Deviance World Online エピソード6 『進化』
闘技大会、2日目。
予選は終わり、いよいよ本戦が始まる。
大会を見るために会場に赴いたましゅまろを迎えたのは、柳生その人だった。
手招きをしながら眠そうに目を擦る、昨日アレほどに切迫した斬り合いをした相手とは思えない態度だ。
「そう言えば、柳生さんは誰と戦うんですか?」
「私ぁ、本戦には出ないさね。私を正面切って倒すのならば其れこそ上澄の上澄を連れてくるしかないし、それに予選で無様を晒してるんだ。ゆっくり日和らせてもらうさね、その代わりと言っちゃなんだがアンタは勝ちなよ。私に一撃を入れたんだ、胸張って剣を握るさね」
「私は別に、それに勝てと言われても今日は戦いがないんですが……」
「カカッ、知ってるよ。だけど、応援は顔を合わせた時にやったほうが良いだろう?」
そういうと、そのまま観客席にドッと座る。
少し遅れて兄弟子とでも言うべき人がやってきて、軽くましゅまろに微笑みかけた後に柳生へアイスクリームを渡した。
柳生は金を渡しつつ、会場を鋭く見つめる。
そこに現れたのは、2人のプレイヤーだった。
「『最初の戦いはァ!! 【鎧武者】凱旋と【脳筋神父】ガスコンロ神父だァ!!』」
喧しいアナウンス、響き渡る歓声にブーイングは双方のファンやアンチの声だろう。
高揚感の最中で、互いは互いに得手物を取る。
【鎧武者】凱旋、非公式の闘技大会におけるランカー上位。
剣術としての剛剣を振るう武者、その相貌こそ【剣聖】柳生に似通っているがその実全く異なる剣術を披露する。
相対するは聖職者たる『脳筋神父』ガスコンロ神父、目の前の不浄悪行全てを粉砕する筋肉に敵う者なし。
彼の得手物は十字架を模ったメイス、ただしその重さはバカだ。
両者相対し、構えを取る。
「面白い、武器ですね」
「あんなモノ飾りさね、一撃当てなきゃ相手も倒せない」
「師匠、それは師匠にも言えますよ。今でも刀を折られたこと、根に持っているのですか?」
「当たり前さね、あの聖職者モドキ。よくもやってくれたよ、一撃許したらコレだ」
どうやら、今日の虫の居所は相当悪いらしい。
まぁ、それもそうだろう。
黒狼が謀策を用いたとはいえ、ほぼ一対一の状況下で正しくHPを吹き飛ばされたのだ。
愉快な気持ちになる方が、随分とおかしな話だろう。
最もましゅまろは彼女の様子を見て、そんな人間的感性を持ち合わせている癖に人外領域とまで言える強さを手に入れたことに対して恐崇と言える畏怖を感じる。
恐るべきは、その執念だろうか。
「『互いに見合って見合って〜〜ッ!!』」
意識を改めて向ける、次にカウントが始まった。
数字が減る、ゼロとなった瞬間に爆発が起きて。
ましゅまろが認識できたのは、そこまでだった。
次に響いた爆音、土煙の中から凱旋が現れ結界により空を滑る。
直後に土煙を貫き無数の手裏剣、否。
金属製の紙、恐らくは鉄アレイ代わりの聖書のページが投擲され凱旋の結界を破壊した。
地面に落下しながら抜刀の構えを取る凱旋に、ガスコンロ神父は地面を踏みつけスキル『八極拳』を発動する。
直後に『抜刀』、凱旋の刃に発生したエフェクトがガスコンロ神父の腕を捉えた。
「『おっとォ!!? 筋肉で、剣を弾いた!!』」
弾かれた刀を持ちながら、数歩下がる。
そのままガスコンロ神父の拳が叩き込まれた、和風甲冑によってその攻撃を防いだもののダメージは少なくない。
地面を転がりながら立ち上がり、苦無を投げつける凱旋にガスコンロ神父は刺さった苦無をそのままに地面から飛びあがってメイスを地面に叩きつける。
スキル『激震』、大地が凱旋は動けなくなり直後に振ってくるメイスはまさしく恐怖の象徴であった。
「『パリィ』、『大切断』」
だが、システム的には弾ける。
『パリィ』によって次の戦闘行動に補正がかかる、此処に次の攻撃系スキルを乗せればその行動に補正が発生。
選んだのは一番シンプルな殺傷能力、純粋な攻撃による切断。
過剰に過ぎる暴力に、圧倒的なスキルの展開。
脳金神父に迫る刃は確かに彼の芯を捉え、一気に腕を持っていく。
が、切れない。
圧縮された筋肉に刃が挟まれ、動かせない。
続けざまに放たれる一撃、ソレは凱旋の顔面を歪ませる。
そのまま片腕の連打、HPを完全に損失させるに至る殴打の連続。
ゼロ距離で放たれる攻撃は、一気に殴打の連続。
攻撃の破壊力は脳筋に相応しいほどの、純粋たる暴力そのもの。
「『気合い』、『リベンジャー』ッ!! 『戦鎧武者吼炙』」
「ほぅ? 『パンプアップ』」
だが凱旋はその攻撃を『気合い』で耐え、『リベンジャー』でダメージ数に応じたバフにし『戦鎧武者吼炙』によって装備の残存耐久度分の攻撃力を確保する。
相対する神父は『パンプアップ』によって一時的にSTR分のVITを確保、逃すまいと無理矢理に迫った。
緊迫する一種、直後に凱旋の一撃がガスコンロ神父の心臓を貫き。
だが、筋肉こそは至高なり。
「『筋肉的救命措置』、ヌゥンッ!!!」
確かにHPは砕けた、けれど筋肉が彼を生かす。
刺さった刃を抜く必要は無い、致命的に死に体だが筋肉があればまだどうにかなる。
メイスを振い、一気に凱旋の頭を吹き飛ばす。
つまりは致命、言い換え瀕死。
頭の無い戦士と、胸に刃が突き刺さった大男。
二人は数歩離れて、構えを取る。
「『不死行進』『骸因進化』」
「神父相手に、ソレは悪手でしょう」
凱旋の声が何処からか聞こえる、次の瞬間に鎧のあちこちから青白い炎が生まれた。
恐らくは骨、幽鬼の類。
刀を正眼に構え、一気に迫る。
だが根本的な問題として、相性が最悪だった。
「『主よ、憐れみたまえ』」
短い言葉、単純な詠唱。
けれども対アンデッドにおいては、その効果は単純ながらに絶大。
青白い炎が黄色い聖光にかき消される、凱旋の奮闘は余りにもあっけない相性によって無為に帰す。
ただ静かに、勝利したと言うアナウンスが流れ。
その直後に彼もまた、死亡した。




