからない。

 ただ確かにこの男以外の存在はましゅまろを除き存在せず、だからこそこの言葉はこの傭兵から発されていることが理解できて。

 ふとどうしても、どうしようもない空腹感が全身を襲う。


「なんででしょうか、これは……」

「もはや手遅れ、か。当然の話だ、リーコス一族以外の人間がその力を振るえば遠からず永久の飢餓欲求に苛まれる」

「何が、手遅れなのですか?」

「貴様はもはや、私と同じ死人であるというだけの話だ」


 淡々と語られた言葉、一瞬だけ言葉が詰まりその意味を捉え直そうとする。

 けれども分かりきっていた、その言葉にそれ以上の捉え方がないという事は。

 感覚ではソレが真実だと理解していても、けれども頭では理解できずその真意を測ることもできない。


「さて、どうする? 消えゆくまでの一時をただ待つか。無意味さを悟りながら、あの男に挑むのか」

「挑み超えます、私は彼を。だから力をください、彼を超えられる力を」

「……契約か、盟約か。あるいは、脅迫か」


 傭兵は静かに呟き、そして水晶の剣を手に持った。

 酷く見覚えがある様な、水晶の剣だ。


 次の瞬間、その剣がましゅまろの胸に突き刺さっていた。

 全身が熱くなる感覚があり、何かが流れ入る錯覚が確かにあって。

 全身を震わせるのは熱だった、鉛の様な体躯を突き動かす様な。


「挑むと言うのだろう? ならば渡してやろう、最早私には無用の長物だ。持っていくと良い、その程度でアレに勝てるほど易しくはないだろうが。それでも、一助にはなる」


 地面に倒れ伏しながら、流れ来る経験が脳を焼き。

 自分がより高みに至っていると言う感覚が確かにあって、全身の血流が濁流の様に暴れ回った。

 けれども、足りないのだ。

 足りない全然全く足りない、その程度では超越することなど不可能だ。

 あの憎たらしくも強い男を、あの憎たらしくも己が前に立ちはだかる男を。

 あの、黒狼を倒すに至るには依然足りないのがよく分かっている。


「だから……、寄越せ」

「寄越せ、か。随分と、態度が大きいな?」

寄越(くだ)さい、貴方の全てをッ!! 貴方の力があれば私はあの男を殺せる!! 貴方の全てがあればッ!!」

「そうかもしれんな、それで何になる? 私の全てを与えて勝てど。彼風に言わせるのならば、勝利条件を違えているが故に勝つことなどないだろう」


 力で勝っても、それがましゅまろの目的かと言われればそうではなかった筈だ。

 技で勝ってもそれがましゅまろの初心ではなかった筈だ、それは確かに。


 まぁ、最早そんなものを理解できる猶予など彼女にありはしないのだが。


 それは執念、妄執であり願望。

 勝ちたいという意思だけが、もはや彼女を人間にしていると言い換えても良いかもしれない。

 少なくともそれ程に彼女は壊れていた、壊れた心で叶わぬ理想すらも捨て去って。

 只々、殺すという意思だけが彼女を人間にしていた。


「私は、全てを超越する」

「その先が、地獄であっt「はい」

「そうか」


 次の瞬間、ましゅまろとレオトールの視点が完全に入れ替わっていた。

 ましゅまろは水晶で模られた椅子に座り、男は冷たく彼女を見ていて。

 ましゅまろは確かに理解した、今この瞬間だけは目の前の男の経験を得ていると。

 彼の地獄の様な戦いを、確かにこの体躯にダウンロードしたと。


「私は、貴様が正しく死ねることを祈っているとも」

「……質問、いいですか?」

「なんだ?」


 短い返答、水晶が吹雪くことで視界は徐々に白く染まっており。

 最早、互いの顔すらも認識できない。

 それでもやはりと言うべきか、その声だけは確かに耳に届いていた。


「貴方ほど強い人間が、なぜ死んだのですか?」


 答えは無く、次の瞬間には目覚め。

 ましゅまろは立ち上がって、剣を持つ。

 全身が狂った様に熱を持っており、意思だけが体を構築している様で。

 それは戦神にも益荒雄にも似た何か、あるいは彼の傭兵から得た経験そのものだろうか。

 まぁ、最早きっと何でも良い。

 殺せれば、きっと何でも良い。


 ふと、そんな対話を思い出した、

 黒狼と戦う前に見た夢の様な対話だ、けれどもきっとその対話は夢でなかったのだろう。

 だからこうして、戦える。

 故にこうして、絶世に見えるのだから。


「私は、それでも貴方を超越する」

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