Deviance World Online エピソード6 『ギネヴィア』
「『ヘェイ!! 盛り上がってるかァい!!』」
イェァーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!
熱狂が立ち込める、王都の中に存在するコロッセオ。
その中では100を超えるプレイヤーがおり、観客席には更に数十倍の人間が立ち込めていた。
おそらくは、この戦いを見届けるプレイヤーの数はさらに多いだろう。
そんな、熱気渦巻くコロッセオの中で時間ギリギリに門をくぐる一人の男がいた。
「まだ、受付は閉めてないよな? 入らせてもらうぜ」
「どうぞ、あなたの勝利を心から望んでおります」
闘技場へ続く門、威風堂々と潜りつつ黒狼はニヤリと笑みを浮かべる。
少し暗い道を抜ければ、目を焼かんばかりに輝く太陽があり。
ソレに頬を照らされながら、思わず浮き出た欠伸をかみしめた。
「楽しみだねなぁ、他人と競い合うなんて滅多にやらなかったモンだし」
黒狼を眺める視線は決して少なくない、そのはずなのに彼は一切の緊張を持ち得ない。
それは黒狼という男の異様さを醸し出すと同時に、絶対的な無視できない存在感を証明していた。
「『おっとぉ!!? これは!! まさかまさかの二つ名持ち、【不死王】と噂される黒狼じゃ無いかぁ!!』」
アナウンスの煽り、熱気は冷めやまぬも明らかに凍りつく。
最大手クラン、キャメロットに僅か五人で喧嘩を打ったファッキーロッカーボーイ。
期待のニュービーにしてプレイヤー3000名を相手取り勝利を収めた『白銀の絶望』の肉体を奪った者。
注目するなと言われる方が、無理というもの。
「随分と、有名人さねぇ? アンタも」
「こりゃぁ、初めまして。ドーモ、アンタのところの村正に世話になってるよ」
「フン、私相手に物怖じしない小僧なんて珍しいねぇ?」
「最強より弱いんだ、怖い訳がない」
その言葉は、あまりにも挑発的だった。
目尻を上げながら睨む柳生に、黒狼は挑発的な笑みで返す。
汚された名誉は力で挽回しろ、そう言うような笑みを。
次の瞬間、思わず黒狼は剣を握っていた。
背筋に固形の殺意を入れられたような、そんな錯覚を起こす。
『剣聖』柳生は、ただ静かに立っていた。
満面の笑みを浮かべて、ただ静かに立っていた。
「間に合えぇぇえーー!!」
そんな時に、また間抜けな声が聞こえ2人はドッと肩の力が抜ける。
ましゅまろが必死にになって闘技場に駆け込む姿が見えた、頭を抱える黒狼にヤレヤレと首を振る柳生。
あまりにも面白い状況に、思わず黒狼は吹き出してしまう。
「そりゃ、反則だろ」
「戦う雰囲気を壊されちまったよ、アンタとの戦いは最後に回してやるさね。感謝しなよ? 素っ首、簡単に切り下ろされたからないだろう?」
「そりゃ、なんかの冗談か?」
「だとしたら、随分つまらない冗談さね」
やさぐれた様子の柳生の背中を見ながら、心底からの恐怖で笑顔が止まらない黒狼。
剣の頂、最高峰の剣士の重圧が如何程のものかと思えば死を覚悟させんとするほどなどと。
興奮せぬはずがない、命を賭けずして全力を観られるのだから。
全力に、魅せられるのだから。
* * *
「『さぁて!! 改めてルール説明ダァ!! ここに集まったプレイヤーが本戦に出場するためにはたった一つのシンプルな答えがある!! と、いうわけで解説役のお姫様!! どーぞ、お願いしまぁす!!』」
「『み、みなさんこんにちは……? グランド・アルビオン王国第一王女のギネヴィア・アルビオンでございます!! この度はこの大会に来ていただき有り難く、また共にこの戦いを楽しみましょう!!』」
2人の言葉は会場中に響き渡り、黒狼も嫌そうな顔でその言葉を聞いている。
決して無視できない注目、決して馬鹿にできない存在。
そりゃそうだ、彼女こそはNPCでありプレイヤー主軸の最大派閥である血盟キャメロットの盟主であるからこそ。
そしてそれ以上にこの世界の大きな舞台となる王国グランド・アルビオンの主要人物であるからこそ、決して無視できない。
「『この戦いは予選であり、二つ名もちのプレイヤーの皆様と戦うための権利を得る舞台です。選考基準は簡単、そこにいらっしゃる【剣聖】柳生様に一撃でも入れられれば本戦に参加できます!!』」
ざわめきが静かに広がる、黒狼とて例外ではない。
勝つつもりでここに立っているが、それはそれとして『剣聖』柳生相手に一撃を入れる難易度は押して図るべしものだ。
アナウンスは続くがどうも聞く気が起きない、というわけで黒狼は彼女らの言葉を無視し中央周辺で立っている柳生に話しかけに行く。
妙案、あるいは面白い提案を思いついたのだ。
いやらしい笑みを浮かべ、柳生に言葉を放つ。
「なぁ、俺とお前でほかプレイヤーをぶっ殺さね? ライバルが多いのは少し面白くないんだよ」
「ふぅん? 私がアンタの……。いや、お前さんの背後を狙うとは考えないのかい?」
「最後にとびっきりの戦いを魅せてやるからさ、いいだろ?」
「フン、まぁ構わんさ」
黒狼の言葉に柳生は了承で返す、勝手にやられかけるのならば其れは無視するという返答を言葉にせず。
無論、黒狼も理解している。
これは黒狼が勝手にしていることであり、共助関係の行動ではない。
「さぁて、さてさて。面白くなってきやがった、久々に全力で暴れられるか?」
その一瞬あと、開幕のの合図がなる。
一斉に様々なプレイヤーが動き出し、柳生に向かって襲い掛かっていく姿を見てニヤリと黒狼は笑みを浮かべた。
彼らの背中をみて、ふぅと黒狼は息を吐きそのままインベントリを操作すれば杖を取り出せば。
ただただ静かに、スキルを使う。
「『ダークバレッド』」
そのスキルの発動、その直後に3人のプレイヤーの脳天が貫かれた。
周囲のプレイヤーは目を見張り、黒狼のほうへ視線を向ける。
何故、そんなことをするのかと問いかけるように。
「何をしているの!??」
「ライバルは、減らすべきだろ?」
沸々と魔力が沸騰するように動き出す、それは現在の黒狼の魔力操作能力を示しており。
彼の強さを証明しているということに、決して他ならない。
息を飲み込む、歯ぎしりをしてにらみつけるプレイヤーが溢れる。
そしてそんなプレイヤーは、柳生の手によって首を切られた。
地面に頭部が落ちるさまを静かに見下げながら、柳生は淡々と言葉を吐く。
「そっちの争いは知らんさね、私に言われたのはお前さんらの殲滅さね?」
直後、納刀。
一歩踏み出し、抜刀。
放たれるは、神速無比たる極限の一閃。
疾風迅雷のような、目に映らぬ音速を超えた一撃。
背後から迫っていたプレイヤーを、僅か一太刀で切り落とす。
「私はお前さんらが使うスキルやアーツなんざ理解できやしないからねぇ、純粋な技で切り伏せさせてもらうよ」
序章も序章、始まったばかりだ。
それなのに、恐ろしいほどの絶望感は拭えない。
なにせ、本来ならば本戦から参加するトップクラスのプレイヤーが。
二つ名持ちのプレイヤーが、此処には二人もいるのだから。




