Deviance World Online エピソード6 『蝕め』
ましゅまろは黒狼の戦いを見ていた、倒すべき敵の大きさを測っていた。
大きさは何となくわかる、遠さも凡そ察せられた。
けれど、どうしようもなく分からないモノが一つある。
ソレは、そこに当たりつくまでの意思の形だ。
何を考え、何を思いソレほどの力を手にしたのかが理解できない。
だからこそ、黒狼という男にはどうしようもない影が見えてしまう。
「だけども、超えなきゃならないんだ……。必ず、絶対に」
だけども、その意思が揺らぐことはない。
危うい在り方だ、けれども実直さもある。
だからこそ恐ろしい在り方なのは間違いなく、いいやこれ以上の言葉は不必要か。
「お相手、よろしくお願いします」
闘技大会、3日目。
舞台に立ったましゅまろは、静かに目の前に立つ銃使いを見ていた。
『銃撃魔』ビリー・ザ・ガール、そう名乗る彼女は両手に異なる銃を携え帽子を目深に被る。
返事はない、ただの銃撃魔の様だ。
ましゅまろも、構える。
胸を借りるつもり、いや胸を切り割き勝つ気概で剣を握り直す。
倒せばいい、簡単な話だ。
「『超越思考加速』、超越する」
「『早撃ち』」
合図、ソレと同時に2人は動いた。
銃撃に対応する、襲いかかるその弾丸を紙一重で躱しながら水晶化した剣を握り。
一気に動く、勝負は一手で決めなければならない。
「『大切断』」
静かに、アクティブスキルを発動した。
一気に喉元まで迫る、光を乱反射し綺羅綺羅と輝く水晶の剣は『銃撃魔』の喉元まで確かに迫った。
直後、ましゅまろの腹部に弾丸が撃ち込まれる。
唖然とした、十倍速の世界でまともに動ける存在など凡そ居るはずがない。
そのはずなのに、『銃撃魔』は致命傷を浴びせてきた。
「ッ!? いや、慌ててる場合じゃ……!!」
焦る思考を落ち着ける、攻撃は確かに恐ろしいがそれだけだ。
そもそも10倍速の世界など常人では知覚は不可能なはず、その速度で動く自分を視認できても対応は10倍遅く……。
一瞬遅れ、ましゅまろは自分の間違いに気が付く。
その思考は銃弾を撃ち込まれる前に行うべき思考、撃たれた後にする思考ではない。
撃たれた後にするべき思考は、撃たれる可能性を追求するモノではない。
地面を疾走する、『銃撃魔』が右手に持っていたショットガンはリロードをはじめ左手に持っていたサブマシンガンが無数の弾丸を発砲する。
弾速は早い、一切の認識が介在しない速さではないが見てから回避するのは不可能か。
ましゅまろとて遅いわけではないが、それでも銃弾を回避するなんて芸当は難しい。
地面を滑るように走りながら、接近できる隙を探す。
苦戦はしている、酷く焦りを隠せない。
けれども優位に立っているのは、確かにましゅまろだった。
有効打を与える手段はある、如何にトッププレイヤーと言えど遠距離主体のトップ勢に『剣聖』仕込みの戦闘技能で劣るとは思えない。
「ソレに、銃撃系スキルは然程充実してないって聞きますし……!!」
やっているゲームが違う、などという文句は口に出さないのがお約束。
DWOにおいて銃は不遇扱いされている武器ではある、優遇されている剣が銃に負けるなんてことはない。
なんて傲慢はないが、それでも負けるとは思えなかった。
「『亜神眼』」
スキルを発動し、武器を鑑定する。
表示された内容は面白みもなく、フレーバーもただ一言。
『古き時代の遺産に負ける道理など無し』、と一言のみ。
現実世界で1000年前に使われ廃れた武器だ、剣の方が古い気もするが多少は心強い言葉に思える。
インベントリに用意していた火炎瓶を握り投げる、一時的に目を潰せば銃も撃ってこないだろうという判断だ。
十倍速で動く自分が投擲した火炎瓶、あるいは壺。
当然避けられるわけもなく的中、彼女の視界を奪い。
「う、そ!?」
けれど的確に、弾丸はましゅまろを狙い撃つ。
あるいは、偶然的にも弾丸がましゅまろを捉えゆく。
目を見開いて驚いた、まさか視界を奪われながらも弾丸を的確に打ち込んでくるとは思わなかった。
『超越思考加速』の残り時間も少ない、一気に勝負を付けなければ負ける。
そんな焦りの思考から放った火炎瓶だが、それが無意味となるともう手段がない。
浅知恵から繰り出す搦手など、多くの数を用意しているわけがないのだから。
どうするべきか、焦りの中で呼吸が乱れゆく。
けれども、やはりというべきか。
天運はましゅまろの方にあった、奇跡的にもだ。
ガチャンッッッ……!!
音が聞こえた、瞬時に理解する。
弾切れだ、間違いのない弾切れ。
スキルを用いてリロードするにしても時間がかかる、それも『超越思考加速』を用いているましゅまろを相手にするには絶望的なほどの。
だから、一気に迫って殺す。
どれだけの幸運が、たとえ介在しようとも。
どれだけの実力が、たとえ介在しようとも。
装填されているショットガンが、ましゅまろに向けられないほどの一瞬で。
対応できない一瞬で、徹底的にだ。
「『袈裟斬り』ッ、からの『大切断』ッッ!!」
スキルを発動、まずは右肩から左腰へと。
そのまま返す刃で一気に回転しながら切る、まだ倒れない。
さらに一歩、地面を踏み締めた。
「『縮地』、『ドロップキック』!!」
離れようとした『銃撃魔』を逃がさない様に距離を詰め全力でドロップキックをする。
よろめく彼女だが、まだまだHPは残っており油断はできない。
だからこそ改めて剣を握り直し、あの戦いの後に手に入れたエクストラスキルを用いて倒す。
必ず勝つのだ、絶対に。
「蝕めぇぇえええ!! 『水晶大陸』ッッッツツ!!!!!」
次の瞬間、剣の水晶部分が肥大化し大剣の様に大きくなり。
一気にました質量をそのまま振り下ろす様に叩きつけ、地面に倒れ伏せた彼女の胸を侵食する。
徐々に広がる水晶は彼女のHPを侵食、破壊させ。
「……ハァ、……はぁはぁ………」
勝利というには、少しばかり。
あるいは勝利と言うには少し以上に苦戦した形で、戦いは終わりを迎えた。




