Deviance World Online エピソード6 『騎士王の戦い』
最終日は二連戦だ、もう一方の戦いを眺めつつ黒狼は武装を改めて整える。
騎士王アルトリウス、準古代兵器たるエクスカリバーを有する彼と戦い競り合うのは生半可な覚悟では無理だ。
辟易としたようなため息とともに、剣を握る。
「遠いねぇ、最強ってのは」
いよいよ戦いが始まる、緊張は解れる事がない。
ただ唾を飲み込み息を吐く、勝ち目は幾らほどあるのだろうかと。
* * *
最初に声を上げたのはアルトリウスだった、冷たい視線を向けながらもやぁと声を掛ける。
黒狼は少し視線を外しながらも、睨むように目を細めソレを答えとした。
つまりは、敵意。
「友達、ってか? 随分と距離が近いな。頭が高いぞ、『騎士王』アルトリウス」
「驚いた、そんなふうに言葉をかけるのは君が初めてだよ。あと、君のその言葉だけどそっくりそのまま返そうか。君も、随分と頭が高いぞ」
「その余裕が何処まで持つか見ものだな、ぇえ? 結局お前は聖剣無しじゃ少し強い程度の最強だ」
「ああ、確かにそうだね。けれど僕の手には、確かに聖剣があるぞ? 余り舐め腐らないで欲しい」
口上は上場、戦う意思が迸っている。
互いに互いを対等な、あるいはそれ以上の敵と見做し白黒をつけようという意思が見て取れるだろう。
ソレもそのはずだ、この二人は。
この二人がそれぞれ率いるクランは宣戦布告をされ、或いは行い膠着ではありながら戦争中である。
これはその戦いの先駆けであり、また同じく代理戦でもあるのだ。
否が応でも、殺意が沸る。
「笑わせてくれる、レオトール相手にボロ負けだったくせによ」
「ああ、けど君には負けないさ」
開始のカウントダウンが始まった、こう着状態が生まれる。
10、9、8、7、6、5、4……。
時を刻む音はなく、ただ静けさだけが二人を包む。
緊張の糸は解れることなく、静かに緊迫している。
だからこそ、カウントダウンが終わった直後の攻撃は熾烈極まりない。
「『エクスカリバー』」
「『刻蝕禍灼』」
騎士王、アルトリウスの一撃は光を束ねたが如き一撃だ。
例えるのならば砲撃、全てを破壊し突き進むような破壊の権化。
けれども絶対的正義を象徴する様な暖かさがあり、絶対的な拒絶を孕む冷たさもある。
故にこその、極光。
対する黒狼の一撃はソレに比べれば児戯そのモノ、比類など出来ずただ一瞬にして塗りつぶされる。
この攻撃で互いの格のを測るのならば、黒狼は無様で幼稚なガキという烙印を押されるだろう。
最も、この攻撃は本命ではない。
「なるほど、魔法陣か」
「看破まで早いねぇ、クソッタレ」
武装を、『刻蝕禍灼』をインベントリに投げ込みながら水晶剣を抜く。
その視線の先では数十に及ぶ影の槍を政権で切り払う、アルトリウスが存在していた。
舌打ち、左手に持っていた魔導書。
開いている項は焼き焦げており、黒狼は即座に破り捨てる。
『騎士王』アルトリウスのビルドは筋力耐久型の近接ビルドだ、その上で無限に魔力を供給し全ての属性をかき消す極光を持つ。
対する黒狼、『不死王』のビルドは魔法軽戦士。
回避を前提とし耐久を犠牲にした上で中近接を中心とした万能型ビルドを構築している、一見すれば器用貧乏ではあるがその対応力はホンモノだ。
「魔導書を使い切りにするなんて、『エクスカリバー』。随分と気前がいいね、『エクスカリバー』。流石、ウィッチクラフトを組み込んでるだけはある」
「撃つか、喋るか片方にしろ!!」
黒狼の文句への回答は、『エクスカリバー』だ。
キレ気味に闘技場を駆け抜ける黒狼だが、流石にエクスカリバーの攻撃の連続には対応しきれない。
雨霰の様に連続する攻撃を、ただシンプルなまでの気合いで乗り越えていく。
「(もっとも、止まる気配は無さそうだが)」
どれだけ回避を行おうともエクスカリバーの連打が終わることはないだろう、エクスカリバーは無限に魔力を生み出す能力がある。
アレの一発一発にどれぐらいの魔力が必要なのか、そんなことなど計り知れないがガス欠になるのならこんなにも高頻度で打ってくる訳がない。
「反撃はしないのかい? 『エクスカリバー』」
許されるのならば、すでに行なっている。
そう叫びたいのを堪えて握る、叫んで勝てるのならばすでに叫んでいるのだ。
小瓶をインベントリから取り出せば、エクスカリバーの攻撃を影として放り投げる。
中に入るは猛毒、一度浴びれば絶死だろうか。
ソレをコッソリと投げつけてみるが、どうにもエクスカリバーで中身ごと消し炭にされた。
「スキル『直感』、か」
「怖いものを投げてくる、今の感じはヒュドラの毒かな?」
「まぁそんなところだ、死ねェ!!」
喋ってる時間ほど戦いにおいて無駄な時間もない、一挙一動を見逃さない様に立ち回りながら絶死必殺を放つ様に体を動かす。
放った攻撃は当たって普通の攻撃だ、頭上10メートルに数トンはある岩石を落とすだけの。
油断はしない、慢心も。
けれども、嘲笑はしよう。
弱き己を、強き敵を。
「一体全体、どう回避する!? 騎士王、アルトリウス!!」
「『白銀よ、薄く煌めく月光よ』『来れ、【エクスカリバー】』」
巨石の影など、最初から無かった。
全ての目を暗ます月光が、全ての瞳に輝く白銀のみが存在している。
鮮烈し、憧憬する。
その猛き月光を、その勇ましき極光を。
手の届かんばかりの彼方で、しんと輝くからこそ。
「君は、随分と勘違いをしているね。『不死王』、黒狼」
冷や汗のひとつもない、というのは買い被りすぎだ。
少し怖い、少し負けるかもしれないと頭の片隅で思考している。
最強などと嘯かれているが、アルトリウスに敗北がないわけではない。
ただ二度、ただ二人の相手を前にして破れた事がある。
故に負けることなど、知らぬ訳もない。
「或いは分かって目を背けているのか、いずれにせよだ」
聖剣の、導きであり微睡たる聖剣の輝きが褪せることなどない。
万人の瞳を奪い導く光は、確かに有る。
故にこそ、アルトリウスは敗北せず。
「有るんだろう? 奥の手が、ソレを渋って勝つつもりなら辞めた方がいい。自分が強いと驕り付け上がるのは、少々無様に過ぎるよ」
「へぇ、随分というじゃねェか」
故にこそ、常勝の王として有り続けんとする。
騎士王アルトリウスの戦いとは勝つための戦いではない、傍に月明かりを握る男の戦いとは勝利に酔いしれる戦いではない。
無垢無常たる民衆を導き、安寧と安楽を齎すことこそが騎士王の戦いであれば。
騎士王、アルトリウスはただ光となろう。
救世の人間として、人々を救う戦いの。
「同族嫌悪って奴だな、そんなロールプレイをしてるから嫌いなんだ」




