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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
二章上編『前夜祭』

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Deviance World Online エピソード6 『忍者』

 二試合目、舞台上に立っていたのは黒狼だった。

 腰に差した剣を抜き、目の前に立っているプレイヤーを見る。

 『豚忍』トン三郎、そう名乗る肥満体系の忍者。


「よぉ、初めまして」

「初めましてでござる、名前はかねがね」


 黒狼が水晶剣を握り、トン三郎は直刀を構えた。

 鼓動と共にと来は刻まれ、直後に開幕の合図が来る。

 瞬間、トン三郎は黒狼に最速のドロップキックを与えた。


「ッ!! 糞が、分かっていたけどDEX600越えの速度に500で反応できないのは調整ミスだろうが!! 『ダークシールド』」


 地面に吹き飛ばされながら、魔法を展開。

 水晶剣を持ちなおし、高速で迫る豚忍を補足する。


 だが、尚も早い。

 柳生とは違う速さだ、技巧による間合いの速さではなくステータスの暴力による純粋な速度。

 ステータスに依存する速さだからこそ、ステータス以外での対策手段はない。

 とはいえ、対応不可なわけでもなし。


「『猪突猛進』」

「へっ、『武芸千般』!!」


 速度に合わせ、技で対抗してやろう。

 全ステータスを向上させるバフ、その上で武器補正攻撃力の上昇を行う。

 直後に右側面から蹴りを叩き込んでくる豚忍に反応を示し体をひねり、またもや地面を転がる。


 黒狼とて、弱いわけではない。

 だが速度や耐久など、ある程度の道を極めたビルド構築は黒狼みたいな汎用ビルド相手に突き刺さる。

 結局は戦いとはじゃんけんであり、相性が総てを決めるのであれば汎用ビルドは弱点も多く強みも多い。

 相性を超越するほどに実力を付けられないのならば、その相性の絶対性は揺るぐはずもなく黒狼の不利は覆らないだろう。

 そして黒狼の実力は全てを超越するほどに高いとは、到底お世辞にも言えない。


「なるほど、全部避けて戦うつもりでござるか!! 魔法特化ビルドという噂を聞いてたでござるが、物理にも強いでござるね!!」

「そういうソッチこそ、全然早いじゃないか。柳生相手に辛勝したから楽勝かと思ってたけど、案外そうじゃねぇな? 流石はトップクラスのプレイヤーか」


 一歩、踏み出し剣を振る。

 回避特化プレイヤーの面白くない所は、そもそも当たらない所だ。

 黒狼がどれほど攻撃しようとも、その一撃は当たらない。

 それが面白くない所であり、それこそが最大の強みである。


「(ま、攻略出来れば楽なんだがねぇ)」


 目が回るほどの速度で動き回られてはどうにもできない、息を軽く吐きながら迫る攻撃を弾く。

 早いだけの攻撃には負けるつもりはない、だが攻略を可能とするような攻撃。

 さながら、一撃必殺になりえる魔術の展開には些か以上に時間がかかる。

 それだけの時間を与えてくれるほどに、余裕のある敵でも無し。


「と、なれば必殺技に近い武器が必要か?」

「独り言は口に出すモノでないでござるよ!!」

「馬鹿言え、聞かせるための独り言だよ」


 腕を横に出し、インベントリから一つの武装を取り出す。

 一つ、最速の抜刀術を超える抜刀方法はないかを考えよう。

 最速の抜刀術、雷電のような速度で振るわれる攻撃はあまりに早い。

 柳生の放つ一撃はただの一撃が必殺になりえるほどに、近く不可能なほどの速度で振るわれる。


 そんな一撃、音速を超えるかのような速度に迫り超える方法などあるのか。


 あるのだ、それも技術者がいれば再現など簡単にできる方法が。

 柳生の抜刀術は240フレーム/秒(fps)を優に上回る、この速度は人間の知覚速度を上回っていることを証明しており。

 だが速度の概念においては、これ以上の速度は存在する。

 と、言うよりだ。

 現代よりも遥か千年以上前、第二次世界大戦と言われる戦いに置いて用いられた銃という骨董品の方がはるかに速い。

 現代であれば宇宙航空用母艦や衛星間シャトルの速度も、それに準ずるだろう。

 つまりは音速以上の速度など、身の回りに溢れかえっている。

 現代の技術者の手にかかれば、その速度を出力することなど容易い。


「速さには速さで、お前の苦手な速度で相手をしてやる。来い、剣銃『刻蝕禍灼』」


 手に一振りの剣が現れる、北方と呼ばれる果ての世界の地域より持ち出された魔力圧縮銃を鞘に融合させ爆発的な抜刀術を実現可能にしたその一太刀。

 トン三郎は警戒し、近寄らない。

 その選択は、酷く正解だった。


「北方で開発された拳銃なんだが、その構造の内部には魔力的結晶体が組み込まれてんだとよ。その結晶体の内部には魔力量にして約2000mp、通常魔術数十発分のMPを貯蔵できる。んだが、まぁ此奴の怖い所はそこじゃない。この結晶の性質として一定以上の衝撃によって内蔵されている魔力の体積と質量が膨れ上がり外部に出力されるんだ。さぁて、ソレは一体どれぐらいの大きさになって出力されると思う?」


 黒狼の問いかけに、誰も答えない。

 抑々その問いかけの答えを持ち合わせていない上に、誰も興味がない。

 ただ目が離せないだけだ、その刀から。


 答えない様子を見て、黒狼はやれやれと首を振る。

 そして抜刀の構えを取れば、鞘についている引き金に指を掛け。

 再び、そうして言葉を続ける。


「答えは1764%、1MPだけでも並大抵の爆発物を超える爆発を起こせる。じゃぁ、ソレをこの刀の規模で行えばどうなるか。話は酷く単純で、そして面白いぜ?」


 一歩踏み出す、瞬間にトン三郎は回避スキルを発動した。

 理解した、この攻撃の真意にして恐るべき部分を。


 この刀の恐ろしい所は、使用者の肉体強度を参考にして作成されていない。

 より正確に言うのならば、この兵装は使用者が存在することを前提に作成されていないのだ。

 使えるものなら使ってみろ、そんな挑発染みた設計理念に完成結果。

 出力される結果は常軌を逸する、ソレを明瞭に理解し。


「『抜刀』『刻蝕禍灼』」


 黒狼が、トリガーを引いた。

 瞬間に彼の右半身が焼け焦げる、次に射出されるように抜刀された『刻蝕禍灼』の姿があり。

 地面は半ばガラス化し、暴発暴風の余波が残っている。


 この説明はとある結晶体についてのみ、特異な刀の説明は一切為されていない。

 今までの会話にして言葉の応酬すべてが、この一撃の恐ろしさを際立たせるための前座に過ぎず。

 その前座は、確かに脳裏に焼き付いた。


「チッ、回避したか」

「流石に、そこまで見え見えの一撃に当たるのは素人の戦いでござるよ。しかしソレが奥の手でござるか? で、あれば拍子抜けでござ……」

「『抜刀』『刻蝕禍灼』」

「ッ!!? 『緊急回避』ィ!?」


 スキルを発動し回避する、トン三郎の反応速度は十分に速い。

 だがその反応速度でも覆せないモノがある、ソレはダメージレースだ。


 『抜刀』スキルと剣銃『刻蝕禍灼』に内包されるアーツ『刻蝕禍灼』によって放たれる攻撃は特殊な概念攻撃を内包している、ステータスを無視してダメージを与える特殊な熱が。

 その攻撃に対して黒狼は耐性を持ち得るために、全身が焼け焦げようとも問題はない。

 だがトン三郎は違う、攻撃の余波だけでも体を蝕まれ焼け焦がされている。

 これが一度限りの必殺技ならば、或いはまだ良かった。

 だが連続的に放たれる攻撃、連続的に発生可能な攻撃であるのならば話は大きく変わってくる。


 DWOの戦いの定石として、一定レベルまでの戦いであれば速度などが重視され技や火力はある程度無視できる。

 それは何故か、答えは単純に速度が早ければ速い程一方的に相手を嬲れるからであるため。

 ではその一定レベルを超えればどの様な戦闘技能が求められるのか、こちらもまた酷く単純だ。


 『環境』だ、環境を制圧し自分の有利な空間に塗り替えることこそ一定レベル以上の戦いにおいて求められる技能そのもの。

 そして黒狼のこの兵装、この武装はまさしく環境を形成し塗り替える武装。

 いわば戦いのレベルを無理矢理、上げられた。


「(しくじった、でござるねぇ。恐らくではあるが彼の思考速度は拙者より上でござる、となれば近づけば認識されてスキルコンボでグギャーでござるか?)」


 息を鋭く吐く、トン三郎も決して弱いプレイヤーではない。

 だが黒狼、否。

 最悪のエンジョイ勢の本懐を見誤っていた、ただそれだけ。

 戦闘スタイルに拘りを持たず、戦闘方法に拘りを持たず。

 ただ意のままに、盤面全てを支配せんとする悪辣極まる悪意を読み違えていた。


 武器を、刀を構える。


 両者同時に、静かに瞬きが過ぎ。

 次の瞬間に違いは同じスキルを発動する、『抜刀』と。

 トン三郎は地面を蹴り、黒狼は指に力を込め。

 両者の武装が打つかり合い、武装に込められたアーツが。

 特殊アーツと呼ばれる、そのアーツが放たれる。


「『刻蝕禍灼』、さっさと死ねよ」

「舐めんじゃねぇぞ、『火海刀(かみそり)』」


 黒狼の侮蔑、返す憎悪の言葉。

 違いの刀が打つかり合い、爆発する。

 結末は単調、結果は簡単だが。


 敢えて事実を語るとするのならば、全身を両断されたトン三郎と。

 左腕を切り飛ばされた黒狼が、そこにはあった。

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