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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
二章上編『前夜祭』

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Deviance World Online エピソード6 『剣に至る』

「まぁ、戦いというモノは手数が全てさね。手段や思索が多いほど強く、少なければ負ける。特に、実力が拮抗状態であれば尚更」


 複数人で襲いかかる門下生から目を離さず、されとて余裕を保ちながら柳生は講釈を垂れる。

 彼らは間合いを図っているようだ、ジリジリと距離を詰めつつタイミングを調べ。

 次の瞬間、一気に攻めにかかる。


「とは言え基本的にソレは同じ力量同士の話、良くも悪くも圧倒的に差がある場合は極まった何かがモノを言う。私の場合は速度さね、圧倒的な抜刀術があるからこそ大抵の差は消し潰せる」


 だが、その攻撃は意味をなさない。

 柳生は足で軽く地面を叩き、次の瞬間には襲いかかってきた彼らの手を打ち据えた。

 全員、剣を取りこぼす。

 彼らと彼女の間にある実力差は、あまりにも大きい。


「全く、不甲斐ないさね。ソレでも私の門下生さね? コレじゃ、キャメロットの小僧っ子らも加えた方がよっぽど練習になる」

「師匠、気が立っているのは分かりますがその言い方は辞めた方が。誰かと比較するというのは詰まり、誰かを貶す事に他ならないですよ」

「分かってるよ、だけど腑抜けすぎさね。ここにいる全員、闘技大会に出るんだろう? ソレなのにやっていることは全員私の猿真似ばかり。自分が磨いた剣の腕を信用できず身近に見える強さを模倣している、戦いの直前にそんなことをしたって無意味さね。勝ちたいのなら、まずは自分を信じるべきだよ」


 そう長く語るクチじゃ無いと愚痴りながら、柳生は刀を納刀した。

 地面に倒れている門下生をジロっと睨み、そして話しかけてきた男の方を見る。

 両腰に刀を差した、独特なスタイルの男だ。


「そして玄信(はるのぶ)!! アンタはアンタで独特すぎるさね!! お婆ちゃん毒の使用は認めた覚えはないよ!! 戦いは苦無までっていたさね!!」

「お婆ちゃん、という柄でもないでしょうに……。それにしても、村正さんが紹介してきたんでしたっけ? 彼女。なかなかに筋がいい、スキルを用いた戦闘では僕の刀を避けてました。今は型を教えていますが……、師匠が戦ってみますか?」

「んー、どうしようか。私の斬撃を受けるには少しばかり荷が重いだろう、だがそこまで出来るのなら私が教鞭を振るうのも良いさね」


 そう言いながら、少し離れたところで木偶相手に木刀を打ち込んでいる彼女の姿を見る。

 柳生と出会い、2日ほど経過した。

 たったその少しばかりの時間で、彼女の実力は大きく飛躍し今ではトッププレイヤーに追い縋れるほどにまで至っている。

 勿論、勝つためには様々な工夫も必要だが……。

 ソレでも、2日前までと比べれば間違えるほどに強くなっただろう。


「すこし、呼んでくれるかい? 術理というものを改めて説こうと思ってね」

「そういうと思ってましたよ、師匠」


 砂利の上を静かに歩きながら、型通りの動きを行うましゅまろを呼びに行く。

 ここは武家屋敷のような血盟(クラン)ハウス、『剣聖』柳生(やよい)の居城にして彼女のファンクラブの拠点。

 グランド・アルビオン王国の王都内に存在する巨大な屋敷であり、道場でもある。


 柳生は縁側に腰掛けながら、暫しの間物思いにふける。


 かつての戦争で、彼女は確かに一人の人間(バケモノ)と戦った。

 彼の剣は実直であり、また等しく最強だった。

 その男はあまりにも強く、理知外の存在であり。

 ただしく絶望でありながらも、柳生の剣技が届き得た存在だった。


「名を確か、レオトール・リーコス」


 飽和するように消える、あの男の怪物性は口にすることなどできない。

 剣を交えたからこそわかる、だからこそ死したことがこれ以上なく口惜しかった。

 柳生はその生涯総てを剣技にささげ、音速を超える抜刀術に至ったが。

 それは人間の限界を超えた偉業であっただけ、柳生自身が至れる究極にして極限には未だ至っていない。


 あの男は、その座に至っていた。


 剣に、戦いに、闘争に。

 あるいはこれ以上なく穢すことのできない、誇りに。

 甘美なほどに体が戦いを欲する、本来の肉体は老齢であり没す直前でありながらも。

 このゲーム世界でのみかつての全盛をとりもどしたその体躯は、甘露な情欲の闘争を求める。

 殺したい、倒したい、至りたい、切り裂きたい、切り裂いて切り裂いて。


「ハハハ、バカみたいな話さね。その結果にたどり着くのは、ただの殺人鬼だよ」


 乾いた笑みが頬を上気させる、そうであるのならばどれ程良かったか。

 剣に至りたいという一心で、世界に対して二心を働けれればそれはこれ異常なく容易く至れた極限だろう。

 けれども、柳生の精神性は老熟してなお人間の形を保っている。


「すいません、今戻りました」

「どうも、お久しぶりです」


 黄昏ている中で、声を掛けられた。

 意識が一瞬で切り替わる、どこかに憧れ憧憬しけれども拒絶していた剣士はもはやそこにいない。

 そこにいるのは『剣聖』柳生とよばれる、最高の剣士だ。


「さて、早速だが。稽古と行こうじゃないか、随分と剣を振るったんだろう? なら恐れずに剣を向けてきな」


 ニヤリと、挑発的な笑みを浮かべる。

 奥にひそめる感情に、気づかれまいとするように。


 笑顔とは、ある種の悪意である。

 無垢なる感情をむき出しにした鋭い刃のように、他者を無意図に害し。

 あるいは他者を無意識に欺く、悪意である。

 そして等しく、恐怖でもある。


 怯えている、何かに。

 自分自身に対して怯えている、剣聖とささやかれる絶対性を持ちながら怯えていた。

 それは自分の名声を失うことか、自分の名誉が零落することか。

 いいや、そんな俗世の在り来たりな渇望などに左右される感情を老齢たる柳生は持ちえない。

 だからこそ、感情という情動が石のように枯れていくのを自覚してだから怖いのだ。

 その先に立っていた、怪物を知って増々と。

 怖いからこそ強がり、笑みを浮かべ余裕を騙るのだ。


「よろしく、お願いしますっ!!」


 ましゅまろの言葉をきき、柳生は満足に頷いた。

 感傷は、剣に乗せるべきではない。

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