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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
二章上編『前夜祭』

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Deviance World Online エピソード6 『黒狼』

 今までの黒狼は、黒狼ではない。

 それこそが結論であり、或いは正解だ。


 『顔の無い人間』、黒狼の心象世界をベースに形成されたスキルであり彼の自己存在の証明。

 その能力にして効果は、世界に対する絶対的欺瞞。

 原理を説明すれば余白が足りないので置き得る結果だけを述べれば、黒狼は他人を自分に見せることが可能だ。

 あるいは自分を、他人に。


「こうして自分が死んでる姿を見るのは気持ちがいいモンではないな、そうは思わないか?」

「なんで二人いるんですか……!! VRCの技術的に同一人物が同時に存在するのは不可能なはず」

「かもな、けど現に俺は二人いる。この事実以上に重要な話はあるか? それとも、ソレを塗り替えるほどの主張があるのか」

「……」


 言い返せない、屁理屈に返す理屈など。

 ただ構え殺意を剥き出しにする、それだけがましゅまろに許された唯一の行いだった。


 息を呑む、そしてしばしの空白が生まれた。

 黒狼も静かに死体から剣を拾うだけ、ソレ以外の行動はしない。

 彼もまた、ましゅまろを警戒している。


「話し合いは嫌いか?」

「いえ、けど貴方とは喋りたく無い」

「なんでだよ」

「欺瞞だらけの言葉なのに、時に的を射ているから」


 苦笑い共に、首を振る。

 否定できない、確かに自分にはそんな嫌いがあるだろう。


 会話なんてそんなものではある、時に真実が嘘となり大衆の意識によりまた嘘となってゆく。

 黒狼とて嘘を吐こうとして嘘を言うわけでは無い、ただ自分の主観的意見や主張をさも事実かのように語るだけだ。

 故にこそそう感じるのだろう、欺瞞だらけなのに真実を捉えていると。


「まぁ、喋りたくなくても相手にはなってもらうけどな」

「嫌だ、と言えば?」

「否が応でも付き合ってもらうさ、拒否権はない。そも対話無しではこの、俺とお前の戦いの勝利条件が満たされない」


 戦いとは勝利条件の達成までの過程だ、と黒狼は考えている。

 自分が勝つ条件、或いは負ける条件を満たすまでの過程。

 勝つ負けるの二極論で戦いは語れない、自分の勝利と同時に相手も勝利を得ると言うことも時にはあるだろう。

 だからこそ自分の中での勝利を限定化し、結論を極論とすることで安易な回答を導き易くする。

 戦いとは、その安易な回答を出すまでの過程に過ぎないのだ。


「『(グラム)』」


 迫るエフェクトを回避する、喉に迫った一撃は黒狼を追い詰める致命の刃に他ならない。

 殺意は高く確実に殺すと言う意志が有る、思わず黒狼の頬から冷や汗が垂れた。

 負けると言うより死ぬ、死ぬと言うよりヤバい。

 実際のところどうなのかは把握できていないが、ましゅまろは確かにレオトールの技を継承している。

 かつての最強の、一撃を。


「前衛は任せたぜ、俺」

「後衛はやるよ、だから死ぬなよ?」


 一見すれば一人芝居に他ならないその言葉、けれども道化の芝居とあざ笑うには少しばかり悪辣な動きを織り交ぜてくる。

 黒狼、あるいはアンノウンと呼ぶべき彼は一気にましゅまろに迫ればこぶしを突き出す。

 スキル『八極拳』を併用し放つ攻撃、一撃の重さはさほどではないがけれども無視すればダメージとともに吹き飛ばされてしまうだろうか。

 予想、あるいは推測の範疇を大きく出るものではないが回避しないという選択肢はましゅまろにはない。


「『影なる闇、暗き槍【影縫槍(シャドウランス)】』」


 だが黒狼を無視もできない、黒狼の攻撃の影からくる黒狼の攻撃。

 頭が悪くなりそうな文章ではあるが、攻撃自体は熾烈かつ厄介で鋭い。


 ましゅまろは息を鋭く吐き、改めて剣を強く握った。

 黒狼(アンノウン)も同じく武器を構え、確かにその動きに対応してくる。


 スキルがステータスが変質し、もはやましゅまろはトッププレイヤーの領域を超え始めているはずだ。

 生半可なNPCすらをも圧倒できるかもしれない数値の補正、技や技巧に関してもこうして競り合うごとにより鋭く鍛えられ直されている。

 おそらくは誰かの経験を吸収しているのか、捕食と等しい行為により経験が成熟していっていた。

 恐らくは遠くない未來、人類の臨界に至れるほどの技を放てるようになってしまうだろう。

 そうであるはずなのにも関わらず、黒狼は確かに対応している。


「舐めんなよ、一体どれぐらいの化物と戦ったと思ってるんだ」

「知りませんし興味もありません、私はあなたを殺して超えます」

「『理を綴る、影は即ち剣となろう【舞い踊る黒剣】』」


 迫る攻撃、それはすべての行動を刈る牽制。

 何が厄介かと言えば全く単純に黒狼の攻撃が抑々総て真っ黒であるという事だ、視覚的に最悪レベルの妨害がされており攻撃と攻撃の影から唐突に襲い掛かってくる。

 だというのに前衛の彼はましゅまろの攻撃を丁寧に裁いてくる、単純に言えば確実に攻撃を裁く前衛の背後から的確に攻撃を行う後衛が追撃を仕掛けてきているのだ。

 ましゅまろは眉間に皺を寄せ、一気に地面を蹴り飛び上がった。


「『飛翔』『突撃』」

「『パリィ』、って弾ききれないか。なら、『シールドバッシュ』」


 回転しながら剣を胸に構えて突進する彼女の動きを見て、黒狼はパリィを使うが弾ききれない。

 ガガガという音とともに弾ききれなかった攻撃がHPを削ってくる、そのまま受け続けるのは得策ではない。

 判断は早かった、インベントリから一瞬の躊躇いとともに盾を出せばスキルによって殴りつけた。

 空中にいることで受け止めきれなかった彼女はよろけ、黒狼はそのまま踵落としをたたきつけ。

 地面に半ば埋まりかけているましゅまろに、追撃と言わんばかりに拳を差し出して。


「『アヴェンジ』」

「『八ky、やっべ。『転身』」


 即座に回避スキルを切る、もしもあそこでまともに攻撃をしていたら手痛い反撃を食らっていた。

 数歩、ステップを踏みながら後ろに下がって。

 嫌な予感、こうして後ろに後退させるのが目的なのか。

 脳裏によぎる一瞬の迷い、だがそれこそが黒狼を救う。


「『縮地』」

「ッ、ぶねェ!! 殺す気かよ!!」

「『雷は雷鳴、轟は轟音。【サンダー・ロアー】』」


 回避を完全にこなせなかった黒狼をサポートするために、後衛の黒狼が無理矢理剥がす。

 戦いとはターンだ、攻めるターンがあれば受けるターンがある。

 だからこそ一方的に有利を取りたいのならば、やはりそのターンを打ち切らせればいい。

 黒狼の役割は、自分のターンの押し付けだ。


 とはいえ、流石に人手が足りない。

 黒狼の本懐はサポートにして遊撃、火力を出すアタッカーでありデバフを撒く付与士であり攻撃力を底上げするエンチャンターであり防御を担うタンクであり。

 つまりは考えうる全ての状況を万能的に熟す器用貧乏、ソレこそが黒狼のビルド。

 本来ならば致命的な弱点になり得るソレは、けれども彼にだけは弱点になり得ない。


「状況は理解してるよな? ()()()

「まぁ、火力は任せた」

「OK、オーケー。んじゃ、俺は守護ろうかな?」

「魔力消費にだけは気をつけろよ、ましゅまろは確かに強いぞ」


 影から人が増える、無尽蔵に思えるほど。

 黒狼という存在する人間が、無辜なる顔の無い怪物が。

 ソレが、黒狼もいよいよ本気を出したことの証明でもあった。


「ソレが、貴方の本気ですか」

「違い無い、これが俺の本気だよ」

「なら私は貴方の語る本気を超えるまで、参ります」

「……来い、相手になってやる」


 息は短く、そして鋭く。

 告げる言葉は端的に、けれども万感の意思を込めて。

 悠久万感の殺意を込めて、ただこの一時のみばかりの力を払おう。

 ソレで、お前が殺せるのならば。


「蝕め、『水晶大陸』」


 世界に再び絶望が舞い降りる、世界は再び絶望する。

 そして確かに、そこには水晶の力が堅く存在していた。


「ああ、本気で返してやる。だから精々道化のように踊れ、『環境汚染・深淵』」


 ただ一時ばかりの絶世を、ここに。

 深淵を、ただ絶望たる深淵を共に。

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