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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
二章上編『前夜祭』

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Deviance World Online エピソード6 『脳筋』

 認識する、一面の水晶世界を。

 中央に座する男の姿を、より鮮明にくっきりと。


「また、一歩進んだんですね?」


 問いかけに返答はない、男は静かに椅子に座している。

 果たして生きているのか死んでいるのかの区別すら不可能なほどに、ただ静かに。

 ましゅまろはそうして彼に触れ、あるいは触れようとして。


「っが、ぁ………」


 異様なまでの空腹感に苛まれた、まるで今にも死んでしまいそうになるほどの空腹感だ。

 地面に這いつくばる、余りにもお腹がすいて吐き気を催してしまう。

 口から唾が漏れ出てしまい、その唾が即座に結晶化し風化する。

 この領域がどんな代物であり、この世界が如何なる構成構築をしているのかはおおよそ理解できない。

 だが分かる、ましゅまろは確かに飛び越えた。

 おおよそこの世界に生きる人間が存在すべき領域を、はるか遠くに置き去りにして。


* * *


 大会五日目、ベスト8決定戦。

 言い換えれば第三回戦、そこには堂々と黒狼が立っていた。

 黒狼はゆっくりと剣を引き抜きながら、悠然と歩み寄る1人の神父の姿を見る。


「久しぶりだな、ガスコンロ神父」

「共に、同じく」


 黒狼が剣を構えれば、神父は十字架を象ったメイスを持ち上げた。

 ただ只管に重く、岩石の様な硬さを見出せるそのメイスは振るわれれば即座に骨を砕くだろう。

 自ずと警戒はそちらに向く、ガスコンロ神父の恐るべき点は純粋なまでの破壊力だ。


 開始の宣言は未だ、けれども二人は既に臨戦態勢である。

 互いに深い因縁があるという訳ではないが、けれどけれども確かに戦う理由は明白。

 戦いたいから戦う、それ以上に深い訳も理由も不要だろう。


「『【脳金神父】VS【不死王】だァ!! 相性はどうなんでしょう?』」

「『【不死王】さんはもともとアンデッドだったと聞きます、ともなれば必ずしも良いとは言えないでしょう』」

「『なるほど……、という訳で早速勝負、開始!!』」


 簡単な紹介、そこから即座に始まった戦闘の開始宣言。

 神父が一歩踏み出し、黒狼が対応するように左手に持っていた杖を掲げる。

 見慣れない杖だ、過去に一度戦ったことのある神父は首を傾げながらメイスを投擲した。


 メイスが壁に突き刺さる、思わず冷や汗を吹き出す黒狼に対して鉄製の紙片が突き刺さり。

 黒狼は詠唱を諦め、魔法に切り替える。


「『ダークシールド』」

「『聖者の歩み』」


 最も脳筋が魔法も魔術も区別するわけがない、シンプルな踏み込みから丸太を思わせる腕によって放たれる一撃は魔法諸共破壊してくる。

 右腕が一撃で破壊される、流石はプレイヤー最高の筋力持ちといった所だろうか。

 軽く腕を庇いながら減少したHPを見る、予想以上の戦いぶりだ。

 もう一撃当たれば死ぬか、そう判断すれば動きは早い。

 杖をインベントリに収納し、剣のみで応戦すると決断した。


「魔術を用いない戦い、力と技で覇を競う。実に好みらしい戦いと、なった」

「馬鹿言え、魔術も魔法も技もスキルも使うさ」

「では、猶予を消しましょう」


 壁に突き刺さったメイスを抜きながら、神父は笑い告げる。

 そのまま体内で練られた魔力を杖に流し込み、聖属性のエンチャントを付与した。


 地面を蹴り飛び上がる、空中で体を捻りながら地面にメイスを叩きつけ。

 決してその一撃は怖いモノではない、回避は酷く簡単だ。

 だからこそ続くスキルの発動を予見し、黒狼は回避か阻止の二択を叩きつけられ。

 けれども、そのどちらも達成することはない。


「『地鳴らし』」


 局所的な地震が発生する、範囲外など存在しない。

 闘技場すべてが揺れ、ダメージ判定のある床となる。

 展開時間はおおよそ5秒か、ジャンプでやり過ごすには長すぎる時間だ。

 範囲攻撃のダメージは決して多くないはずなのに、眼に見えてHPが減っている。

 純粋な破壊の権化、暴力の化身。

 力を押し付けることに特化した脳筋、強さというモノを目に見せてくれる。


「だが、悪くねぇ」


 化け物じみた破壊力だが、嫌いではない。

 戦っていて楽しいと感じるタイプの強さだ、気持ちいいぐらいの強さを与えてくる。

 負けてもすっきりと負けられるタイプの相手、だが今回は勝ちに来ているのだ。

 戦い負けて、それでよしなんて世界の万人が許しても黒狼自身が許せない。


「『揺らめき漂い、水は我が身の守り手となりて』」


 詠唱を行う、杖があれば魔力効率がいいというだけで杖など無くとも魔術の展開に難はない。

 そもそも黒狼は莫大な魔力を用いて魔術を展開することは少なく、自爆以外の魔術は基本小技だ。

 故にこそ杖を用いずとも問題なし、全力で神父から逃げつつも詠唱を急ぐ。


「『我が体躯を覆い尽くせ、【蠢く水鎧】』」

「ヌゥンッッッツツツ!!!!」

「マジかよ!!」


 最も、そんな行動は意味がない。

 純粋なパンチで水で形成された鎧が破壊される、完全な破壊という形ではないがそれでも半分以上は削られた。

 つまりは防御は無意味、そういう様に目線を向けてくる大男に黒狼も笑みで返す。

 確かに馬鹿な戦いに賢さを持ち出すのは、空気が読めていない。


「良いぜ、馬鹿やってやる」


 神父の拳が再び襲い掛かる、その拳を剣で受け流しながら返す刃を突き立てた。

 左手で振るわれるメイスは避けない、避ける必要などない。


 膝で顎に蹴りを叩き込む、崩れた体勢にメイスの遠心力が加わってメイスの一撃はあらぬ方向へ。

 のはずが、そのメイスをさらに起点とし蹴りに動きを派生させた。

 派生した蹴りまではさすがに予見していない、地面に飛び込みながらの無理矢理回避で誤魔化しつつ直撃を免れる。

 直撃は免れるが、神父はさらに攻撃を派生させて来る。


「『厳骨』」


 地面に突き刺さる勢いを踏み込みに転用し、拳を握り込む。

 ソレを地面に寝転がっている黒狼に叩き込もうとして、黒狼は即座に剣を盾にする。

 攻撃の完全なヒットは防げた、だがダメージの完全な排除は出来るわけがない。

 嗚咽を漏らしながら焦りを表に出す黒狼に目もくれず、神父はさらに拳を握る。


「『アイアンラッシュ』」


 まさしく鉄拳制裁、鈍銀のエフェクトを纏った拳が無数に連打されてくる。

 攻撃全てを剣で受け流したり弾くことなどできない、少なくとも地面に押し倒されている現状ではどうしようも。

 故に取捨選択する、受けられる攻撃と受けられない攻撃を確かに。


 総合攻撃力は高いがスキルを用いたことで一撃当たりのダメージなどは低い、全部を受けなければさして問題は無い筈だ。

 黒狼はそう判断し攻撃を受けるが……、それでもなおダメージは全身を削ってくる。

 全身複雑骨折、と言った所か。


(痛ってェ……、流石は脳筋。下手な反撃を入れる隙を与えずに攻撃を連続させてくるか、バケモノめ)


 結局は気合いだ、攻撃を無理矢理押し返せば体を地面に転がし逃げる。

 防戦一方であるというよりかは、そもそも防御を考えない攻撃に防ぐしかないというだけ。

 必殺、致命たり得る一撃を与えれば軽く勝てる確信がある。

 だが問題となるのは、黒狼が持ち得るその必殺技や致命的攻撃の悉くは自傷ダメージを前提とした代物であるということか。


 『黒蝕禍灼』は抜刀ごとに自分の骨子を灼く、そのダメージは相手に与えるダメージと同程度のダメージだ。

 勿論、余波の部分で考えれば同じというだけで直撃したダメージと同じというわけではない。

 と言うわけではないが、余波ですら無視できない火力なのが『黒蝕禍灼』の強みであり弱みであるのならば使うことは出来ない。


「ヌゥ!!」

「チッ、『パリィ』」


 攻撃を弾くが、カウンターまでは続けられない。

 筋肉ダルマの筋肉戦車、そのくせに必ず戦場の空気は掴み続けると言う酷くやりにくい相手。

 もとより安定して勝てるなんて考えていなかったが、流石はトッププレイヤー。

 流石は脳筋神父、ガスコンロ神父と言ったところか。


「どうした? 怪物(アンデット)ォオ!! こっちへ来ないのか!?」

「行くに決まってんだろうが!!! 脳筋バカ!!」


 返す言葉に笑みも混ざるモノだ、これで全力全霊と言うわけでないのが恐ろしい。

 踏み込み一つで地面が割れる、ただの拳が鉄を曲げる。

 だが逃げる理由に足る訳も無し、全力で突っ込んで玉砕させてやろうじゃないか。

 そういわんばかりにニンマリと顔を歪め、黒狼は地面を蹴る。

 さぁ、存分に戦おうじゃないか。

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