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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
二章上編『前夜祭』

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Deviance World Online エピソード6 『飢餓』

短いです。

「そりゃ、そうなるわな」


 黒狼のため息と呆れ、直後に水晶剣を取り出す。

 視線の先には一人の女がいた、人間と形容するのも悍ましい女がいた。

 彼女は両手足を振り回し、空腹を満たすためだけに全てを捕食している。

 この、真っ暗な路地裏の中で。


「人間を超える、目標は高く過程は死ぬほど手間がかかる。正直、そんなことをするメリット何て存在しない」


 ため息は呆れ、それ以上の意味は持たない。

 ただ静かに彼女の脊髄めがけて水晶剣を刺す、スキル『水晶大陸』の真の恐ろしさを知らない彼女に向けて。

 その力は人の領域を大きく逸脱した傭兵ですら扱えなかった代物だ、たかが人間風情の彼女が扱いこなせるわけがない。

 彼女を小馬鹿にしたような結論は、黒狼にとって再び語りなおすまでもない純然たる事実だった。


「延命措置はしてやる、だから死んでくれるな。願わくば、もう二度とそのスキルを用いてくれるな。ゲームはゲームだ、遊びは遊びだ。そんなものにマジになるんじゃねぇ、いや本気にさせたのは俺かもしれないが。それでも、自分の在り方を喪失するほどに本気になるのならお前はゲームをやるべきじゃなかった」


 それはある種、黒狼の本心からの言葉に違いない。

 また同じく彼も無駄だと分かっているからこそ、彼女に届いているわけがないと理解しているからこそ出てきた言葉でもある。

 言葉が通じるのならば、こんなところで空腹にあえいでいるはずがないのだから。


 星は美しく雄大で、また巨大だ。

 眼を焼かんばかりに輝き空にあるからこそ人は憧れ手を伸ばす、必ず手の内に入らないと分かっているからこそ伸ばす。

 けれども其れがおかしな拍子に手の内に入ったら、結末は破滅以外にあり得ない。

 超越し、神の瞳を借り、星を得た。

 そして彼女は不運にも、翼を得たのだ。


* * *


 目が覚める、また()()()()()()()()()()()

 まぁ、現実世界の肉体は寝ている状態に等しいから関係ないのかもしれないが。

 ここまで忘れているのは少し気になる、この大会が終わったら病院にでも行こうか。


 私はそう考え、ベットから起き上がる。


 そういえば進化したらしい、私という存在がより高みに迫っているのがヒシヒシと実感を伴っているのが感じられる。

 喜ばしい話だ、非常に。

 強くなれるのに越したことはない、私の目指すべき最終地点には相応の力が必要なのだから。


「頼りにしてます、『水晶大陸』」


 ソレは絶対の最強スキルだ、私の最強の矛でもある。

 此れさえあれば何物も敵ではない、私の目の前に広がること如くを蹂躙できるだろう。

 きっと、間違いなく。


 私は、強くあり続けるのだ。

 私という存在が明瞭に世界に刻まれる、その時まで。


「早く出かけなければ、第四回戦がまっている」


 準備を整え、外に出る。

 元気いっぱいだ、これからの戦いに少しワクワクしている部分も有ったりするかも?

 いや、けど戦いは苦手だし……。


 そんな取り留めのない思考を巡らせながら闘技場に入場して、私は準備を整える。

 私は他のプレイヤーと比べてステータスもレベルも戦闘経験も浅い、もしくは浅かったというべきか。

 例の進化によって私のレベルは急上昇し、最低限戦える土台は出来た。

 あとは実際に戦い、成果を上げるだけ。


 勝って勝って、勝ち続けて。

 私はそうして夢を、夢をかなえる。

 そうしなければならない、そうしなければいけない。

 そんな決意を抱いて待つ私を迎えたのは、酷い話だった。


「え、棄権?」

「はい、『アイアンウーマン』ポッツさんが棄権しました」


 棄権、権利の放棄。

 戦いを諦めたという事だ、何故に?


 思考が駆け巡る、だが答えは導き出せない。

 空中に鳩が見えそうなほど混乱している、そんな私の背後から聞きなれた声が聞こえた。

 あるいは、聞きなれていると感じるほどに意識せざるを得ない相手の声が。


「良かったじゃねぇか」

「___黒狼……」

「別に純粋な言葉だよ、全部に突っかかるな。そもそも俺は他人を同行できるほど権威権力がある人間じゃねぇしな、今は幸運を喜べよ」


 呆れた、或いはうんざりしたような声音でそう告げる黒狼。

 どこか私に敵意を抱いている様子すら見せてくる、私も思わず警戒しながら慎重に言葉を選んで返そうとした。

 そうしなければ、私の口から出る言葉はきっと暴言になっていただろう。

 だが、その言葉を選び終えるより先にまた黒狼が口を開いていた。


「というわけで、俺とお前の対決は明日だな。頑張れよ、精々勝てるようにな」

「……勝つ自信が随分とあるようですね、まるで私風情に負けるわけがないって言ってるようですよ」

「違うな、負ける可能性は十分あるとは思ってるぜ? 間違いなくお前も確かな難敵だ。けれども、だ。面白みを捨ててガチで勝ちに来てる状態の俺が、まぁそう簡単に死ぬかと言われれば否だろ」


 その言葉は、本当に退屈に聞こえた。

 だからこそだろうか、黒狼はこの瞬間を見ていないようにも。

 あるいは、この瞬間に見る価値を見出していないようにも感じられた。

黒狼の独白でも入れようかと思いましたが、ソレをやると黒狼ではなく黒前真狼としての語りになるので止めました。

そのため短くなっています。

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